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ITによって非効率を量産する愚

 言うまでもなく、デジタルの時代を迎えるに当たってIT関連の技術者は日本にとって極めて重要な“希少資源”だ。今でも技術者不足だが、これから先には大幅に足らなくなる。海外から優秀な技術者が大勢やって来てくれる見通しが全く立たない日本においては、自前で優秀な技術者を多数育てて、様々な領域で活躍してもらわなければならない。にもかかわらず、同様に「技術者が足らない」と騒いで貴重な人材を吸い込んでいるのが、イミテーションのIT業界だ。

 この話は何度も書いているので、あまりくどくどと書かないが、とにかく人月商売は非効率の極みであり、技術者という希少資源の無駄遣いそのものだ。大元のユーザー企業の問題をとりあえず横に置いて話を進めるが、ERP(統合基幹業務システム)をそのまま使えば済むような基幹系システムであっても、スクラッチ開発やERPのアドオン開発に膨大な数の技術者を投入する。以前ざっと試算してみたが、これでERPソフトそのものを作る工数に比べて1万倍の人的な無駄遣いが生じる。

 例えばERPの特定機能について1人の技術者がコードを書いたとしよう。この機能が業務遂行上で不可欠な場合、それぞれの企業が独自開発したシステムにも同じ機能が作り込まれているはずだ。仮に1万社が独自にシステムを開発したり、ERPを導入してもその部分をアドオンで別途加えたりしていれば、延べ1万人の技術者がそのコードを書く計算になる。ちなみに日本では大企業だけで1万2000社あるそうだから、1万という仮の数字はあながち的外れではないだろう。

 さらなる問題はその後だ。システムの保守運用を請け負った人月商売のITベンダーは、ユーザー企業の要望に応じて客先に技術者を常駐させてシステムの改変作業などを続けさせている。金融機関などの客先には膨大な数の技術者が張り付いているが、その作業は独自システムに相対するため、これまた非効率の極みだ。大手金融機関の中にはプログラムを1行変えるだけで、影響調査なども含め2カ月かかるというひどい例もある。

 しかもITベンダーはユーザー企業の求めに応じ、若手技術者を非効率の極みにある保守運用の現場に逐次投入する。特に、高い料金を出すのでITベンダーにお得意様である金融機関にはいまだに大量のCOBOLプログラムが残っている。当然、若手技術者は「コボラー」を強いられる。しかも仕事は客の言う通りにシステムを手直しする人月商売だ。もう一度言うが、技術者が圧倒的に足りないご時世だぞ。それなのに将来有為の若者にそんなくだらない仕事をさせて、どうするつもりなのだ。