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【社説】

高市氏の私案 国会の機能を弱めるな

 全国民を代表する国会の立法、国政の調査機能を強化するのならまだしも、高市早苗衆院議院運営委員長が目指す改革は、逆に国会を弱体化させかねない。考えを根本的に改めるべきではないか。

 開いた口がふさがらない。高市氏が先月二十五日、自民党の小泉進次郎厚生労働部会長ら国会改革を求める超党派議員に示した「私案」である。「議院運営委員長として実現を目指す事柄」と題する文書で政府提出法案の審議を優先し、議員提出法案の審議や一般質疑は「会期末前に残った時間」を充てるとの考えを示した。

 「審議の充実」や「議員立法の増加」を掲げてはいるが、政府提出法案の審議に協力しなければ、野党提出法案を審議する時間がなくなるぞ、と脅すも同然である。

 憲法は国会を唯一の立法機関と定める。政府提出法案の審議とともに、議員自らが必要な法律を制定する重い役割を課したものだ。

 しかし、国会では政府の法案審議が優先され、議員立法、特に野党の法案が成立する例は極めて少ないのが実態だ。七月に閉会した通常国会では原発ゼロ基本法案や児童虐待防止法の改正案など野党の法案は審議すらされなかった。

 議員立法の増加を目指すなら、政府提出法案よりも与野党に関係なく議員提出法案の審議を優先させるべきではないか。高市氏の私案は憲法の趣旨に逆行する。国会は政府の下請け機関でないことをあらためて自覚すべきだろう。

 国会が持つもう一つの機能が、国政の調査だ。憲法は衆参両院に「国政に関する調査」を行い、証人の出頭や証言、記録提出を要求できる権限を与えている。

 とはいえ国会がこの機能を十分に果たしているとは言い難い。改革するのなら、国政の調査や行政監視の機能を強化すべきだが、高市氏は、法案以外の課題全般を議論する一般質疑は会期末前の残り時間でやれと言う。そんなことで国会の役割を十分に果たすことは難しい。考え違いも甚だしい。

 高市氏の「改革」の狙いは、野党の質問時間を減らし、追及を封じ込めることにあるのではないかと疑われても仕方がない。

 野党側の反発で、高市氏は私案を撤回したが、「改革の気持ちは変わらない」とも述べている。今後、自らの立場を利用して強引に進めることがあってはならない。

 円滑な運営に努めるべき議運委員長自らが本会議開会を四十五分遅らせる原因をつくった。その責任の重さも痛感すべきである。

 

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