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【社説】

大谷新人王 本場の心も動かしたね

 米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手が、今季のア・リーグの最優秀新人(新人王)に選出された。個人やチームの成績はライバルに劣ったが、夢を追い続ける思いが投票者の心を動かした。

 新人王選考は全米野球記者協会の会員から選ばれた三十人の投票で行われる。大リーグでは誰がどの選手に入れたかを公表するため、各記者は根拠を説明することが求められるが、大谷選手は三人連記の投票で一位票を二十五人から集める“圧勝”だった。

 過去には一九九五年野茂英雄投手、二〇〇〇年佐々木主浩投手、〇一年イチロー外野手が、日本から渡って新人王を獲得した。いずれも、日本の選手は大リーグで通用しないとかつて言われた壁を打ち破る活躍で、大リーグにセンセーションを起こした。

 ただ、新人として飛び抜けた成績を残した三人と比較すると、大谷選手の受賞は違った意味合いを持つ。成績だけなら規定投球回数にも規定打席にも届かず、シーズン終盤は故障のため投手として出場できなかった。打撃でも大谷選手を上回るライバルがいたことに加え、チーム成績を考慮すれば、エンゼルスが地区四位と低迷したこともマイナス材料だった。それでも圧倒的な一位票を勝ち取ったのは、投手と打者の二刀流という歴史的な挑戦を成し遂げた功績にほかならない。

 伝説のベーブ・ルース以来となる本格的な二刀流は、大きな夢を野球界にもたらした。かつて大リーグと米プロフットボールNFLの両競技で活躍したボー・ジャクソン、ディオン・サンダース両選手が絶大な人気だったように、大谷選手もスーパーヒーローとして子供たちのあこがれとなった。ハードルが高い目標でも、ぶれることなく努力を続ければ、夢はかなうことを教えてくれた。

 今季の大谷選手は日本ハム時代より二億円以上低い年俸五十四万五千ドル(約六千二百万円)でプレーした。大リーグは二年前、海外リーグから移籍する二十五歳未満の選手に初年度の上限金額を設定したからだ。二十五歳になる来年七月以降の移籍なら十億円以上の年俸は確実と言われても「普通にやっていれば日本なら通用するのでは、と思ってしまう自分が嫌だった」と早期の挑戦を優先した。

 このようないちずな思いも投票する記者たちの心を動かしたといえる。今の気持ちを忘れず、さらなる高みを目指してもらいたい。

 

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