英国の欧州連合(EU)離脱交渉が行き詰まっている。合意のないまま来年三月、離脱する恐れが現実味を帯びる。打撃は多岐にわたる。民意の問い直しも視野に入れてはどうか。
英国とEUは十七日の首脳会議で、離脱条件について合意することができなかった。EUを離脱すれば、英国領の北アイルランドと地続きのEU加盟国アイルランドとの間でも、自由な行き来ができなくなり、北アイルランドの帰属を巡る紛争が再燃する恐れがある。
EUは北アイルランドをEUの関税同盟に残すよう要求、英国は国が分断されるとして反対するなど、両者のさまざまな対立の溝は埋まっていない。
無秩序な「合意なき離脱」の影響は、外国企業撤退などの経済面だけでなく、社会全般へと広がることも明らかになってきた。
例えば、EU加盟国への航空便乗り入れ協定も結び直さなくてはならず、ペット連れの旅行にもいちいち許可が必要になる。
英国とEUとの間でデリバティブ(金融派生商品)や保険などの金融取引ができなくなる懸念もある。英中央銀行によると、四十一兆ポンド(約六千兆円)もの決済に問題が生じかねない。
通関で物流も滞るため、配給制になるのではとの不安も広がり、家庭での食料や医薬品の備蓄も始まっているという。
EUは合意の最終期限をクリスマスまでと切った。EUと合意できたとしても、与党、保守党内強硬派などが反対し議会承認が得られない可能性もある。「合意なき離脱」に陥るリスクは大きい。
最大野党、労働党は先月の党大会で、EUとの離脱協定が成立しなかった場合、二回目の国民投票実施も選択肢とする、との決議を採択した。
ロンドンで二十日開かれた再投票を求めるデモには、約七十万人が参加したという。
メイ英首相は「国民の意思は既に示されている」として再投票をあくまで拒否する。しかし、もっと柔軟に考えてはどうか。
二年前の国民投票では「移民が社会保障を食い物にしている」など根拠ないキャンペーンに引きずられた投票を、後悔した人も多かったはずだ。
改めて民意を問うこともタブー視せず、議会をまとめるリーダーシップを発揮してほしい。
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