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【社説】

週のはじめに考える 米中の衝突を避けよ

 のし上がった新興国の挑戦を超大国が受ける。米中の覇権争いは「新冷戦」と呼ばれるほど戦線が拡大しています。衝突を避ける知恵と努力を望みます。

 それは貿易戦争という形で顕在化しました。巨額の対中貿易赤字に怒ったトランプ米大統領は三次にわたって対中制裁関税を発動しました。

 中国が経済成長を続けるには安定した対米関係が不可欠。経済成長が滞れば国民の不満は高まり、共産党独裁体制を揺るがします。

◆AI制する国が世界を

 米国は中国のハイテクたたきにも躍起です。標的は習近平政権の看板政策「中国製造2025」。中国建国百周年の二〇四九年までに「製造強国」の先頭に立つべく、人工知能(AI)はじめ次世代情報通信技術、航空・宇宙技術などの最先端技術の振興を国家ぐるみで進めるというものです。

 「AIを制する国が世界を制する」(プーチン・ロシア大統領)と言われるように、最先端技術は世界覇権の行方を左右します。

 米国は中国ハイテク企業の米市場からの締め出しにも乗り出しています。

 両国は台湾問題や南シナ海問題でも激しく対立し、覇権争いは安全保障にまで広がりました。

 米国は台湾への武器供与を拡大し、米メディアによると、台湾海峡でも演習を検討しています。

 中国が軍事拠点化を進める南シナ海では九月、「航行の自由作戦」を実施中の米艦船と、中国軍艦が異常接近しました。偶発的な衝突の懸念される事態です。

 ペンス米副大統領は十七日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の関連会合で、中国の一帯一路構想に対抗し、インド太平洋地域のインフラ整備へ積極的に乗り出す姿勢を示しました。そのために最大六百億ドル(約六兆八千億円)の融資枠を用意しました。

 米中は国際会議の舞台でも火花を散らしています。

◆価値観のせめぎ合い

 太平洋の両岸に位置する両国の関係史を振り返ってみます。

 十九世紀後半に始まった帝国主義時代、列強が清朝の中国分割を進める中にあって、米国は例外的に中国領土を占領することはありませんでした。米中関係は比較的良好な時期が続きました。

 ところが、中国の国共内戦を経て、中国の人民義勇軍と米国主体の国連軍が戦火を交えた朝鮮戦争(一九五〇~五三年)を機に、決定的な対立関係に入りました。

 転機は七二年の故ニクソン米大統領による訪中です。米国務省が公開した外交文書に、訪中を目前にしたニクソン氏と、キッシンジャー大統領補佐官の協議録があります。当時は東西両陣営がにらみ合った冷戦時代でした。

 キッシンジャー氏は「ある歴史的時期において中国はロシアより手ごわい。二十年後の大統領があなたほど賢明ならば、中国に対抗するためロシア寄りの姿勢をとるだろう。だが、向こう十五年間は中国寄りになってロシアと対抗すべきだ。われわれは力の均衡のゲームを冷静にやらなければならない」と主張しました。

 この希代の戦略家は今、対ロ関係の修復を模索しています。

 経済力を武器に世界で影響力を広げる中国。経済支援と引き換えに人権改善や政治・経済改革を要求する欧米と違い、他国の内政に干渉はしません。それが途上国を引きつけます。

 習近平総書記も昨年の共産党大会で「発展の加速と独立を望む国・民族に新しい選択肢を提供する」と誘い水を向けました。

 さまざまな価値観が世界にひしめき合う時代です。それが微妙なバランスをとって初めて平和は保たれます。

 米国は中国との均衡を図るために、価値観を共有する同盟国、友好国とのきずなを鍛える必要があるはずです。

 ところがトランプ氏は自由、民主主義、人権という価値の普遍化を進めた米国の試みを放棄したばかりか、同盟を軽視しています。

 それに米中の経済的な相互依存関係は深い。冷戦時代、米国が旧ソ連にしたような封じ込め政策を中国にしようとしても無理です。

 米中に挟まれた日本にとって、この両大国とどんな間合いをとるかは難しい国家課題です。

◆外交カードを増やせ

 米国をあてにできたのは昔のことです。対米依存を減らす一方、可能性を広げるために手持ちの外交カードをできるだけ増やさなければいけません。

 中国とは摩擦を最小限に減らすべきです。中国が対日関係改善に向いた機を逃さず、十月に安倍首相が訪中したのは時宜にかなっていました。両大国の確執の余波をできるだけかわす工夫が日本には必要です。

 

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