「問題はこれで終わりにする」という社長の言葉を誰が信じるのか。SUBARU(スバル)が国への報告後も検査不正を続けていた。自浄作用は期待できず経営体制を根幹から見直すべきだろう。
中村知美社長は今年六月、前任者が無資格検査や排ガス・燃費データ不正で引責辞任した後、立て直しを託され就任した。だが営業畑が長い中村社長が「経営と現場との乖離(かいり)があった」と認めているように、生産現場との対話という立て直しに不可欠な過程を現経営陣は十分踏んでいなかった。指示は現場に伝わったとはいえず、「昨年末に終わった」はずのブレーキ関連の検査不正は、先月まで行われていた。
スバルは昨年度の世界販売が約百七万台で二〇〇八年度と比べ倍増した。中村社長は「急成長のひずみがあった」と発言。生産が需要に追いつかず検査がおろそかになったと弁解した。出荷時期に間に合わせるため、現場の検査員が次第に追い詰められていく姿は想像に難くない。
ただ、最初の不正発覚は昨年の十月だ。日産自動車や神戸製鋼所、日立化成、KYBなど幅広い業種でも検査不正が次々見つかり社会問題化した。ここまで反省の機会があったなら、「あつものに懲りて膾(なます)を吹く」状態となり、逆に検査の行き過ぎさえ指摘されるほど対策を徹底するのが、日本企業の本来の姿ではなかったのか。
〇四年、東京証券取引所は上場企業に四半期ベースで決算を開示するよう求めた。これ以降、経営者が足元の利益ばかり追求するようになったとの指摘がある。スバルに限らず、好決算を目指すあまり、製品の安全管理を軽視する流れはもはや国内企業全体に広がっている恐れがある。もちろんメーカー任せの完成検査についても批判はある。しかし、ルール改正に向けた議論とルール無視はまったく別である。
スバルはかつての航空機メーカー中島飛行機を源流とし、技術へのこだわりが強いとされる。そのスバルが安全をおろそかにした。「スバリスト」と呼ばれる支持層は裏切られた思いだろう。
それだけではない。米政権は貿易不均衡を問題視し日本企業を標的にする気配をみせる。輸出企業であるスバルの不正は一メーカーの問題にとどまらない。相次ぐ不正の温床は、利益至上主義に過度に傾斜する企業経営者たちの姿勢にある。一連の不正を企業哲学を見詰め直すきっかけとしたい。
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