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警察へ利用者情報 任意協力の提供に疑問視も-苫小牧市立中央図書館

2018/11/13配信

 苫小牧市立中央図書館が昨年4月、警察の照会を受けて特定利用者の図書の貸し出し履歴や予約記録を提供していたことが分かった。全国の図書館や図書館員などでつくる公益社団法人日本図書館協会(東京)は、国民の知る自由や思想信条を保障するため、捜査機関への個人情報の提供に慎重さを求めている。しかし、中央図書館を所管する市教育委員会は、強制捜査の捜索差し押さえ令状のない任意協力の要請段階で情報提供した。市教委は「文部科学省から違法性はないとの回答を得ている」とするが、利用者から対応を疑問視する声も上がる。

 市教委によると、昨年4月14日午後、特定人物の図書の貸し出しや予約状況について照会を求める電話が警察から生涯学習課にかかってきた。これを受け内部で協議し、捜査協力を決めた。中央図書館では市教委の指示に基づき来館した苫小牧署員に対応。警察の捜査関係事項照会書を受け、市教委の判断も踏まえて情報提供に応じたという。

 図書館への照会に関し、苫小牧署は本紙の取材に「事実かどうかを含めて回答できない」としたが、「図書の貸し出し履歴や登録者情報などの照会は事件や事故の捜査で必要に応じて行うことがあり、収集した情報は捜査目的を除いて利用しない」と説明した。

 捜査機関への情報提供は、基本的に各図書館の判断に委ねられている。しかし、日本図書館協会は「図書館の自由に関する宣言」(1954年採択)で、憲法が保障する国民主権の基盤となる「国民の知る権利」を守るため、権力の介入に左右されることなく、利用者の秘密を保護する方針を明示。警察から任意捜査の捜査関係事項照会書が提出された場合も、図書館側が「緊急性がない」と判断すれば、情報提供を断る指針も示している。

 警察側がそれでも情報の必要性を訴えてきた場合、裁判所からの捜索差し押さえ令状の提出を求めるよう促している。

 市教委によると、警察への情報提供は「この5年間で見て、初めてのケース」と話す。また、本紙が複数の元図書館長に取材したところ、少なくともこの10年間、警察に利用者情報を提供した記憶はないという。元館長の1人は「本の貸し出し履歴は思想信条にも関わる個人情報。警察の照会を受けたこともあったが、令状の提出を求め、提供に至らなかった」と述べた。

 警察からの要請を受け、市教委は文部科学省に対応について問い合わせたところ、「各自治体の判断だが、応えても特に問題になる案件ではない」との回答を得たという。しかし、警察が個人の読書履歴をどう利用するのかを含めて、捜査内容について「把握していない」としている。

 市教委の対応に利用者の反応はさまざまだ。図書館で時代小説などをよく借りるという元中野町の女性(77)は「何も悪いことをしていなくても、(疑わしいと見られて)知らないうちに警察に調べられるのは嫌な気分。それが図書というところも抵抗感がある」と市教委の対応を疑問視した。一方で澄川町の男性(41)は「街の監視カメラと同じように、治安を守るために必要な面もあるのでは」と一定の理解を見せる。

 本紙が市外の公共図書館に対して類似ケースへの対応について取材したところ、室蘭市立図書館は「図書館として中立的な立場を守るためにも、原則的には日本図書館協会の指針に沿った対応になると思う」とと話した。

 個人情報保護法などに詳しい新潟大学法学部の鈴木正朝教授は「図書館の貸し出し履歴を緊急性など特別な事情の有無を確認することなく、漫然と第三者提供するのは問題だ。情報提供の基本は令状に基づくことが図書館の常識ではないか」と言う。

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