ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~ 作:善太夫
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まだ夜明け前の屍鑞玄室のベッドではありんすちゃんがスヤスヤ眠っています。こうして眠っている姿はまるで天使みたいですね。
ゴロゴロゴロ。ゴロゴロゴロ。大きなベッドなのでありんすちゃんがいくら寝返りをうっても大丈夫です。……多分。
ゴロゴロゴロゴロゴロ。ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……ゴチン!
大変です! ありんすちゃんが真っ逆さまにベッドから落ちてしまいました。
ありんすちゃんは何が起きたのかわからないようにボンヤリしていますね。もしかしたら単に寝ぼけているだけかもしれませんが……何はともあれ大事なかったみたいで良かったですね。
※ ※ ※
──ナザリック第九階層アインズ執務室──
「アインズ様、これが本日の報告書でございます」
アインズはアルベドから書類の山を受け取って中から一枚の報告書を無作為に取り出して目を通しました。
(……なになに……何やらデータみたいだな。よくわからないがエ・ランテルに於ける物資の在庫状況みたいだな)
「……うむ。問題は無いだろう。アルベドよ、良い働きだ」
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」
重々しく頭を下げるアルベドの後ろで扉をノックする音がしました。
「アインズ様、ありんすちゃん様がお目通りしたいとの事です」
アインズはデクリメントに指示してありんすちゃんを中に招き入れました。ありんすちゃんはアインズの前で可愛らしくちょこんとお辞儀をしました。
「至高のお方、アインジュちゃまにはご機嫌うるわしく、ご尊顔を拝し誠にきょうえちゅしごきゅ……」
「うむ……」
アインズはありんすちゃんの口上を片手を上げて制止すると尋ねました。
「さて、私に何か用かな? ……気兼ねなく申してみよ」
「アインジュちゃまのお手伝いをしたいのでありんちゅ」
「ありんすちゃん、アインズ様はこの私と大切な仕事の最中です。遊び相手が欲しいなら他を当たりなさい」
「いや……まて、アルベドよ。そうだ、せっかくだからこの国を良くする為のアイデアの検討にありんすちゃんも参加させてみよう。子供ならではの斬新な視点が得られるかもしれぬ」
「……アインズ様がさようにおっしゃるならば、この私に異存は御座いません」
アルベドの同意を得てアインズはありんすちゃんに話しかけました。
「どうだろうか? ありんすちゃんよ。是非とも忌憚のない──ああ、素直な、という事だな──意見を聞かせて欲しい」
「わかりまちたでありんちゅ」
アインズは用意していた紙を取り出しました。
「まずは……『魔導国にアインズ様を主神としたアインズ教団を設立してアインズ様の慈愛を国民全てに知らしめては如何でしょうか』……ふむ……」
アルベドは潤んだ瞳でアインズを見つめながら答えました。
「私もその提案には賛成です。我々にとって至高の方以上の存在等考えようがありません。至高の方を蔑ろにして神を信仰するなどという行為はむしろ根絶すべきかと思います」
「ちょっと待つでありんちゅ。ありんちゅちゃんは反対でありんちゅ」
「──な……」
不意をつかれてアルベドは思わずありんすちゃんを睨みつけました。しかしありんすちゃんはアルベドの鋭い視線に全く動じる様子がありませんでした。
「……意見を申してみよ」
アインズに促されてありんすちゃんは言葉を続けました。
「歴史を紐解くと宗教の違いはかじゅかじゅの争いをもたらしてきたでありんちゅ。今ある教会を無くす事は新たな混乱を招くだけでありんちゅ。教会や神はちょのままでアインジュちゃまは更にその頂点を統べる存在として君臨すべきでありんちゅ」
「ふむふむ。なかなか的を得た指摘だな。このアイデアはもっと様々な角度から検討すべきだろう」
アインズは次の提案を取り出しました。
「……こほん。なになに……『アインズ・ウール・ゴウンの紋章をデザインしたTシャツを国民全てに配布して団結力を高めると良いと思います』か……ふむ。これは是非ともけ──」
「──あまりにも下等な発想です。このような下らない意見が至高のお方の手を煩わすなど言語道断」
即座にアルベドが否定しました。と、静かにありんすちゃんが口を開きます。
「待つでありんちゅ」
アインズもアルベドもありんすちゃんをじっと見つめました。そういえば先ほどからのありんすちゃんはいつもと別人みたいですよね。
「魔導国の国民に自覚と誇りを持たせる政策は黎明期の現在、真剣に検討すべき案件でありんちゅ。Tシャツは下策でありんちゅが、アインズ・ウール・ゴウンの紋章を使ったオリジナルグッズの販売等は是非とも検討すべきでありんちゅ」
「……ありんすちゃん? ……どうしちゃったのかしら?」
「アルベド、アインジュちゃまの補佐役ならばアインジュちゃまの真意に気づけなければならないでありんちゅ。わざわざアインジュちゃまが自ら手書きで書き直すのはそもそも──」
「よ、よい。ありんすちゃんよご苦労であった。もうよい」
ありんすちゃんは恭しくアインズとアルベドに会釈すると部屋から出ていきました。二人だけになるとアインズはアルベドと顔を見合わせました。
「……ありんすちゃん、だよな?」
「……は、はい。……おそらく」
※ ※ ※
さて、賢くなったありんすちゃんですが……これからアインズの片腕として活躍してくれるに違いありません。これまでありんすちゃんの事を少しばかり残念な……ゲフンゲフン……思考する習慣が少なめだと思っていましたが……
その夜、ありんすちゃんは寝返りを打ち……
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……ゴチン!
翌朝にはいつものありんすちゃんに戻ってしまいました。
仕方ありませんよね。だってありんすちゃんは5歳児位の女の子なのですから。
※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました