工藤さんと西田さんの新刊を拝読。「無職の若者」の実態を丁寧に紐解いた良著です。


「無職の若者って、仕事を選り好みしているだけじゃないの?」

「ニート」「ひきこもり」などを筆頭に、「無職の若者」というのは、しばしばメディアで問題視されることがあります。

そういった若者に対して、特に年長者からよく投げかけられるありがちな指摘が「無職の若者って、仕事を選り好みしているだけじゃないの?」というもの。みなさんもどっかで聞いたことありませんか?「仕事なんて選ばなければいくらでもあるんだよ」とか。

本書ではそういった指摘に対してこのような答えを返しています。

「仕事は選ばなければあるはずであり、若年無業者は、えり好みをしている甘えた人間なのではないか」という言葉は頻繁に使われる。

「平成25年版 子ども・若者白書」の「就業希望の若年無業者が求職活動をしていない理由」を見てみると、無業である理由として「病気・けが」の回答が圧倒的に多い。20代後半から30代後半では30%に上り、30歳から34歳では40%を超えている

なんと!求職活動をしていない若者(定義的には15歳〜39歳)の30〜40%は、病気・けがで苦しんでいるとか。これ、けっこうびっくりするデータじゃないですか?

子ども・若者白書では病気・けがの内訳は示されていませんが、著者たちが以前行った調査(「若者無業者白書」)によれば、「就業経験がある無業の若者が退職した理由として約5人に1人が心身不調を挙げている」とのこと。これ、もっと詳しい調査データがほしいですね。

周囲を見ても、うつ病をはじめとする精神疾患に苦しんでいる若者は多いです。それこそ「真面目な性格」が起因してうつ病になり、かれこれ2年以上、自宅で療養しているという知人も…。

「求職活動をしないなんて甘えだ!仕事をえり好みするな!」という指弾は、鈍感で人を傷つけるものであることは、ぜひとも理解してほしいですね。無理に復帰したら、またうつ病になりかねないわけですし(最近は「リワーク」プログラムが充実し始めています)。


病気以外の理由では、「勉強している」という回答も目立っています。

また、仕事を選んでいるのではなく、「学校以外で進学や資格取得などの勉強をしている」回答も7%台から16%台まである。(中略)「希望する仕事がありそうにない」「急いで仕事につく必要がない」という回答は概ね10%未満しかない。

興味深いのは、若年無業者たちの性格と行動。彼らは「真面目すぎる」という特性が見えるそうで。「無職の若者」というと真逆のイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実態はこのようになっているわけです。

若年無業者を取り巻く若年層が語られるとき、自己認識として「考えすぎてしまう」という表現が見られ、一方、外部からの言葉で目立つのは「とても真面目である(真面目すぎる)」という言葉がある。

『若年無業者白書』の調査結果でも、特に求職型では半数以上が自分自身にそれが当てはまると回答している。(中略)「考えすぎること」と「真面目であること」は必ずしも対になるものではないが、少なくとも自身の置かれた現状を理解しようともせず、ただただ惰性に流されて生きているという像は描けない。

むしろ、考えすぎる性格が足かせとなって行動できなくなってしまい、頑固なまでの真面目さが周囲との軋轢を産みやすくさせたりしているようなことも考えられる。


本書を一読すると、「無職の若者」たちが苦しい状況に置かれていることがよく理解できます。特に、実際に若者たちのインタビューが掲載されている第二章は圧巻です。若年無業の問題は、ブラック企業問題と密接に関係していることも読み取れます。

第2章 「働くことができない若者たち」の履歴書

<ケース1>

大卒後、超有名企業に入社も 憧れた「ビジョン」と乖離する現場で苦悩

<ケース2>

100通のお祈りメールに心を折られ、「申し訳なくて」面接を受けられない

<ケース3>

初心者歓迎のIT企業に就職も 教育なし・休み無し・突然の退職勧奨

<ケース4>

難関資格を見事取得も 面接が苦手で働けず、ひきこもり生活へ

<ケース5>

会社の都合で2度の解雇を経験。「とにかく潰れない会社で働きたい」

<ケース6>

友人と会社を設立もケンカ別れし退職。自信はあったのに再就職は失敗の連続

<ケース7>

夢も働く気もないが、人とはかかわりたい


「働かない」辛さを知っているか

これは個人的に強く感じることなのですが、「働かない」って人間としてかなりキツいんですよね。ひきこもり暦20年の勝山実さんは、働かない生活を「苦行僧」と断じています。

働こうという気持ちが怠けパワーを生み出す。働かずに怠けることができますか。会社に行かず、ぶらぶらしている、社会的地位もない、自由すぎる存在で怠けていられますか。働きたくないから働かない、それを実行すれば怠けに慣れるというものではない、むしろ苦行僧。


「無職の若者は、甘えているだけなんだ」みたいな話を繰り出す人には、一度ぜひ、リアルなひきこもりライフを経験してほしいな、とよく思います。きっと、無職の若者の精神的苦労が少しはわかるかと。

ぼく自身はガチでこもったことはないですが、自営業をしているので「働かない辛さ」はけっこうよくわかります。人間は働かない生活に耐えられるほど、強くはないのです。それって要するに、誰にも貢献できず、誰にも認められない、ということですから。


「無職の若者」の典型的イメージを塗り替える力をもった、社会的意義のある一冊だと思います。ぜひ多くの方に読んでもらいたいですね。


著者のひとりである工藤さんは、若年無業者の問題に関して積極的に提言を行っています。彼がYahoo!ニュース個人に投稿する記事は必読です。

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