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【社説】

首相所信表明 長さゆえの慢心戒めよ

 九月の自民党総裁選で連続三選を果たし、歴代内閣最長の在任記録も視野に入る安倍晋三首相。在任期間の長さゆえの慢心はないのか。常に戒めながら、謙虚で丁寧な政権運営に努めるべきである。

 臨時国会がきのう召集された。会期は十二月十日までの四十八日間。首相が最後の三年間、日本の舵(かじ)をどう取ろうとしているのか。所信表明演説はそれを語り尽くしたとは言い難い内容だった。

 内政のキーワードは「新たな日本の国創り」だろう。本格的な人口減少社会にどう対処するのか。演説からは、未来を担う子どもたちや子育て世代にも大胆に投資する全世代型社会保障の実現と、外国人材の受け入れを柱とする安倍内閣の方針はうかがえる。

 高齢世代に限らず現役や将来世代も安心できる社会保障制度に異議はないが、演説では将来不安の要因である深刻な財政状況に触れずじまい。財政健全化の意思があるのなら明確に語るべきだった。

 外国人材受け入れは説明だけでなく、議論が根本的に足りない。専門性や技能で新しい在留資格を設けるというが、自民党政権が否定してきた移民政策とどう違うのか。外国人材の流入に伴う社会不安や摩擦が起こらないかなど、議論すべき論点は山積している。

 野党側が、改正法案を「重要広範議案」に指定し、首相の委員会出席を求めるのは当然だ。審議が尽くされないのなら、臨時国会での法改正を急ぐべきではない。

 外交では「戦後日本外交の総決算」を掲げた。残り任期の三年間で、北朝鮮による拉致問題やロシアとの北方領土交渉など冷戦時代の残滓(ざんし)とも言える懸案を解決する意欲の表れだろう。その決意は了とするが、解決は容易ではない。進捗(しんちょく)状況を国民に率直に説明し、理解を求めることも必要だ。

 政権運営の前提は政治への信頼である。首相は「長さゆえの慢心はないか」と自省する姿勢を見せる一方、「長さこそが、継続こそが、力である」とも語った。

 「山高きが故に貴からず」という言葉がある。人間は外見でなく実質が伴ってこそ価値があるという教えだ。同様に、在任期間が長いゆえに貴いのではない。重要なのは政治の中身である。

 首相は演説で「常に民意の存するところを考察すべし」という、初の平民宰相、原敬の言葉にも触れた。国民の声に真摯(しんし)に耳を傾けて、国民のための政治の実現に努めているか。常に自問し、長期政権の緩みを戒めることが必要だ。

 

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