オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
モモンガ様って男性守護者との二人旅の方がはっちゃけそう。
マーレとデミウルゴスは除くけども。
マーレはあれ明らか男性というよりヒロインだし、デミウルゴスは深読みされすぎて心休まらなそうだし。
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その日のカルネ村も、朝は至って平凡でありきたりな朝だった。
村娘のエンリ・エモットは村の井戸から生活水を汲むために井戸で並んでそのまま村の住民と朝の挨拶を交わして、水を汲んだら家へと運んで母の朝食の用意の手伝い。
その頃には妹のネムを起こして、家族全員で朝食を食べる。
そして今日は村にやって来る薬師に売るためだったり、村から一番近い大都市であるエ・ランテルに下ろすために集めている薬草を摘むために村の近くにあるトブの大森林へと入っていった。
とはいえ、森の深くは「森の賢王」の縄張りとされているので薬草が群生している浅部にしか行かない。そこから先にはモンスターが出てくるために、ただの村娘では一方的に殺されるだけだ。
だからこそ、護衛もつけずにそんな深くに行くことはない。村に住んでいる人間ならそんなことわかりきっているので、薬草を摘みに行くと聞いてもそんなことを注意することはしない。
今日は珍しく妹のネムも一緒に薬草を摘みに来た。離れないように一緒に手を繋いで、だ。
そこでそこそこ森へと入ったところで、二人は森にあるはずのない物を見つける。
「なに、あれ……?」
「わーっ!すごいすごい!大きなお家!」
そう、そこには一応周りの風景に馴染むように緑色の配色をした、それこそ大都市のエ・ランテルでも見られないような豪勢な建物がそこにはあった。
薬草を摘みに来るのは一週間に一度のペースで、毎回同じ場所でするわけにもいかないのでこの付近に来るのは三週間ぶりなのだが、それでも三週間前はただの森林だった。わずか三週間で建つような建物には見えなかった。
そもそもこんな場所にこんな豪華な家を建てる意味も分からなかった。もう少し奥に行けばモンスターで溢れる人外魔境。薬草が摘めるとはいえ、その保管庫にするとしても拠点にするにしてもこんな豪勢である意味もない。
たしかに天然物としてもかなりこの辺りの薬草の効能は優秀だと薬師の知り合いから聞いていたが、それを独占するにしても過剰に過ぎる。薬草を売ることで得る利益とこの建物を作る費用を天秤にかけた場合、釣り合いが取れない気がした。
エンリはまともな豪勢な家をエ・ランテルで見かけただけなのでどれだけのお金がかかるのかも知らないし、貴族の知り合いなどいないので想像するしかないのだが、それでも豪邸がここにある理由はわからない。
別荘をこんなところに建てなくても、と近くに住むエンリ自身が思うのだ。特別な特産物も目ぼしい何かがあるわけでもない。開拓村という名の通り辺境なのだ。辺境が好み、という可能性はあるが。
「誰か住んでるのかなぁ?」
「どうだろ……。村に引っ越してくる人の話なんて聞いてないし、こんな所に家を建てるなら村に立ち寄ってるはずだけど」
だが、最近そんなお金持ちがカルネ村に来たという情報は入っていない。工事をするための建築業者も来ていないし、小さな村なのでそういう変わった出来事があればすぐ噂になる。
貴族様が別荘を建てる、そんな話は聞いたことがなかった。なのに目の前にある建物は不審だ。
「お姉ちゃん、中確認してみない?」
「えっ、ダメよ!もし貴族様がこっそり建てていたものなら、知らないフリをしないといけないし……」
「でもお姉ちゃん気にならない?」
気にならないと言ったら嘘になる。こんな所にいつの間にかできていた豪邸。どんな人が中にいるのか気になる。
正直、エンリはこの中にいるのが貴族だと確信している。どんな方法を用いたのかはわからないが、こんなことができるのは少なくとも財力がないとできないと思っている。
この世界にはもう一つ超常の力が存在するが、それでも万能ではないと知っている。
「……いい?確認するだけだからね?怒らせるような言動はダメだし、もし怒られたら誠心誠意謝ること」
「うん、わかった!」
笑顔の妹の顔を見て、その家に近付く。近くで見てみて尚更豪華な家だとわかる。
ドアの前についたが、警戒されているような気はしない。侵入者向けのベルなどが鳴った様子はないからだ。そのままドアを三回ノックする。
「すみませ~ん。どなたか、いらっしゃいますか?」
大きな声で尋ねてみる。だが、反応が返ってこない。
「留守なのかな……?」
「だれもいないのかなー?」
いないならいないで帰るだけだ。不思議ではあるが、一応村長に報告して本来の仕事である薬草摘みに戻ろう。
そう考えて踵を返そうとした時。後ろのドアが開く音がした。中に人がいたらしい。
そのまま振り返った先には――「死」がいた。
「近くの村の娘たちだな?ようこそ、我が仮宿へ」
全身を覆う漆黒のローブに、それに刺繍された豪華な装飾の数々。そして胸の辺りには脈動するような紅い球体。
そして何よりも目を惹かれるのは――。
「スケルトン……?」
肉も皮もない。ただ眼球に相当する部分は赤黒い光が存在していた。
そんな存在、見たことはなかったが知識には存在していた。
それはそう、生者を憎むモンスターの姿だった。
悲鳴こそ上げなかったが、隣にいた妹を抱き寄せたエンリの判断は間違っていなかっただろう。
なにせ相手は正真正銘の、異業種なのだから。
ちなみに原作より数日早く転移していたり。
とはいえそこまで大きな差異はありません。百年単位のズレでも年単位でもないので。