<社説>外国人労働者拡大 実習制度の検証が先決だ

 当事者である外国人を置き去りにしており、拙速にすぎる。本格的な国会論戦が始まった入管難民法改正案のことだ。制度設計に欠かせない外国人労働者からのヒアリングさえ行っていない。人手不足を訴える業界の都合だけを優先した法改正は許されない。

 就労を目的とする在留資格はこれまで、原則として専門知識のある人材に限って受け入れてきた。新たな在留資格を設ける制度導入によって、単純労働への就労にも門戸を開く。働き手として多数の外国人の来日が見込まれており、社会環境を大きく変容させ得る政策転換だ。
 現在もコンビニや飲食店などで外国人が働いている。大半は留学生に一定程度認められているアルバイトだ。建設業などで受け入れる技能実習生は技術や知識の習得のため来日している。実質的に労働者として雇用されているが、入国の目的は就労ではない。
 問題なのは、技能実習生を低賃金で長時間働かせるケースが後を絶たないことだ。「現代の奴隷制」とさえいわれる。
 野党が実施した合同ヒアリングでは、技能実習生の口から、不当な低賃金労働や長時間労働の実態が語られた。
 昨年10月末の時点で約25万8千人の実習生を受け入れているが、2017年だけで7千人余が失踪した。人権侵害に耐えかねて逃げ出したケースが相当数あるとみられる。新制度を導入する前に、安価な労働力として悪用されやすい技能実習制度の問題点を検証し、大胆にメスを入れることが不可欠だ。
 今回の受け入れ拡大策は今年2月に安倍晋三首相が経済財政諮問会議で指示したことを機に検討が始まった。新たな在留資格の創設を盛り込んだ「骨太方針」を閣議決定したのが6月。自民、公明両党の了承を経て今月2日に改正案を閣議決定した。来年4月の導入を目指している。いかにも性急で急ごしらえだ。
 政府は2019年度から5年間で不足する労働者を約130万~135万人と見込み、受け入れる外国人を最大34万人超と想定している。建設業など14業種での受け入れを検討中だ。
 数字だけが強調されるが、単に受け入れればいいというものではない。入国してもらう以上、個々の人権を尊重し最低限の生活が送れるよう環境を整えなければならない。多数の外国人の日本語教育、医療態勢、生活支援など、どれ一つ取っても一朝一夕に解決できない課題ばかりだ。地域の理解が不十分で、住民との間にあつれきが生まれることも懸念される。
 「移民政策」ではないと政府は言うが、移民を受け入れるのと同じくらい、きめ細かかで行き届いた仕組みを構築する必要がある。
 政府は、外国人を労働力としてしか捉えていないようにも映る。その場しのぎの浅はかな思いつきで受け入れを拡大すれば将来に禍根を残す。