【首都スポ】[バレーボール]女子日本代表の若きエース古賀紗理那2018年11月14日 紙面から
私が日本のエースだ! そう言わんばかりの活躍を見せるのが、バレーボール女子日本代表のウイングスパイカー、古賀紗理那(22)=NEC=だ。9月29日から10月20日まで横浜市などで開催された世界選手権。約1カ月で12試合というハードスケジュールの中、6位に終わった日本だが、攻守において抜群の存在感を発揮した。2年後の東京五輪に向け、世界の強豪と渡り合った経験、敗れた悔しさを糧として、「日本国内でも同じポジションの選手には絶対負けたくない」と言う。東京五輪での女子バレー完全復活に向け、若きエースがVリーグで飛躍を誓う。 (スポーツライター・田中夕子) 連日ゴールデンタイムで生中継された世界選手権で「ヤングエース」として注目を集めた。ただでさえ、180センチと背が高い。町を歩くだけでもさぞ大変ではないかと思いきや、意外とそうでもないらしい。 「関東の人って、声をかけたりしないですよね。遠くから『あれ?』と見られるぐらい(笑)。そもそも休みもないし、自分が注目してもらっているのか、よくわからないんですけどね」 ほぼ全試合に出場し、攻守両面で存在感を発揮。初めての世界選手権は、古賀紗理那にとって、ひとつ殻を破るきっかけになった。表情にも、力強さがみなぎる。 「あとちょっとで勝てた、と思う試合が多かったから、もう東京(五輪)で勝つしかない。今まで以上にすごく、そう思うようになりました」
約1カ月で12試合。打って、拾って、走り回る。フルパワーで戦い抜き、休む間もなく、今月3日には国内のVリーグが開幕した。疲労もたまって当然なのだが、顔の前でぶんぶん手をふりながら、目を細めて笑う。 「全然平気なんです。大会前にフォームを変えて、それがすごくよかったみたいで疲れもなくて。前だったら絶対、『あー疲れた、もう無理』って、もっとボロボロになっていました(笑)」 高校在学時の2013年に日本代表に選出され、15年にはW杯に出場。翌年のリオデジャネイロ五輪での活躍が期待されたが、最終選考で漏れ、初の五輪出場は逃した。前日本代表主将の木村沙織さんからの「紗理那は絶対埋もれちゃダメだよ」という言葉を支えに奮起を誓うも、昨年のワールドグランドチャンピオンズカップは直前のけがで離脱。今年8月のアジア大会も、調子が上がらずメンバーから落選した。 日本代表・中田久美監督(53)は、古賀の意識改革を求めていたのだが、アジア大会のメンバーから漏れた直後の古賀に真意はわからない。「もう自分はこれで終わりなんじゃないか、と落ちるところまで落ちた」と振り返る。 一度は世界選手権もあきらめかけたが、トレーナーからの進言を受け、スパイクフォームの改善を機に復調。力強いスパイクで得点を重ねる古賀を、中田監督も「世界選手権に入って顔つきが変わった。スパイクも1本1本考えながら打つようになった」と評価した。 セルビア、ブラジルといった並み居る強豪に対しても、エースとして真っ向勝負。課題としてきたバックアタックも含めた攻撃で得点源として活躍した。だが、成果よりも目が向くのは課題。「今でも悔しい」と言うのが、勝てば準決勝進出のチャンスがあった3次ラウンドのイタリア戦だ。 最終セット、9対8と1点をリードした場面で、古賀にトスが集まる。渾身(こんしん)のスパイクは1本目がサイドラインを割るミスとなり9対9。そして2本目は相手のブロックに捕まり9対10。終盤の逆転から、そのまま逃げ切ったイタリアが3対2で制し準優勝を果たした。
「悔しかったです。いくら前半に決めても、大事な終盤で決められないと自分も納得しないし、周りもがっかりする。そういう時こそ、決めきらなきゃいけないんだ、って思いました」 経験を重ね、エースとして、芽生えた覚悟。世界で勝つために、国内でも絶対に負けない。今まで以上にVリーグでの戦いにも気合がみなぎる。 「東京オリンピックで勝つために、今、Vリーグでやるべきことがある。バックアタックもディフェンスも、自分で計画的にコツコツやって、最後は絶対勝ちたいです」 真っすぐ前を見据える、瞳と笑顔が輝いた。 <古賀紗理那(こが・さりな)> 1996(平成8)年5月21日生まれ、佐賀県吉野ケ里町出身の22歳。180センチ、66キロ。小学2年からバレーボールを始め、熊本信愛女学院高では数々の全国大会で活躍。同校在学中の2013年に日本代表に選出された。15年にNECへ加入し、直後のシーズンにVリーグで優勝。日本代表としてW杯に出場を果たし、17年にもVリーグ優勝。MVPを受賞した。 <番記者 ちょっといい話>「じい」の応援が何より力の源世界選手権が終わってすぐにVリーグ。休む間もなく、ハードスケジュールを強いられる古賀にとって「癒やし」の存在が、佐賀・吉野ケ里町に住む祖父、義治さん(82)だ。 世界選手権前に、成人式からずっと伸ばしていた髪を、「広瀬すずをまねして」ばっさりカット。テレビ中継で孫娘を応援していた義治さんも、「切る前は『長いのも魅力的だね』と言っていたのに、切ったら『やっぱり紗理那はショートやな』って(笑)。じい、かわいいんですよ」と古賀も顔をくしゃくしゃにしてうれしそうに笑う。 愛情たっぷりに「じい」と呼ぶ義治さんの応援が古賀にとっては、何より力の源。 「世界選手権の時も、私の背番号入りのTシャツを着て、めちゃくちゃ応援して、大喜びしてくれたらしくて。もしも東京オリンピックに出たら、じいもすごく喜んでくれると思うんです。だから、その笑顔を楽しみに、絶対頑張ろうって思うようになりました」 年末の帰省時は、義治さんに会える。それが何よりの楽しみだ。 ◇ 首都圏のアスリートを全力で応援する「首都スポ」。トーチュウ紙面で連日展開中。
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