それは人の理を超えて、世界と共に歩む力を持つ者。
それは人の善悪を超えて、世界を導く宿命を持つ者。
ザ・ワールド THE WORLD:世界
Tarot-No.21
本体名:DIO <ディオ>
ディオ・ブランドーの頭部とジョナサン・ジョースターの肉体を持つ吸血鬼
能力:時間の止まった世界で自分だけが動ける
スタンド形成法 | 射程距離 | パワー |
---|---|---|
身体同形体 | 10m | 高 |
当ページの要点
- ジョジョ3部に登場するスタンドは全て、「生命の樹」と呼ばれる図形に関係している。
- タロットのスタンドは生命の樹の図上で「変化」を表すパスに対応する。
- 「世界」のパスは成長するものが、自身に新たな自由を獲得させる「変容」を行う。
- ザ・ワールドは「止まった時間の中での活動」という無敵の能力を獲得した人型スタンドである。
タロット解説
ジョジョ3部に登場する22枚の「タロットカード」は、占いの道具としてよく知られ、それぞれのカードにはさまざまな解釈が与えられている。そしてその解釈法の1つに、『生命の樹』と呼ばれる図像を絡めたものがある。生命の樹とは、宇宙・生命・人類・個人など、この世界の中で進化・成長する全てのものが、成長する際に辿る変化の共通性を図像化したものである。「セフィロトの樹」とも呼ばれるその図は、「状態」を表す10個の円形「セフィラ」と、円形同士を結び「変化」を表す22本の小径「パス」から成り、タロットはパスの方に対応している。
そして22枚のタロットのうち、「総括せしもの」を暗示する「アトゥム」のセフィラと、「遊離せしもの」を暗示する「オシリス」のセフィラを結ぶ「世界」は、「構成要素の変容」を暗示するカードである。
生命の樹の最後に位置する「世界」のパスで起こる変化は、イモ虫がサナギの中で蝶に変態するかのような変化である。成長体は「世界」の前段に位置する「星」と「太陽」のパスによって、単純かつエネルギーに満ちた状態となり、「世界」の左右に位置する「月」と「審判」のパスによって、外界から隔離された状態となる。そしてこれら4つのパスに囲まれた「世界」で成長体は、「自分」だけに集中し、自分が内包する要素から辿り着ける自然な姿へと様変わりする。この生まれ変わりともいえる変化こそが、「世界」で起こる「変容」なのである。(またそれは、「塔」のパスの時点で成長体が陥っていた行き詰まりを大きく解消するものでもある)
そしてこの変容によって成長体は、今までになかった何らかの「自由」を獲得する。イモ虫が蝶になることで空へと飛び立てるように、変容は成長体に新たな分野への道を拓く。また瞑想によって悟りを得た聖者が今までと違った目で世界を見るように、変容は見知った分野の中にも新たな世界を拓く。
ただし変容した成長体には「得るもの」だけでなく「失うもの」もある。蝶がもはや青葉を食べられないように、大きな変容ほど大きな何かを成長体から失わせてしまう。
人の心の在りようは成長とともに変わり続け、いつしか自分を「過去の自分」とは別人にさえしてしまう。そこには一抹の寂しさもあるかもしれないが、しかしその喪失は成長に伴う必然である。人に宿る知性の喜びが、より高等な自由を獲得し、その視点からより多くの物事を知ることにあるのなら、自分がより自由な存在に生まれ変わる機会は迷いなく十全に実行されるべきである。そしてその意志は自分ひいては世界を、さらなる成長に導くだろう。
スタンド解説
■類稀なる知力を宿すディオ・ブランドーの頭部と、類稀なる体格・筋力・生命力を宿すジョナサン・ジョースターの肉体を持ち、さらに不老不死と強大なパワーを「石仮面」から得た吸血鬼である「DIO」を本体とする人型スタンド。その姿は黄金の一色に染まり輝き、全身の筋肉ははち切れんばかりに逞しく、さらに胴体や前腕などを覆う装甲・首の背面を巡る太いパイプ・背中に取り付けられた2本のボンベは、このスタンドを同身長・同体格の「スタープラチナ」より巨大に見せている。また鼻先から上をマスクで覆われた顔は、感情を表すことなく厳格さを漂わせている。(余談だがこのマスクを正面から見た形は、『生命の樹』下部の「塔」から「世界」までのパスが構成する図形に良く似ている) そしてその両手の甲には、時計の文字盤を模した飾りが付いている。
■ザ・ワールドは空条承太郎のスタンド「スタープラチナ」と同じタイプの、「人型スタンドの限界性能」に達したスタンドである。そのパワーはロードローラーを放り投げられるほど強く、そのスピードと精密動作性は数10本のナイフを瞬時に正確に標的に突き刺すことも可能である。そしてそれらを基盤とした戦闘能力も当然非常に高く、繰り出される拳の一打一打は速く重く、特に両拳による連打(通称「無駄無駄のラッシュ」)の威力は凄まじい。
■また吸血鬼である本体DIOは、その体内に他者から奪った膨大な生命エネルギーを蓄えており、物理的には頭部を大きく損傷しない限り、拳が砕けようと腹に大穴が空こうと短時間で再生できる。この性質はザ・ワールドの側でも同じである。ただしそれと引き換えにDIOもザ・ワールドも「太陽光」と「波紋のエネルギー」を弱点とし、それらを受ければその体は蒸発するように消滅してしまう。
■なお、スタープラチナとザ・ワールドを比べる限り、本体が強靭な肉体を持つ吸血鬼であるという優位性は、人型スタンドの性能には特に寄与していない。これはおそらく人型スタンドに込められる生命エネルギーの許容量に限界があるためである。ただ代わりにザ・ワールドの射程距離は、通常の人型スタンドの2mを大きく上回る10mにも及んでいる。
■そしてこれに加えてザ・ワールドは、この「究極の人型スタンド」の性能をさらに先に進めた特殊能力を1つ有している。それは「通常動作の限界を超えた動作」として獲得された能力、「時間の束縛」から自由になった能力、「ゼロに等しい極小時間の間に数秒分の動作を行える」能力、即ち「時間の止まった世界で活動できる」能力である。
スタンドが生み出す「世界」
いわゆる「生命エネルギー」を源とするスタンドは、単なるエネルギーの塊として物質に作用するだけでなく、多くの場合それ以上の超常的な能力を備えている。物理とは全く異なる法則で働くその能力は、この世の摂理が及ばぬ心の奥底、そのスタンド使いの心の摂理だけが働く領域で形作られ、現実世界に表出したものである。
こうして表出した能力は、意識せずとも充分に使える場合もあれば、意識的にかなりの訓練を積まなければ使いこなせない場合もある。基本的にスタンド能力は、強力な能力であるほど後者の傾向が強くなる。これはスポーツなどにおいて難しい技を習得するのと似ている。そしてそのような難しい能力を使いこなせるようになるには、何度失敗しようと「できるはず」という確信を持って試み続けることが重要となる。
ただし物理的な技でもそうであるが、スタンド能力は「思い込み」でどんな不可能でも可能にできるわけではない。一個の生物に対して世界はあまりに巨大であり、例えば人型スタンドで地球を殴り割ろうとしても不可能であるように、スタンドの能力効果にも自ずと限界はある。そしてこの限界のため、人間一人のスタンドパワーで強大な能力を行使すれば、持続時間や効果範囲などが極端に短く狭くなってしまう。(そしてこの制限を受けないためには、例えば他者のエネルギーを得て肥大化していくなどの性質がスタンドに必要となる)
スタンド解説(2)
■ザ・ワールドが発現させた「静止した時間の中で動く能力」は、最初はDIOのおぼろげな認識、「周囲の世界が止まって見える」という認識から始まった。そしてDIOはこの「静止した世界で思考できる」状態から、「そこでスタンドを動かし物体に作用できる」状態を経て、「本体も同様に活動できる」状態へと能力を開花させていく。
■その持続時間、つまり「静止した世界」でのDIOの体感時間は、能力の開花後のさらなる訓練によってだんだんと伸びており、作中でジョースター一行と戦った時点では5秒、さらにその戦いの終盤にジョセフ・ジョースターの血を吸うことで9秒にまで伸びている。(ちなみにDIOは作中で「いずれは1分…10分…1時間と動けるようになってみせる」と言っていたが、この確信に満ちた願望がどこまで実現可能なのかは不明である)
■なおこの能力は前述したとおり、「ゼロに等しい時間のうちに動く能力」であり、全世界あるいは全宇宙の時間を力任せに止めているわけではない。(いかにDIOが人間を超えていようと一個の生物にそれほどのパワーはない) またこの能力は当然のことだが間髪入れず連続使用することはできず、時が動き出してから再度使用するには、最低でも数拍の間を置かねばならない。
■ザ・ワールドの能力で作られる「静止した時の世界」では、ザ・ワールドとDIOのような「動ける者」以外のすべての物体は時が止まった状態となり、物理的な分子運動から精神的な思考活動まで全てが凍りついている。ただしこのままでは動ける者から見て静止した世界は絶対零度に固まってしまうはずだが、実際はそうはならない。
■この能力の発動中は、動ける者の周囲の「空気」や、動ける者が「干渉しようとする物体」だけは、分子的な挙動をある程度取り戻す。これはザ・ワールドの能力が現実世界と「歯車を噛み合わせる」過程で、「静止した世界」に自然に生じた法則である。この法則によって動ける者は、静止した世界で他の物体への作用を通常空間とだいたい同じに行える。またこれ以外にも、静止した世界には通常空間とは異なる法則がいくつか働いている。
■まず、静止した世界では時間的な「因果」も停止しているため、動ける者の動作に伴って間接的に起こった現象は、時が動き出すまでは「結果」が保留される。例えば動ける者が止まった時の中でマッチを擦っても時が動き出すまでは「火が点く」ことは無く、紙を水に浸しても時が動き出すまでは「水が染み込む」ことも無い。また、動ける者が例えばナイフを「手にしたまま」物を刺すことは普通にできるが、ナイフを投げて「手から離れる」と、それは標的に近づくほどに「因果の抵抗力」のような力を受けていったん止まってしまい、時が動き出すと同時にスピードを取り戻して、標的に刺さることになる。
■次に、静止した世界での「重力」は動ける者に対しては、「高さ」が変わらない限りは作用しない。このため例えばジャンプした状態で時を止めれば、動ける者は(時が止まっている物体と同様)空中に停止する。一方で動ける者またはその手で動かされた物体が「下」に移動してそれに働く重力が増せば、それには差分の重力が働いて落下し始めることになる。(ただしその速度は通常空間ほどではない)
■この法則により、静止した世界で地面を蹴って「走る」には少しコツが要り、そしてコツを掴んでも通常空間で全力疾走するほどの速さでは走れない。その速さは作中の描写から見て、1秒間におよそ3~4mといったところである。また磁石などの磁場にも重力場と同じ法則が働き、静止した世界で2つの磁石を近づければ、後は磁石同士が勝手に引き寄せあってくっつくことになる。
■なお、作中でのDIOと承太郎のように「動ける者」が2人以上いる場合、片方が能力を発動すれば、もう片方は「静止した世界」で最低でも、その光景を知覚し、思考を巡らすことができる。そしてその状態から「動く」ことも当然可能である。ただし相手の能力が解ける前に自分の動作時間に限界が来れば、そこで動きは止まり、知覚と思考ができるだけの状態に戻ってしまう。
「神」の名を持つ男
ザ・ワールドの本体であるDIOは、ジョジョの物語において1部の時代からジョースターの血統と戦い続ける宿敵である。その性格は常に合理的・効率的で自分に有利な結果だけを求め、そのためには人の世の法や情や倫理を一顧だにしない。(反面この合理性ゆえに彼は、たまに感情が昂ぶった時にはそれを上手く制御できないようである)
このようなDIOの精神は言うまでもなく「人の正義」からは外れている。しかし一方でその合理的・効率的・大局的な思考は「神の正義」、即ち世界の細々とした物事より大局を優先して世界の成長を目指す在り方とは親和性が高い。「DIO」という単語はイタリア語で「神」を意味する。そしてその名を与えられた彼はまるで運命のように、「地上の神」とでも呼ぶべき生き様を見せることになる。
人として始まった彼の成長は、「地上の神」ヘ向かって「変容」を重ねていく。彼は成人するまでを狡猾な知略家として生きてきた。しかし彼はその生き方に限界を感じ、その折に「石仮面」の力と出会い、迷いなく人間をやめて吸血鬼となり、人間の宿命である「弱い肉体の器」と「限られた寿命」から解放される。
そしてその後も彼の心は変容を続ける。彼が人間だった時に持っていた、死別した母への思慕の情は、我が子を救うために懇願する母親を見る時には失われていた。彼がジョナサンの肉体を奪う時にジョナサンに抱いていた尊敬の念は、100年の時を経て海底から蘇った時には失われていた。彼にとってそれらは一時期に自分を動かす原動力とはなっても、後生大事に抱えておくほどの価値はないものである。
また彼は海底での100年の眠りのさなか、1つの悟りを得る。それは、自分がこの地上で永遠に生きるために最も必要なことは、「神に愛される」ことだという思想である。もしこの世界に神が存在し、運命を操作しているとするなら、神に重用されるだけの力と思想を持って歩むことが、神の庇護を得て自分を真に不滅たらしめると彼は考えた。そして彼はもとより神に似た大局的な考え方を持っており、そのように生きることが自分の運命であると確信する。
そしてそれを証明するかのようにDIOは、ジョジョの物語の中で幾度も蘇る。ジョジョ1部でジョナサン・ジョースターとともに散ったはずの彼は、その実この危機から逃れており、3部ではより強大な存在となって君臨する。3部で空条承太郎に完全敗北・消滅させられたはずの彼は、その実いくつかの遺物を残しており、それら遺物は6部で彼の意思のもとに世界を生まれ変わらせようとする。さらにそれが失敗した一巡後の世界でも彼は、同じ精神性を持った別人Dioとして存在し、再び覇道をやり直す。
また、彼の優れた知力とパワー、そして不要と見れば何者であろうと切り捨てる残酷さは、人の心のある側面に強く訴えかけ、一部の人々を強く魅了する。それらの人々にとってDIOは世界を真に正しく導く者であり、自分の命さえ喜んで捧げるに値する存在である。
「人の世の正義」は時代とともに移り変わり、それに呼応して正義を歩むジョジョの主人公も世代交代する。一方でDIOが宿す「神の正義」は時代がどれだけ変わろうと揺るがない。そして世界が、神が自らの代行者を再び地上に必要とする時、「DIO」はまた蘇ることになるだろう。
内部リンク
- 『神のささやきを聴く者ディオ・ブランドー』
- DIOが人間をやめる前から持っていた霊的才能と、彼がジョナサン・ジョースターの肉体を手に入れた運命的必然性について。
- 『空条承太郎とDIOの「テレポート」能力』
- ジョジョ1部でDIOがどうやって「二重底の棺桶」の下側に逃げ込んだかについて。
- 『「星」を持つ者の使命と特権』
- 「星形のアザ」が持つ意味について。
- 『スタープラチナ』
- ザ・ワールドとの戦いをきっかけに「時の止まった世界」に入門してきた空条承太郎のスタンド。その人型スタンドの格闘能力はザ・ワールドに比肩する。ただし静止した世界で動ける時間はザ・ワールドより短い。
- 『ハーミットパープル』
- DIOを「念写」できるジョセフ・ジョースターのスタンド能力。なおDIOは3部初期にこれと同じ能力でジョセフたちを念写しており、それについても解説。
- 『キング・クリムゾン』
- ジョジョ5部に登場。「邪悪の樹」と呼ばれる生命の樹の亜種における「世界」のスタンド。本体はイタリア語で「悪魔」を意味する名を持つ男ディアボロ。彼は世界を支配する神に反する存在であり、神が与える「運命」を無力化する能力を持つ。
- 『メイド・イン・ヘブン』
- ジョジョ6部に登場。DIOの遺物をもとに、地上に「天国」と呼ばれる全人類にとって幸福な世界を作り出すために誕生したスタンド。
- 『スケアリーモンスターズ』(フェルディナンド版)
- ジョジョ7部に登場するDIOの生まれ変わり、Dioが巻き込まれたスタンド能力。フェルディナンドという古生物学者が本体で、生物を恐竜化できる。そしてDioは紆余曲折の末に、この能力を自分の能力として獲得する。
- 『クレイジー・ダイヤモンド』
- ジョジョ4部に登場。本体の東方仗助はジョースターの血統であり、幼少時にDIOからの邪悪な思念を受ける。しかし彼は自分が暮らす杜王町の大地から「八百万の思念」を引き出すことで「一なるDIOの思念」に対抗し、そしてそれをきっかけに物体修復能力を獲得する。
- 『ゴールド・エクスペリエンス』
- ジョジョ5部に登場。本体のジョルノ・ジョバァーナはDIOの息子であり、幼少時にDIOからの邪悪な思念を受け、DIOの弱肉強食の思想に心を歪められる。しかし彼はDIOの思想を弱者の立場から再構築してまっすぐな心に立ち直り、そしてそれをきっかけに生物を創造する能力を獲得する。
- 『フー・ファイターズ』
- ジョジョ6部に登場。ジョジョの世界に存在する「知性の海」とでも呼ぶべき高次領域、そこからやって来た知性体がスタンド化したもの。人間の体を手に入れ人の世で暮らした結果、その性格はかなり俗世的なものとなる。