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【社説】

外国人実習生 人権侵害を続けるな

 一緒に働く仲間としての待遇だとはとても思えない。外国人技能実習生が残業代支払いを求めた訴訟で明らかになった労働実態は人権侵害の典型例だろう。いつまでこんな受け入れを続けるのか。

 働く仲間として迎えられないのなら、技能実習制度は廃止の議論をすべきではないか。

 確認しておきたい。

 技能実習制度は、外国人を日本の企業や農家などに受け入れ学んだ技能を母国で役立ててもらうことを目的とする。現在、実習生は約二十七万人いる。

 ただし、労働法制上は雇用される労働者と認めて保護している。労働時間規制を受けるし最低賃金も守らねばならない。労働災害に遭えば補償も受けられる。

 だが、多くは安価な労働力として単純な作業に就いているのが実態である。

 以前から、低賃金や長時間労働、暴行・脅迫、十分な安全教育がないことによる労災などが問題になっている。人権侵害が国際社会からも問題視されている。

 実習生として五年前、茨城県内の大葉農家で働いていた中国人女性の訴えは氷山の一角だろう。日中の勤務後、夜間に大葉を十枚ずつゴムで束ねる作業を一束二円でやらされていた。九日の水戸地裁の判決はこれだと時給四百円にしかならず残業代の未払いがあるとしてその支払いを命じた。

 農家からのセクハラ行為への損害賠償請求は棄却された。女性の訴えではセクハラ被害も日常的で悪質である。女性のショックは計り知れない。

 実習生は転職が難しい。しかも多くは来日を仲介する業者に保証金や手数料を払っている。職場放棄すれば保証金が没収されるなどするため、人権侵害に遭っても声を上げづらい。女性も約七十万円を払っていたという。やむにやまれず職場を離れる人は今年半年で四千人を超えた。制度の欠点だ。

 政府は昨年、人権侵害への罰則や監督の強化を盛り込んだ技能実習適正化法を施行した。だが、この欠点は改善されていないのではないか。監督も十分に行き届いていないようだ。

 政府は新たな在留資格を設ける方針だが、実習制度を温存したままでは理解に苦しむ。

 制度を廃止し、その上で外国人をどう受け入れていくのか、社会保障や教育、住宅政策なども含め中長期的な視点で検討すべきだ。来年四月からの新制度スタートはあまりに急ぎすぎている。

 

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