感染症である風疹の流行が拡大している。高熱や発疹などの症状のほか、特に妊娠中の女性が感染すると障害のある子どもが生まれる可能性がある。家庭や職場、社会全体で感染拡大を防ぎたい。
政府は東京五輪・パラリンピックが開かれる二〇二〇年までに風疹の排除を目指している。ならばワクチン接種費用を無料化し、積極的に感染を抑え込む姿勢が求められる。
国立感染症研究所によると、今年初めから十月までに報告された患者数は千五百人に迫る。
九十三人だった昨年一年間の十六倍に達している。患者の発生地域は東京、千葉、神奈川、埼玉、愛知などの都県で多い。
風疹はウイルスによって引き起こされる感染症だ。免疫のない集団では一人の患者から飛沫(ひまつ)で五~七人に広がる強い感染力がある。成人が発症すると高熱や発疹、関節痛など重症化することがある。
特に、免疫が不十分な妊娠初期の妊婦が感染すると、胎児に感染し難聴や心臓病、白内障など先天性風疹症候群(CRS)の子どもが生まれる可能性がある。感染被害は小さくないと認識したい。
かつてはほぼ五年ごとに流行していたが、海外で感染して帰国する輸入例が目立ち始めた一三年には一万四千人を超えた。この時期の流行で四十五人のCRSが報告されている。
感染症の防止策はワクチン接種だが、妊婦は受けられない。注意すべきは、感染しても症状の出ない人がいて、家庭や職場で無自覚に感染を広げてしまうことだ。だから周囲も一緒になって感染防止に努める必要がある。
患者の約七割は三十~五十代の男性である。この世代の男性の多くは子どものころ定期予防接種の対象外だった。免疫のない人は約五百万人いる。この世代の接種を進めることが不可欠になる。
国は五千円ほどの抗体検査費用の補助対象をこの世代にも広げる予定だ。ただ、検査の奨励だけでは不十分だろう。約一万円の接種費用も無料にするなどの踏み込んだ支援が要るのではないか。
企業にも役割はある。検査や接種の有無を確認したり、海外出張者には接種を促すことはできる。定期の健康診断で抗体検査を実施するやり方もある。
米疾病対策センターは、予防接種や感染歴のない妊婦は日本へ渡航しないよう呼びかけた。国際社会への責任もある。感染を封じ込めたい。
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