ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~ 作:善太夫
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バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは苦々しい思いで城下を見下ろしました。帝国では折から新年を祝う民に溢れていてまさにお祝い一色になっていました。
「陛下、新年早々に苦虫を噛んだような顔ですが……そんなんだと幸運を逃がしますぜ?」
帝国四騎士の一人、“雷光”バジウッド・ペシュメルがおどけるように声をかけました。ジルクニフはそんなバジウッドに気がつかない振りを続けるのでした。
新年です。昨年に魔導王国の領国になると申し出てからまだ具体的な動きはありません。しかしながら臣下として年始の魔導王国詣ではしなくてはならないでしょう。その際にきっと無理難題を押し付けてくるに決まっているのです。そう考えていました。
街中の民はそんな皇帝の苦しみを全く知らずに新年を祝っているのです。それがジルクニフにとって腹立たしくもあったのでした。
「こんな話をしていると、また来ませんかね? あのドラゴンが……」
バジウッドののんびりとした発言にジルクニフの胃がキリキリと痛みすのでした。
(来る……きっと来る……忘れていたのではない。思い出したくなかったのだ。魔導王国の子供達が新年早々やってくるに違いない)
「……あ? ありゃ……陛下、まずい。ドラゴンが来ますぜ」
ジルクニフは固く目を閉じました。こうなってしまえば次の展開は見えています。あの、たどたどしい話し方の少女が『ありんすちゃん当てゲーム』を持ちかけます。正解しても不正解でも連れの双子のダークエルフの一人が地震を起こして兵士を飲み込ませます。これの繰り返しです。
やがて広場にドラゴンが降り立ちました。いつぞやの白い太めで眼鏡をしたドラゴンです。背中にはやはり三人の小さな影が見えました。間違いありません。きっとあの恐るべき魔導王国の子供達です。
「皇帝、いるでありんちゅか?出て来るでありんちゅ」
女の子が口を開きます。きっと次のセリフは『誰がありんちゅちゃんか当てるでありんちゅよ』だろうとジルクニフは思いました。
「……初詣でありんちゅからカツラを取った頭みちぇるでありんちゅ」
ジルクニフの顔がみるみるうちに朱色に染まりました。なんという屈辱でしょう。大勢の民の目の前で恥ずかしい秘密を大声で叫ぶなんて……それもまがりなりにも皇帝である自分に対して、です。
しかしながら、ジルクニフに拒否する事は出来ませんでした。ゆっくりとカツラを外すとチョロチョロとした毛だらけとなった寂しい頭を窓から突き出しました。
だって仕方ありませんよね? 彼の髪がドンドン抜けてしまったのも、全てはあの忌々しい魔導王国のアインズのせいなのですから。
充分にジルクニフの『初日の出』を堪能した子供達が叫びました。
「それじゃあ、皇帝にあたしたちからお年玉だよ? ……マーレ!」
ドラゴンから黒い杖を持ったダークエルフが降りました。きっと魔法で何か禍々しいモノを降らすつもりです。ジルクニフは空を見上げました。もしかしたら隕石でも降って来るかもしれない……と思っていた瞬間──
凄まじい地響きがしてまたもや地震が起きました。
「……どこがお年玉なんだよ? ……やーーめーーてーー!」
ジルクニフの悲痛な叫びは地響きに消されて届く事はありませんでした。