費用負担への反発や保育の「質」への懸念は、合意形成作業を軽視し、導入を急いだひずみだ。

 来年10月に始まる幼児教育・保育の無償化を巡って、全国市長会が「国が費用を全額負担すべきだ」との要望書を与党に提出した。全国知事会も同様に「国の責任で必要な財源を」と政府に要請している。

 無償化は昨年の衆院選直前に安倍晋三首相が突如、消費税増税の使い道を変更して掲げた公約だった。3~5歳児は全世帯、0~2歳児は住民税非課税世帯を対象とするもので、必要財源は約8千億円と見込んでいる。

 政府は消費税が引き上げられれば地方税収も増えるとして自治体にも負担を求める考えだが、地方は政府が決めた政策なのだから「全額国費」を主張している。

 少子高齢化を「国難」と位置付ける安倍政権は、消費税10%への引き上げで得られる税収5兆円強のうち、約1兆7千億円を幼保無償化を含む子育て支援策に振り向ける予定だ。2012年の「社会保障と税の一体改革」では、増収分の多くを財政赤字の削減に充てる予定だった。

 すべての子どもが幼児教育を受けられる環境を整えることに異論はない。しかし振り返れば、増税分の使い道を変更し無償化に充てることは、自民党内でも国会でも議論らしい議論がなかった。

 自治体が「税収をあてにしていろいろな政策を準備してきた」と反発するのはもっともである。

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 保育の実務を担う自治体で無償化への賛同が広がらないのは、待機児童問題が解消されない段階での効果を疑問視しているからだ。

 政権の看板政策とはいえ、聞こえてくるのは、「待機児童の解消と順番が逆」「保育士の確保などに財源を使うべき」といった声である。

 今年9月時点の保育士の有効求人倍率は2・79倍。全体の1・64倍に比べ人手不足が目立つ。

 保育士が集まらず保育所を新設したのに開園できなかったり、受け入れ人数を制限したりといったケースも、ここ数年増えている。

 幼児教育が無償化されれば、子どもを預けて働きたいと考える親は増えるはずだ。それに見合った施設整備が進まなければ、待機児童が増え不公平感が広がる。さらに無償化による需要の掘り起こしは、現場を疲弊させ、保育の質の低下を招きかねない。

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 国の施策の不備は、無償化を見越した「便乗値上げ」の動きとしても表れている。

 共同通信が先月実施した調査によると、私立幼稚園の約4割が来年度、保育料の値上げを考えている。職員の給与引き上げのためとする園が多かったものの、中には国の補助上限額まで引き上げるとした不自然なケースも。便乗値上げのツケを支払わされるのは私たち納税者である。 

 唐突に選挙公約に掲げ突貫工事で進められた無償化政策は、制度設計や効果の検証が不十分だ。誰のための施策なのか、原点に立ち返る必要がある。