【社説②】:G20財務相会合 新興国の苦境も考えよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:G20財務相会合 新興国の苦境も考えよ
インドネシアで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議が市場安定へ協調行動をとる、と合意したのは当然だ。だが先進国の緩和マネーが原因で新興国が危機に陥る現状への対応はあまりに鈍い。
日米欧などで世界同時株安が進み、新興国では通貨危機やハイパーインフレが相次ぐ。この二年、順調に景気拡大してきた世界経済に変調が訪れるのではないかというタイミングでの会合である。
波乱の要因といえば、一つはトランプ大統領が中国からの輸入品に高関税を課すことで仕掛けた米中貿易戦争の激化であり、もうひとつは米国が段階的に進める利上げ、すなわち世界的な金融緩和で新興国にあふれていたマネーが、金利が上昇した米国に向けて還流したことだ。
通商政策を担っていない財務相・中銀総裁が貿易戦争への対応を協議するのには限界がある。最大の焦点は為替問題、通貨危機だったといっていい。
新興国通貨は軒並み下落しており、その下落幅(対ドル、年初比)はもはや看過できないレベルである。アルゼンチン・ペソが約50%、トルコ・リラ約38%、インド・ルピー約14%、ブラジル・レアル約12%、インドネシア・ルピア約11%などだ。
通貨暴落はインフレにつながるだけでなく、ドルなど外貨建てで調達した債務が膨張することを意味する。通貨下落がいずれかの時期に株価の大幅下落を誘引し、予見できない形で危機が訪れるリスクを懸念する声も高まっている。
明らかな問題は米国の利上げのペースである。米連邦準備制度理事会(FRB)は九月に今年三回目の利上げを実施。パウエル議長は史上二番目に長い景気拡大期をさらに延ばすため、過熱感を阻む利上げを続けていると表明した。
要するに、自国経済のコントロールばかりが視野にあり、新興国経済への影響は軽視しているととられかねない。
バーナンキ元議長が二〇一三年五月に金融緩和を縮小する可能性を示唆しただけで世界的に流動性懸念が生じた、いわゆるバーナンキ・ショックをまさか忘れたわけではあるまい。
世界各国の外貨準備に占めるドルの比率は、トランプ大統領への不信から低下傾向にあるとはいえ、依然として62%を占めている。地球上で圧倒的な地位を誇る基軸通貨なのである。
FRBまでが自国第一主義を貫いては世界経済は保(も)たないのだ。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年10月13日 06:10:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。