ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~ 作:善太夫
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ローブル聖王国にありんすちゃんの姿がありました。
「あんまり賑わっていないでありんちゅね」
ありんすちゃんはつまらなさそうに呟きました。デミウルゴスの話ではローブル聖王国には海があると聞いていて、ありんすちゃんは海水浴なるものを楽しもうとこっそりお忍びで来たのでした。
デミウルゴスに教えてもらった座標に〈グレーターテレポーテーション〉でやって来たのでしたが海はありません。どうやら聖王国の首都のようです。人影はまばらで城壁に囲まれた街はどことなく陰気でありんすちゃんはがっかりです。
と、慌ただしく人混みを散らして王城に向かう聖騎士の一団が駆け抜けていき、ありんすちゃんの持っていたイルカの浮き輪を踏んづけていきました。
「ありんちゅちゅのイルカ! まちゅでありんちゅ!」
ありんすちゃんは聖騎士団の先頭の白いサーコートの女聖騎士を睨んで叫びましたが、届かなかったようで騎士の一団はそのまま王城に入っていってしまいました。
「……もうちゅかえないでありんちゅ」
ありんすちゃんはペッチャンコにしぼんでしまったイルカの浮き輪をつまみ上げてため息をつきました。まあ、すぐそばに海がなかった時点でふくらませたイルカの浮き輪は邪魔だったのでしたが……
「ちぇっかくだからお散歩しるでありんちゅ」
ありんすちゃんはチョコチョコとした足取りで歩き出しました。
※ ※ ※
──ガッシャーン!
「──なんだか騒がしいでありんちゅね?」
いつの間にか広場で眠っていたありんすちゃんは建物が壊れる音で目をさましました。壊れた建物を囲んで聖騎士達が緊張した面持ちで見守っていました。
「姉様! やりましたね!」
「まだだ! 奴は自分から飛んだんだ!」
先程の白いサーコートの女聖騎士が怒鳴ります。
「──ふふふ。そろそろ、こちらも本気を出す頃合いのようですね」
「ほーう。だったらさっさと力を見せてくれないか? ……カルカ様、ケラルト、下がって」
次の瞬間、倒壊した瓦礫の山から何か巨大なものが立ちあがりました。
「……ヤルダバオト?」
なんだかよくわかりませんがどうやらこれからヤルダバオトと女聖騎士達の戦いが始まるみたいです。
「おもちろちょうでありんちゅ」
ありんすちゃんはドキドキしながら広場の中央に建っている銅像の台座の横に座って見学する事にしました。
「──でやああああ‼」
先程の白いサーコートの女聖騎士がヤルダバオトに攻撃します。女聖騎士の渾身の一撃は簡単にヤルダバオトに弾かれました。
「素手で相手も面倒……いや、いい武器があるな」
ヤルダバオトはそう呟くと女聖騎士に背を向けました。そして女聖騎士が切りかかった瞬間──
「ふむ──〈グレーターテレポーテーション〉」
姿が消えたヤルダバオトは次の瞬間、棒立ちになった二人の女の背後に現れました。
「カルカ様あぁ!」
ヤルダバオトは女聖騎士がカルカ様と呼ぶ女の足首を掴んでぶら下げました。
「いい武器だ」
ヤルダバオトは手に掴んだカルカを振り上げると女聖騎士に降りおろしました。
「おもちろいでありんちゅ!」
ありんすちゃんは大喜びです。人間を武器代わりに戦うなんて、なんて面白そうなのでしょう。
「ありんちゅちゅもやるでありんちゅ!」
ありんすちゃんは立ち上がると戦いの中に入っていき、女聖騎士の足首を掴むとヤルダバオトに降り下ろします。
バチンバチン!
ありんすちゃんとヤルダバオトはそれぞれの武器──聖王女カルカと聖騎士団長レメディオス──を激しく打ち合いました。
「……これはこれは。まさかこんな場所でこれだけの相手にまみえるとは思いませんでしたね」
「この遊びはおもちろいでありんちゅ! こっちの武器のが丈夫だから勝ちゅでありんちゅ!」
女聖騎士はなにやら聞き取れない叫び声を上げていましたが、その内静かになりました。
二人は三十分程戦いましたが、なかなか勝負がつきません。仕方なく一時的に休憩する事にしました。
「……だいぶきちゃなくなったでありんちゅ。〈大回復〉こりでまた丈夫になったでありんちゅ」
ありんすちゃんが女聖騎士を回復させると弱々しい声で話しかけてきました。
「……私はローブル聖王国聖騎士団長レメディオスだ。私は、テニスが得意なんだが……」
レメディオスはありったけの知恵を振り絞って考えた台詞を口にしました。このままこん棒の代わりに振り回されては死んでしまう。少なくともカルカ様の命は無い。せめてボールならば……
「てにす、でありんちゅか? ……おもちろそうでありんちゅ」
レメディオスの狙い通り、ありんすちゃんは乗って来ました。命懸けの説得により、レメディオスとカルカはラケットの代わりとなりテニスの試合として戦いが再開される事になりました。
※ ※ ※
「やーめーた! でありんちゅ!」
突然、ありんすちゃんはぐったりとしたレメディオスをポイと投げ捨てるとヤルダバオトに背を向けて去っていきました。うーん……さっきまで楽しそうにラケット(レメディオス)を振り回しながらボールを追いかけていたのに……勝負に負けそうになった途端につまらなくなったようですね。まあ、仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。
※ ※ ※
後に残されたヤルダバオトは一人、小さな独り言を呟くのでした。
「ここにありんすちゃんが登場するとは……さすがはアインズ様。私ごときには全く予想出来ない展開……これは実に楽しみです」