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【社説】

就活ルール 学生の力生きるよう

 就活ルールをどうすべきか。経団連会長が提起した議論は混乱を避け当面、現状維持となった。大企業の論理ではなく、多くの学生が適材適所で力を発揮できる広い視野でのルール作りが必要だ。

 二カ月前、「経団連が就活ルールを廃止」と新聞各紙が一面トップで報じた九月四日朝、反響の大きさに中西宏明会長自身も驚いたのではないか。

 「ルール廃止」が広げた波紋は、新卒一括採用、終身雇用といった日本の雇用慣行が学生、親、企業、社会にいかに深く根ざしているかを示している。

 十月末に開かれた経団連、大学も加わった政府主導の関係省庁連絡会議では、混乱が起きないように今の大学一年生まで「六月採用面接、十月内定」という現行ルールを維持する方針を確認。中長期的な雇用制度全般については政府の未来投資会議で議論し、年末までに中間報告をまとめることになった。

 結論の先送りともいえるが、中西会長の問題提起で今後の検討につながるさまざまなアイデア、長所や短所が論じられている。

 例えば、グローバル競争に直面する大企業に要望の強い「通年採用」は、実績や能力のある人材を適宜、採用できるが、職業経験の乏しい若者の失業につながる。

 新卒一括採用は終身雇用と一体で安定、安心につながるが、卒業時にチャンスを逃すと、低賃金の非正規雇用につながる恐れがある。一部の企業で実施している新卒採用と通年採用の混合型や、卒業後五年までの既卒者を新入社員として通年採用するといった案なども盛んに論じられている。

 百年に一度と言われるデジタル革命の大波の中にいる産業界の焦燥は理解できるが、優秀な学生をルールなしで取り合う「強者の論理」でこれまでの雇用慣行が崩れれば、日本企業が大切にしてきた労使協調が揺るぎかねない。

 何より、能力の高い学生だけではなく、地道に勉強に取り組み職業や将来について考えてきた多くの学生が、それぞれに職を得て活躍できる採用のルール作りが求められる。経済は大企業だけで成り立っているわけではない。それを支える中小企業の採用への影響、目配りも不可欠だろう。

 会社のありようも働き方も多様になっている。まずは現行のルールを維持するにせよ、硬直化は挑戦を封じてしまう。学生の立場を踏まえつつ現実的な答えをみつけるしかない。

 

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