安倍晋三首相は日本の首相として七年ぶりに中国を公式訪問し二十六日、中国の習近平国家主席、李克強首相と会談した。日中関係改善の基調を確かなものにする節目としてほしい。
日中首脳は、両国関係をより安定した段階に引き上げることで合意した。アジアをリードする対等なパートナーとして、協調して歩みを進める契機である。
一九七二年の国交正常化以降、両国指導者は折にふれ「一衣帯水の隣人」と親密ぶりを強調してきた。残念ながら近年は「よき隣人」とは呼べない関係が続いた。
今年は両国が「不戦の誓い」ともいうべき日中平和友好条約を、結んで四十年の節目にあたる。
尖閣問題をきっかけに冷え込んだ関係を、完全な改善軌道に戻す好機を逃してはならない。
安倍首相の訪中で日中両国は、民間企業による第三国でのインフラ事業を推進することを確認したほか、今後五年間で計三万人の青少年相互交流を目指すことでも一致。海難事故の際の協力体制を定めた「海上捜索・救助協定」を締結したほか、朝鮮半島の非核化に向け緊密に連携していくことでも合意した。
尖閣問題がトゲとなる以前の落ち着いた関係に戻すため、まずは経済、若者交流を中心に実利的な協力を進めることは評価できる。
安倍首相は、中国の近代化を四十年にわたり資金面で支えた政府開発援助(ODA)を本年度で終了することを伝えた。中国側が「中国の改革開放や経済建設に積極的な役割を果たした」と率直に謝意を示したのは、信頼醸成への本気度の表れと受け止めたい。
だが、日中間の不信の元凶となっている領土主権、歴史問題の解決はこれからである。中国公船は今年に入っても、十月下旬までに二十回近く、尖閣周辺の日本領海侵入を繰り返している。
米中貿易摩擦によるダメージもあり、中国が周辺外交重視の一環として日本との関係改善に傾斜したとの側面は否定できない。
とはいえ、両国首脳が笑顔で握手できる環境に立ち戻ったことは心強い。会談を両国首脳間で真の信頼関係を構築していく重要な節目にしてほしい。
日中間では、双方の指導者が国内での求心力を高めるため、「反日」や「中国脅威」などを自国に都合よく利用してきたことは否定できない。そうした不毛な歴史を繰り返してはならない。
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