きのう、私が「上席研究員」として籍を置かせていただいている情報法制研究所(通称「JILIS」)宛に、カドカワ代表取締役・ドワンゴ取締役CTOの川上量生さんという人から配達証明付きの速達郵便が届いていたようです。

 ようです、というのは、私がまずJILIS宛に配達されたというその現物を見ていないこと、JILISからは「川上さんから何か届いたよ」という連絡のみがまずあったことで、一度、JILIS理事などが吟味してから内容をお送りいただけるというので待っていました。

 その実物については送られてきた画像を見る限り、銀座の消印でカドカワの封筒に入った、文末に「カドカワ株式会社 代表取締役 川上量生」との自筆があるとのことで、はて、これは本人が送付のものなのか、誰かが騙っているのかが分かりません。私も結構頻繁に怪文書を頂戴したり、変な文書をばら撒かれる経験もあります。誰かのいたずらの可能性もあるので、これはカドカワに公式に問い合わせてみないと分からないなあと思っていたわけです。

 ところが、今朝になって川上量生さんご自身が公式ブログで全文を掲載しておられるとのことで、見物にいきました。おお、その山本一郎って超悪い奴なんですかね。
 何しろ「川上量生公式ブログ」での書き込みですし、川上量生さんとみられるTwitterアカウントからも発言があるので、香山リカ先生なみにアカウントを乗っ取られていない限り、カドカワ株式会社代表取締役川上量生さんからの何らかのご請求であろうということは確認が取れました。以下、その前提でお話を進めます。

情報法制研究所に抗議文を送付しました。 http://ch.nicovideo.jp/kawango/blomaga/ar1697280

 何しろ、書簡の書き出しからして「前略」から始まり「草々」で終わっており、友達かよ。

 さて、その本文に関してですが、要するに名誉棄損だぞということが言いたいのでしょうか、内容について何を仰りたいのか理解しがたいことが羅列されています。そもそも、カドカワ社の代表取締役から抗議を貰う筋合いのものはひとつもありません。なんせ、書面の冒頭からして「『インターネット上の海賊版対策に関する検討会議』(以下、『検討会議』といいます。)の委員をしております、川上量生と申します」と政府委員の肩書で自己紹介が始まったはずが、文末の自筆署名、差出人がなぜか「カドカワ社代表取締役の川上量生」になっております。カドカワ社法務もドワンゴ社法務も主戦となるべき弁護士事務所からの代理人印もなく、ただただ生身、抜き身の状態のままの川上量生さんがカドカワ代表取締役を名乗って差出人署名となっているという、メディア史における金字塔的な状況です。

 「ぐるぐるロボコンパンチ」が名誉棄損に当たるのかどうかも含めて、理解不能ながら非常に興味深い抗議内容に深い感銘を抱くとともに、「理事長並びに山本氏が上記行為に対して、公式に謝罪を行うこと、そして、個人攻撃に関わる発言を削除することを要求」とあるので、上記行為の何に対しての公式の謝罪を求められているのか、どのコメントが個人攻撃に関わる発言なのか、削除してどうなるものなのか、追加の釈明をカドカワ株式会社と川上量生さんには求めたいと思います。

 分かりやすく書くならば:

・謝れや!! → 何に対して?

・個人攻撃や!! → どの問題(指摘、表現)が、誰に対して?

・削除しろや!! → どういう理由で?

という話です。本件に関しては(裁判ではないので文言としては適切ではありませんが)「釈明」を川上量生さんにはお願いしたいです。いわゆる一般的な「釈明、言い訳」ではなく「理由の説明」「主張の裏付けとなる証明」をしてほしい、という意味です。率直に申し上げて、私に批判をされて川上さんがムカついたので謝れ、消せという意味以上のものを、郵便の書面からは感じ取れませんでした。ただ、もちろん川上さんの指摘が正当だと感じられるようであれば、何らかの対応を行うことはやぶさかではありません。

 最後に、私見ではありますが、川上量生さんは政府委員であり、重要な政策について”有識者”として政府内で直接議論を行い関与する人物です。この発言内容や利害関係に関して、明示できる根拠をもって内容を精査し意見論評を加え、場合によっては然るべき批判を加えるのは、民主主義の大事な機能の一つであると考えています。

 しかしながら、川上さんと私の発言における個別のコンテクストすら明示せず、いたずらに私の発言が名誉棄損だ誹謗中傷だと断定したうえで、適切な手続きも経ずに謝罪と削除を求め、また、所属団体であるJILISの責任さえも問うというのは言論弾圧に類するものであろうと思います。

 私個人はJILISの所属ではあるものの金銭の授受や取引はなく、また、JILISから川上量生さんに対して意見論評を行えという組織的な要請もなければ共謀の事実もありません。研究プロジェクトの発注でもなく、個人での活動は制約されるものではない、好きに公に発言して良い、としか言われていないというのが紛れもない事実です。JILISは上意下達の会社組織による指示・命令系統のある団体ではなく、意識と知識のある有志個人の集まりでしかないのです(もちろん無給です)。

 仮にこれが、どこかの企業に所属する、あるいは、何らかの文筆業を行いカドカワほか特定の出版社と深い関係にある執筆者であったならば、「カドカワ株式会社 代表取締役」を名乗っての抗議を見てビビったり、筆を丸めたりする人たちも出るかもしれません。実際、私自身はペンネームを使った執筆者としてカドカワから少なからず執筆に対する報酬を得ており、川上量生さんから抗議をされることでこれらの版権を扱わない決定をされて収入が減ったり、新しいカドカワ方面の仕事ができなくなるリスクはすでに感じているところです。

 それでも、一連の海賊版サイトのブロッキング議論や、新たに文化庁で話が進んでいるリーチサイト規制、ダウンロード違法化の問題については、いずれも憲法上の問題があるだけでなく、通信業界の根幹である通信事業法に抵触する可能性が高く、さらに、罰則の対象者はNTTグループなどの事業者ではなく実際にブロッキングを手配する現場の技術者や作業者個人になります。このような多くの利害関係者がいることが分かっていながら、ただ海賊版による被害額を過大に見積もり、政府に働きかける方法論は自社や業界の利益のみを追求するためだと評されてもそう遠くはないでしょう。

 このような議論については、誰が何と言おうと、リスクを背負ってでも批判しなければなりません。私個人や関係法人とカドカワ他取引先で得られる利益が失われようとも、社会全体の便益のためにモノを知りモノを言える人間が立ち上がらなければならない、公論として論じるべきものは論じることが神たり得ぬ人間の為すべき務めであると確信します。

 いずれにせよ、上記内容につきまして、川上量生さんからの返答をお待ちしつつ、内容を精査のうえ、正しいと思う部分については引き続き論じ、もしも誤りがあるようであれば謝罪もいたします。ただし、私は川上量生さんの一連の議論全体において、川上量生さんは不誠実であり続けたと考えています。川上量生さんに「NTTと密約があるのではないか」と訊いた際の否定、その後のメディアで「NTTを訴えてもいいですか」とのインタビュー記事でようやく追認。「クラウドフレア社は裁判所の決定に応じないであろう」とした川上量生さんの発言を確認した後、クラウドフレア社は海賊版サイトの運営監理者情報を提供したことが判明した際の態度。さらには、同じ検討会議構成員でブロッキング推進派である林いづみさんが社外取締役を務めたクールジャパン機構からカドカワ子会社に4億円あまりの出資を行う利害関係者である指摘を行った件は、いずれも事実関係を明らかにしたうえで川上量生さんに問いかけてきたものです。果たしてこれらは川上さんに対する個人攻撃なのでしょうか。

 そもそも、個人攻撃という点で言うならば、私は川上量生さんに「バカ」と書かれ、「総会屋2.0」と謂れもない中傷をされています。また、友人である黒川文雄さんの開催している『黒川塾』というイベントにおいては、昨年出演しようとした私や主宰の黒川さんに対して実在するカドカワグループの幹部社員を名乗る人物から「このようなイベントを開催すると、あなたの風評に取り返しのつかない問題が起きますよ」という”忠告”をいただいたりもしました。他にも幾つもありますが、そのようなご自身に関わるところでの個人攻撃を棚に上げて、事実の指摘や批判的な意見論評を中傷と捉え、謝罪と削除を求めることに関しては、川上さんの過去の経緯に対する釈明なしに簡単に応じるつもりはありません。

 いずれにせよ、本件については引き続き、いままでと変わらず、神以外の誰からの制約を受けることもなく、私は私の判断で、私の責任のもとで行動を続けていくつもりですし、逆に、誰からどのようなことを言われようとも、必要なことは申し上げていこうと存じます。

 今後とも、よろしくお願い申し上げます。


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