ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~ 作:善太夫
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ナザリック地下大墳墓 第六階層〈アンフィテアトルム〉──円形劇場の脇に建てられた舞台劇場(経緯はありんすちゃんのショー・マスト・ゴー・オンをご覧下さい)のステージではありんすちゃん、アウラ、マーレの三人が踊っています。
「はいはい。そこまで。マーレはもっと動きを大きく躍動的に。アウラは左右に動く時は相手との距離感を意識して」
三人にアルベドからの叱責が飛びます。ありんすちゃんはじっとアルベドを見つめて訊ねました。
「ありんちゅちゃはどうでありんちゅか?」
「ありんすちゃんは…………」
アルベドはしばらく口を閉じて考え込む様子を見せました。
「ありんすちゃんは……そうね、そのままで良いわ」
アルベドの言葉にアウラがキッと睨み返しました。
「ちょっと! アルベドさあ、ありんすちゃんに甘いんじゃないの?」
アルベドはアウラの耳元に囁きました。
「アウラ、我慢して頂戴。ありんすちゃんにあれこれ指導して果たして良くなるかしら? それどころか反発して拗ねてしまうだけだとは思わない?」
「……それはそうだけどさあ……」
アウラは言葉に詰まりました。確かにありんすちゃんの性格ではせっかくの指導は全て無駄になるでしょう。ありんすちゃんが三人のセンターに選ばれたのも、単にありんすちゃんが目立つポジションをやりたがったからだけでなく、左右からアウラとマーレがフォロー出来るから、でもありました。少なくともアルベドの説明では、でしたが。
※ ※ ※
ナザリック地下大墳墓 第九階層アインズ執務室──
「アインズ様、これは?」
「うむ。実は普段アルベドと共にな、こうしてナザリックの皆から集めた様々なアイデアの中から良いものがないか検討していてな……」
デミウルゴスはいたく感動しました、と大袈裟に一礼すると、紙の一枚一枚に鋭い視線を送りました。
「……なるほど。公平を期する為、全て同じ筆跡で清書されている……さすがはアインズ様」
「……よくわかったな。デミウルゴス。……所で今回付き合って貰って済まないな。いろいろ忙しいだろうに」
「……いえいえアインズ様。アルベドが不在なれば、このデミウルゴスが代わりをつとめるのに何の問題がありましょう? 幸いに私の仕事は現在一段落しておりますのでご懸念には及びません」
「……ゴホン。それならば始めるとしようか。まず──」
アインズはデミウルゴスの顔色を伺いつつ一枚目の紙を選びます。このアイデアが書かれた紙の中にはアインズ自身のものも混ざっています。普段のアルベドが相手の場合にはさりげなさを装って何枚か検討した後に選ぶのですが、今回は思いきって一枚目に自分のアイデアが書かれた紙を選びました。
「……ゴホン。えーなになに。『魔導国の冒険者を増やす為、ナザリック戦闘メイドでアイドル冒険者チームを結成してみては如何でしょう』……うーむ」
アインズはチラリとデミウルゴスの表情を伺います。アルベドなら『いったい誰がこんな愚孝を……却下です』と即座に否定した事でしょう。
「……ふむ。なるほど。……アインズ様がこの提案をお選びになったのには何らかの意図があるのですね。そういえばここに同じような意図の提案が──なになに、『ありんちゅちゃはすくうるあいどるになります』……どうやらありんすちゃんの提案のようですね?」
デミウルゴスは瞳を細めながら嗤いました。
「アイドル冒険者チーム。魔導国の広告塔……なかなか素晴らしい提案ではないですか」
かくて『スクールアイドル』ならぬ『スクリームアイドル』としてありんすちゃん、アウラ、マーレの三人組ユニットが急きょ結成されたのでした。
※ ※ ※
アルベドがナザリックに戻るとすぐに留守中にアインズとデミウルゴスで協議されたアイドル冒険者チーム案を知り、心の中で歯ぎしりしました。しかしながらそんな胸のうちは押し隠してアインズに進言します。
「アインズ様。そのアイドル冒険者チームの件、是非ともわたくしにお任せ下さい。きっと最高の成果をご覧頂きます」
それからありんすちゃん、アウラ、マーレの厳しいレッスンが始まりました。そしていよいよアインズや階層守護者達へのお披露目の日──
三人の踊りは完璧でした。
日頃のレッスンの成果は間違いなく披露できていて、非の打ち所はありませんでした。……踊りに関して、は。
ですが、残念な事に──
「こちゃえーはぁーどぅこにぃー」
「「イエーイ! イエーイ! オー!」」
メインボーカルのありんすちゃんはなんと……音痴だったのでした。
本人は気持ち良さそうに歌っていましたが……ね。仕方ありません。だって、ありんすちゃんは5歳児位の女の子なのですから。