「いまや顧客は、製品を買うのではない。エクスペリエンスを買うのだ」
米国で開催したAdobe Summit 2018メインプログラムの皮切りとなるオープニングキーノートの冒頭で、アドビ本社CEOであるシャンタヌ ナラヤンは、このように聴衆に向けて切り出しました。
エクスペリエンス、すなわち顧客体験とは、顧客と企業との関わり合いの中で生まれるものです。製品は「企業が提供するもの」でしたが、体験は「顧客が感じるもの」です。製品は企業努力によって改善することができましたが、体験はどうでしょうか?
顧客体験の優劣を決めるのは顧客ですので、必ずしもすべてを企業がコントロールできるものではなさそうです。では顧客体験を改善するため企業にできることは、何かないでしょうか?
「優れた顧客体験を企業が提供するために必要な要素は3つある」と、シャンタヌは続けて述べています。それは、デザイン、インテリジェンス、アーキテクチャです。ここでは特に、「顧客が何を求めているかを理解する」ために欠かせない、インテリジェンスに着目しましょう。
インテリジェンスを辞書で引くと、「知能、知性」「機密情報」のほかに、「情報分析活動」といった意味が載っています。カタカナ語としては前者の印象があるかもしれませんが、優れた顧客体験を実現するうえでより重要なのが後者です。つまり、顧客が何を求めているかをきちんと分析あるいは想定し、それに即した、あるいはそれを上回るコミュニケーションを行うこと。
これを実現できたとき、顧客は納得し、喜び、満足し、あるいは驚き、感動を覚えることでしょう。つまり企業がまず備えるべきは、「顧客を知る」ための体制やプロセスであり、データからインテリジェンスを導くことのできるスキルや組織的な能力なのです。
情報分析を行うためには「データ」の存在が前提となりますが、データは集めるだけでは不十分で、そこから何らかの意味を探し出すことがより重要、という訳です。
では、デジタルビジネスやデジタルマーケティングにおけるインテリジェンスとは、どのような情報分析活動なのでしょうか?それは、一人ひとりの顧客の属性や行動をデータ化したうえで、そのデータから、顧客がどのような特性や価値観を持ち、何を求めているか、どのような課題やニーズを抱えているかを明らかにすることです。
この「インテリジェンスへの道」シリーズでは、組織的なインテリジェンス能力を身につけるうえで欠かせない、様々なトピックを解説していきます。
インテリジェンスへの道:セグメンテーション
デジタルマーケティングの施策を考える第一歩が顧客のセグメンテーション。セグメントのニーズや行動パターンに応じてコミュニケーションの内容、チャネルとタイミングを設計することが、有効性の高いマーケティング施策につながります。
今回は、セグメンテーションの手法とセグメントの行動分析についてご紹介します。
顧客のセグメンテーション
顧客のセグメンテーションはビジネスの特性やゴールによりますが、今回は”行動指標のMatrix”と”スコアリング”の2つのアプローチについてご紹介します。マトリックスとスコアリングを用いて、全面的かつ構造的に顧客を細分化する例を見ていきます。
行動指標のMatrixで顧客をセグメンテーション
検討時期とサイト内の行動指標を定義すると、購買傾向で顧客を細分化できます。例えば、下記の場合、検討時期が近く、サイト内の行動がアクティブな顧客は購買傾向が高いので、Sweet spotとしてターゲットすべきです。
スコアリングでセグメンテーション
行動パターンにスコアを加点すると、商品への関心度を定量的に表示することができます。これにより、関心度と顧客タイプに合わせた適切なコミュニケーションを設計することが可能になります。
ターゲットセグメントの行動分析
ターゲットセグメントを選定したら、そのセグメントの行動パターンについて調査します。顧客が“どこから”、“どこで脱離”、“どのコンテンツでエンゲージ”、“いつエンゲージ”したかについて、分析の例を見ていきます。
顧客がどこから流入してきたか
特定の顧客セグメントについて流入経路を調査する場合、チャネルとデバイスのクロステーブルを使えば、全体像を簡単にまとめることができます。
流入してきた顧客がどのタッチポイントで離脱しているか
特定のページの閲覧、外部検索エンジンでの検索からの流入、登録や購入など、サイト内のアクション、顧客行動のパスには様々なタッチポイントが存在します。顧客がもっとも離脱したタッチポイントを把握することは、サイトのパフォーマンス改善に直接つながります。
例えば、下記の顧客セグメントAの67%がPage1を閲覧しました。そして閲覧者の中の35%が、次のアクションとして外部検索エンジンを使ったPaid keywordでサービスを検索し、サービスに興味を示しました。しかし、検索していったんサイトを訪問した後で、誰もサイトに戻って会員登録をしなかったです。
検索結果にはサービスに不利な内容があったのか、検索結果のタイトルがランディングページと不一致だったのか、といった様々な仮説が立てられます。検索キーワードと検索結果で検証する必要があります。
このような分析をするには、BIツールとサイトアナリティクスツールの2つの選択肢があります。BIツールを利用する場合、データボリュームが非常に大きいので、可視化するのはなかなか容易ではありません。アナリティクスツールを利用する場合、タッチポイントにページとDimensionの両方が利用できるフロー分析機能が必要となります。(例えば、Adobe AnalyticsのFallout分析がこの機能に当たります)
どのコンテンツで顧客をエンゲージすべきか
サイト内には何百何千のページやコンテンツが存在します。訪問者は複数のデバイスから複数回に渡ってサイトを訪問し、様々なコンテンツを閲覧してからコンバージョンに至るケースも少なくありません。コンバージョンを高めるため、どのコンテンツで訪問者をエンゲージすべきか考える時、コンテンツの貢献度を正確に計測する必要が出てきます。
コンテンツの貢献度は、正確には2種類に分けられます。コンバージョン直前に閲覧したコンテンツの貢献度-直接的貢献度、及び以前の訪問時に閲覧したコンテンツの貢献度―間接的貢献度、です。
Adobe Analyticsの場合、貢献したすべてのコンテンツに対して貢献度を付与します。間接的貢献度もデフォルトで考慮します。
正確に計測した貢献度をコンテンツ別に表示すると、間接的な貢献度は高いが、ページビューの少ないコンテンツが簡単に見つかれます。サイト内の導線を見直すことにより、訪問者をこのようなコンテンツに誘導できれば、コンバージョン向上を図ることが可能になります。
どのタイミングで顧客を再度エンゲージすべきか
顧客が一回訪問や購入をしても、持続的に訪問や購入するとは限りません。どのようなタイミングで顧客とエンゲージしたら、訪問/購入の定着率を高めることができるでしょう?コホート分析に回答があります。
例えば、下記のコホート分析では、各月に登録した顧客をグループとして、そのグループの何人がサイトを再度訪問したか、6ケ月に渡って、毎月の再訪人数を表示しています。顧客が登録してから4ヶ月後に再訪率が低くなる、ということが分かります。これがエンゲージする最適なタイミングとして考えられます。
また、下記の場合、毎週ページビューが1以上の訪問者をグループとして、そのグループの何人がサイトを再度訪問したか、5週にわたって、毎週の再訪人数を表示しています。この例では2-3週がエンゲージのタイミングとして考えられます。
このように顧客行動を分析することで、最適なエンゲージメントのタイミングをつかみ、戦略を向上させることができるのです。