眠っていた資金を困った人のために使う新制度が始まる。十年間、出し入れのなかった休眠預金を社会的な課題の解決に生かす試みだ。ただ、ここにきて雲行きが怪しくなっているのが気掛かりだ。
財政状況が厳しい中で「税金を使わずに、苦境にある人々を助けられないか」-政府や自治体でなく、民間が公共を担う「新しい公共」という高邁(こうまい)な精神が出発点だった。旧民主党政権時である。
休眠預金の活用自体は世界で広く行われている。欧州で第二次大戦の犠牲者の預金取り扱いから発展し、英国が近年、福祉基金をつくったのはその代表例だ。
日本では全国の金融機関で毎年約千億円の休眠預金が発生している。預金者が死亡したり、忘れてしまったりしたのが原因だ。
これまで休眠預金は金融機関の実質的な収益となってきたが、そのことへの批判もあった。超党派の議員立法による「休眠預金等活用法」が今年一月に施行され、来年一月一日から休眠預金は預金保険機構に移管する。
問題は、その先の運営体制にある。休眠預金は、新設する一般財団法人「指定活用団体」に必要額を交付し、その後、地域の実情に詳しい複数の資金分配団体を通じて各地のNPOなどに貸し付け・助成される。
運営の司令塔役となる指定活用団体の選定が制度全体を大きく左右するといっていい。公募に応じた団体の中から来月、安倍晋三首相が選定することになっているが、内閣府は応募団体名を公表していないのである。
今夏に設立趣意書を明らかにした経団連主導の組織に決まれば、それこそ密室での出来レースではないか-NPOなどからはそういう疑念の声が強まっている。
それ以上に、実際に活動にあたるNPOを選定する基準が依然として見えてこない問題がある。眠った資産とはいえ国民の私有財産を活用する以上は、NPOに目指す成果やその達成度合いの評価が課されるのは当然ではある。
とはいえNPOの助成対象となる活動は子供や若者、生活弱者や社会的に困難な状況にある地域の支援だ。それらは数値化したり、短期間で評価したりするにはそぐわず、実態に合わせ慎重に判断することが必要なはずだ。
財源を十分に充てることができなかった社会的課題に民間の知恵と工夫を集める。そんな市民の純粋な社会貢献活動を歪(ゆが)めることがないよう公平公正さを求めたい。
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