短編小説   作:重複
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あるプレイヤーのルート

敵対ルート

 

最初に思った事は「何故」だった。

 

その感情は「裏切られた」だった。

 

 

そのプレイヤーはギルド「アインズ・ウール・ゴウン」を知っていた。

 

まだ彼の集団の名前が「ナインズ・オウン・ゴール」だった頃、初心者で異形種のアバターを使用していた為にPKにあっていたところを助けられた。

 

その後、PKKギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルド拠点ナザリック地下大墳墓へ1500人で攻め込んだ時に、その中の一人にもなった。

 

別に本気で拠点を落としたかった訳でも、助けられた後に他のギルドから嫌がらせを受けた事に逆恨みをして、という訳でもない。

 

ただ単純に、彼らのギルドを見てみたかったのだ。

 

本当は彼らのギルドに入りたかった。

しかし、自分は度重なる異形種狩りに嫌気がさして、アバターの種族を人間種に変えていた為に、加入することはできなかった。

 

誰だって、嫌なことがあれば、それを回避しようとするだろう。

 

たかがゲームだ。

アバターの種族を変更すれば、そんな理不尽(異形種狩り)にあわなくて済むのなら、そちらの方が楽だろう。

 

そんな風(自分のよう)に、安易に自分の在り方を変えない彼らを「すごい」と思っていた。

 

感心して尊敬して、憧れた。

 

人に言えば面倒な事になるため、言葉にした事はなかったが。

 

だから、難攻不落と名高いギルド拠点(ナザリック地下大墳墓)の内部を見ようと思えば、敵として攻め込む以外にない。

 

そして、1500人もいれば、それなりに奥まで見ることができるかもしれないと考えたのだ。

 

碌に戦闘には参加せず、後から着いていくような参加だったが、作りこみの凄まじさに圧倒された。

 

よくここまで作ったものだと、改めて感心した。

 

自分は六階層で植物に捕まり、魔獣に止めをさされる形で終了となった。

 

そこより先の階層は、別に攻め込んだ者のあげたムービーを見て知った。

 

作りこみもすごかったが、1500人を撃退できるギルド拠点の防衛力にも驚き感心した。

 

やはり彼らはすごい集団なのだと、思いを新たにしたものだ。

 

 

その後、「ユグドラシル」といういうゲームが衰退し、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の活躍(悪役ロール)も下火になった。

ギルドメンバーもその数を減らしていると知った。

 

それでも、ギルド拠点が存在しているということは、誰かが維持しているはずだ。

 

何人残っているのか調べたことは無いが、あの規模のギルド拠点を維持できる程度には残っているのだろう。

 

そこまでこの「ユグドラシル」というゲームが好きなのだと思うと、また「すごいなあ」と思えた。

 

自分はすでに退会して、流行り物のゲームに移っていたから。

 

楽な方へと流され、「好き」を維持していく気力に乏しい自分とは違うと思ったものだ。

 

 

だから、「ユグドラシル」が終了すると知った時、新たにアカウントを取り、新しいアバターを作ってゲームに入る事にした。

 

選んだのは異形種のアバターだ。

 

ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」が気になって戻るのに、それ以外の種族のアバターを選ぶ気にはなれなかった。

 

そして最終日。

 

レベルは50近くまでしか上がっていない。

 

単純にグレンデラ沼地を踏破するのに必要な最低レベルというだけだ。

 

それも戦闘の為では無く、沼地の状態異常を避ける為のアイテム装備の為だ。

 

最終日という事で、いろいろなアイテムが格安で手に入ったのがありがたかった。

おかげでイベントリーが充実した。

 

本当にいろいろな物が売っていて、「本当に最終日なんだなぁ」とより一層実感してしまい、寂しさも強く感じたが。

 

 

それにしても「ユグドラシル」というゲームの、お金もレベルもばんばん入る仕様は、こういう時に助かる。

 

なにしろここ(グレンデラ沼地)は「紫毒の沼地」にあるのだから。

フィールド自体が危険な罠地帯であるのだ。

 

最終日には全てのアクティブモンスターが、ノンアクティブ化している。

だから、レベルが80前後のグレンデラ沼地のモンスターと戦闘の必要も心配も無い。

 

あえて心配するなら、最終日にまでPKをしているプレイヤーの存在だろう。

 

なにしろ、運営自体がPKを推奨しているようなものだ。

 

PKをしなければ取れない職業。

PKをしなければ取れない魔法。

PKをしなければ取れないスキル。

PKをしなければなれない種族。

 

特別な、あるいは強力な「何か」を得るにはPKを前提としている事が多い。

 

この「ユグドラシル」というゲームで、PKをした事がないプレイヤーがどれほどいるのだろうか。

 

「あった」

 

記憶の通りに、目的地のギルド拠点「ナザリック地下大墳墓」のある島が遠目に見えた。

種族特性やアイテムのおかげで視界は良好の為、迷うことはない。

 

 

そして――

 

「何だ、あれ」

 

沼地に浮かぶ島の一つに、何かが置いてある。

 

近づいてみると、そこには円筒形の筒のような物が大量に島を埋め尽くすように並べてあったのだ。

 

「――花火、だよな」

 

店売りされていたのを見たことがあるので、その正体はすぐにわかった。

 

わからないのは、何故こんなところに大量の花火が並べられているのか、である。

 

「トラップ、て訳でもない」

 

しばし考え、正解と思う考えを言葉にしてみる。

 

「『アインズ・ウール・ゴウン』が用意したのか?」

 

最終日に花火を打ち上げているのは、他のワールドなどでもよく見た光景だ。

この暗く霧の立ちこめたヘルヘイムでは、あまり見栄えがよくないかもしれないが、雰囲気としては悪くない。

 

「じゃあ、『アインズ・ウール・ゴウン』の誰かがここ(島)に来るのか?」

 

多分、この考えに間違いはないだろう。

ここで待っていれば、『アインズ・ウール・ゴウン』の誰かに会えるはずだ。

できれば「ナインズ・オウン・ゴール」の頃から居るメンバーが来てくれると嬉しい。

 

PKから助けられた時に言えなかったお礼を言いたいのだ。

なにしろ初めて会った時は、別のPK集団だと思い込んでしまい、自分はそのまま逃げてしまったのだから。

 

我ながら、もっと早くに言う機会がなかったのかと、自分の行動の優柔不断さに呆れるが、最期の機会と思って行動してよかった。

 

流石にあの「ナザリック地下大墳墓」に一人で乗り込むほど、無謀ではない。

 

最初は地下墳墓に入らず、侵入者としてではなく対応してもらえないかと思っていたのだが、ここに居た方が確実に会えるような気がした。

 

 

のだが――

 

 

「……来ない」

 

あと30分で「ユグドラシル」が終了するというのに、誰も来ない。

 

「まさか、急用が入った、とか?」

 

そういった事態は想定していなかった。

あるいは、この花火たちは、設置した事を忘れられているのかもしれない。

 

「――点ければ出てくるか?」

 

花火を点ければ、気が付いて出てくるかもしれない。

勝手に使えば怒られるかもしれないが、その時は花火の代金で勘弁してもらおう。

そもそも、今点けないと、花火を鑑賞するどころか、空中で花が開く時間すら無くなってしまうだろう。

このまま使われない花火も、もったいない。

 

この辺が貧乏性なのだろう。

 

まあ、裕福なわけでは無いので否定もしないが。

 

「よし」

 

一度にではなく、順番にゆっくりと花火に点火していく。

途中でナザリック地下大墳墓にいる「誰か」が気付いてくれる事を願って。

 

そして最後の花火と共に、自分も飛行(フライ)で飛び上がる。

ナザリック地下大墳墓から、誰か出てこないかを確認する為に。

 

「だめかぁ……」

 

残念ながら、誰も出てくる様子はない。

地表近くに居れば気付いてくれるかと思ったのだが。

 

不在なのか気付かないだけなのか。

 

どちらにせよ、自分の目的はこれでほぼ永久に達成不可能となったのだ。

 

「他のゲームで会ったって、名前変えてたらもうわかんないよな」

 

今の世の中、リアルの名前(本名)を教え合うなど、余程親しくなければ、同じギルドのメンバー相手であっても起こらないことだ。

 

「燃え上がる三眼」の例のように、悪意ある存在ではないと証明するのは、とても難しい事なのだから。

 

とてもとても――

 

「残念だなぁ」

 

これで「ユグドラシル」は終了だ。

 

 

あれから200年。

 

「アインズ・ウール・ゴウン」の名が世に広まった。

 

その時、自分は――

 

許せなかった。

 

自分が憧れたギルドは「悪役」を演じて(ロールして)はいたが、基本は「弱者救済」だった。

 

敵を向かえ討ち、敵対ギルドの拠点へ乗り込み、攻め落としたり全滅させられたりしていた。

 

あくまで「やるか、やられるか」という対等な戦闘だった。

 

 

それが、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」だった。

 

それが何故、この世界で「弱者」を殺すのか。

 

 

そんなのは「アインズ・ウール・ゴウン」ではない。

 

そんなものを「アインズ・ウール・ゴウン」とは認めない。

 

そんな存在は「アインズ・ウール・ゴウン」では無い。

 

 

故に――

 

「自分は『アインズ・ウール・ゴウン』を僭称する者と敵対する」

 

 

 

今のままでは勝てない。

 

だから時間をかけて、準備する。

 

大丈夫だ。

 

200年待ったのだ。

 

もう数百年くらい、どうということはない。

 

 

 




以下、説明・言い訳・妄想と続く


僭称:身分不相応な名前を勝手に名乗る

「アインズ・ウール・ゴウン」は身分ではありませんが、このプレイヤーにとって「特別」という意味で使用しています。


十三英雄のリーダーではない。
二百年後も生きている。
名前は無いのでモブ。
男か女か決めていない。
国などの中枢に近い立場にいない為、情報が少なく伝達も遅く精度も悪い。
ユグドラシルからのNPCはいない。
召喚やスキルによる作成は可能。

オリキャラにしない為名前は無い。続きも存在しない。
下は結末の箇条書き。

パターン①
あらゆる種族が共存できる国ができる。
→「やっぱり『アインズ・ウール・ゴウン』はすごいんだ」

パターン②
自作自演の狂言と知る。
→「お前なんか『アインズ・ウール・ゴウン』じゃない」



アニメ「オーバーロード」三期の特典が、「二百年前に転移するモモンガ」だとすると、その話に十三英雄のリーダーは存在するのか、しないのか。

100レベルのアインズがいたら、十三英雄の出番がなくなりそうな気もするが、いるならアインズが理想的なレベルアップの指導とサポートとか。

13巻で、さらっと憤怒の魔将のデータを諳んじるアインズなら、四十一人のレベルアップの手順とか覚えていそうな気がします。


とりあえず、特典が楽しみです。






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