ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~ 作:善太夫
<< 前の話 次の話 >>
ナザリック地下大墳墓 第二階層 屍蝋玄室の寝室──大きな天蓋のダブルベッドで頭までタオルケットにくるまってありんすちゃんが寝ています。
おや? モゾモゾして、タオルケットから少しだけ頭を覗かせてキョロキョロしています。熱帯夜で寝つけないのでしょうか? しばらくするとまた頭までスッポリとタオルケットを被りました。
ありんすちゃんはベッドの中でモゾモゾしています。どうやらオシッコがしたいのを我慢しているみたいです。
ありんすちゃん、早くトイレに行くと良いですよ? 一人で行けないならシモベのヴァンパイア・プライドを呼んだら良いのではないでしょうか?
「……ヤチュメウナギが怖いでありんちゅ」
うーん……ありんすちゃんはどうやら昼間にルプスレギナがした話を真に受けてしまっているみたいですね。
※ ※ ※
「ありんすちゃん、こんにちはっす。今日は夏の土曜日っすね。土曜の丑三つ時はウナギっすよ」
その日の昼頃、ありんすちゃんがヴァンパイア・プライドとのんびりしている所に戦闘メイドのルプスレギナがやって来ました。
「ウナギでありんちゅか?」
ありんすちゃんは小首を傾けながら聞き返しました。
「あの、ニュルニュルのやちゅでありんちゅね」
ありんすちゃんは得意そうに言葉を足しました。賢いありんすちゃんはちゃんとウナギを知っているんです。
「そうっすよ。そのウナギのお化けが出るっすよ。土曜日の丑三つ時、つまり今晩っすね」
どうやらルプスレギナはありんすちゃんを怖がらせようと、いい加減な事を言っているみたいですね。しかしありんすちゃんもヴァンパイア、それも真祖。元々がアンデッドですからお化けなんて怖がるはずがありません。
「……お化けなんて、怖く、ない……でありんちゅ。ありんちゅ」
……おや? ありんすちゃんの顔が強ばっています。うーん……どうやらありんすちゃんはお化けが苦手みたいですね。アンデッドなのに……
そんなありんすちゃんの様子を眺めながら、ルプスレギナが続けます。
「ただのウナギのお化けじゃないっすよ。ヤツメウナギっす。こーんなにデカイ口をガバーって開けると中にはビッシリと尖った牙がグルリとあるっす。不気味で凶悪なヤツメウナギ、よりによってこの屍蝋玄室で見た事があるっすよ」
ヴァンパイア・プライドが何か言おうとしましたが、ルプスレギナが制止します。
「……ありんちゅちゃは見ちゃ事ないでありんちゅ。ヤチュメウナギなんていないでありんちゅ」
ありんすちゃんは必死に否定しました。もし、そんな怪物が居たらありんすちゃんは安心して眠れません。
「……ヤツメウナギの怪物は間違いなく居るっすよ。せいぜい頭をかじられないように気をつけるっす」
そして夜になり、ありんすちゃんはベッドに入りましたが、ヤツメウナギの怪物の事をあれこれ考えている内に怖くて眠れなくなってしまった、という訳です。
※ ※ ※
ヴァンパイア・プライドに付き添ってもらい、用を済ませたありんすちゃんはベッドに戻りました。そして相変わらず頭を出したり引っ込めたり、タオルケットを被ったりめくったりしています。
どうも眠れないみたいですね……
とうとう意を決してムクリと起き上がりました。愛用の枕とお気に入りのウサギのぬいぐるみのつかむと屍蝋玄室を後にしました。
※ ※ ※
「……なあに? こんな夜中にやって来て……あたしは寝てたんだけど?」
ありんすちゃんがやって来たのは第六階層のアウラとマーレの住居でした。アウラは熟睡中だった所を起こされてひどく不機嫌でした。
「……え? ヤツメウナギの怪物? 屍蝋玄室に?」
ありんすちゃんは一生懸命にヤツメウナギの怪物の怖さを伝えます。しばく黙って話を聞いていたアウラは呆れた様子でため息をつきました。
「──あのさ、それってありんすちゃんの事じゃん。真祖の姿ってまんまヤツメウナギそっくりだよね?……じゃ、おやすみ」
アウラは冷たくいい放つとありんすちゃんの前で扉を閉めました。
うーん……考えてみたら真祖の姿を本人は鏡で見る事はあまりなさそうですよね。まさか自分の事を怖がっていたなんて……仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。
※ありんすちゃんが挿し絵を描いてくれました