ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~   作:善太夫
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056番外編 ふしぎのくにのアインズちゃん

 唐突ではありますが、ある朝アインズが目覚めると5歳児位の女の子になっていました。

 

 そもそもアインズはアンデッドであり、睡眠を必要としません。ですからいつものようにアインズ番のメイドに注視されながら、ベッドに横たわり『部下に信頼される上司とは』等のタイトルのハウツー本を読みふけっていた筈なのですが……どうやらいつの間にか眠ってしまい、目覚めたらそうなっていたのでした。

 

「おはようございます。アインズ様」

 

 アインズ番の一般メイドのインクリメントが声をかけてきました。

 

「……うむ」

 

 アインズはそっと枕元に手を入れてみました。大丈夫、『部下に信頼される上司とは』はまさしくそこにありました。どうやら眠りかけた時にとっさにしまったようでした。

 

 アインズはさり気なくボックスにハウツー本をしまい、小難しい本『古代ヨーロッパにおける地政学的分析と検証』を枕元にしまいました。次にベッドから降りようとしましたが、背がかなり小さくなっていて足が届きません。インクリメントは慣れた様子でアインズの足元に踏み台を置きます。

 

「……コホン……うむ、ご苦労」

 

 アインズはチラチラとメイドの表情を伺いましたが、特に変化は見られませんでした。どうやらアインズが小さくなっている事を変だとは思っていないようでした。

 

「……衣装は任せる」

 

 途端にインクリメントの瞳が妖しく光り始めます。アインズは心の中で(ああ、お前もか)と小さな溜め息をつきました。

 

「アインズ様。本日は紫をテーマにしてみては如何でしょうか? ……何でも昔から高貴な色とされてきているそうでしてアインズ様の御身を飾るのに相応しいかと……」

 

 鏡を見たアインズは深く溜め息をつくのでした。アインズの衣装はいわゆるゴシックロリータでまとめられていて、まるでビスクドールのようでした。それでいて顔はガイコツなのですから違和感があり過ぎました。

 

(……似合うのか? これ)

 

 アインズの心の声とは裏腹に居並ぶ一般メイド達からは賞賛の声ばかりが聞こえてきました。

 

 やれ「実にお美しい……白玉の肌に紫の映える事」「まさに王者としての威厳そのもの」 お尻がむずかゆくなる思いをしながらアインズは「うむ……ご苦労」とねぎらう事で精一杯でした。

 

 少しずつ落ち着いてきたアインズはふと不思議な感覚があるのに気がつきました。それは自分自身が『女の子』になってしまったという感覚があって、少女趣味な服装をする事に抵抗感が全くないことでした。

 

 もともとガイコツである自身の身体には性別を示す性器などないので性別の違いなど大してなさそうなものですが明らかに『女の子』であると感じるのです。法医学的に見れば骨盤の形状から男女の区別がつくのでしょうが……アインズはふと5歳児位の女の子になったシャルティアの事を思い出すのでした。

 

 アインズの記憶ではたしかシャルティア──ありんすちゃん──がナザリックを飛び出した後から記憶がありません。そしていきなりアインズは女の子として目覚めたのでした。

 

「……うむむ……これはいったい?」

 

 アインズは控えている一般メイドに尋ねました。

 

「……インクリメントよ。私はいつからこの身体なのか?」

 

 インクリメントは最初のうちは意味がわからないという顔をしていましたが、ようやくアインズの意図を理解すると答えました。

 

 今ひとつ要領を得ないインクリメントの話をまとめると、どうやら『この世界』のアインズはシャルティアの洗脳を解く為に『星に願いを』を発動させるが失敗してしまい、あろうことか少女化してしまったらしいのでした。

 

「……なん……だ……と……それではシャルティアは? ……シャルティアの洗脳はどうなった?」

 

「おそれながら……シャルティア様はいまだあのまま……」

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「……なんだこれは? ……なんなんだ?」

 

 表情はわからないがアインズ様はかなりお怒りのようでした。私は心底震えました。

 

「……つまり、ありんすちゃんのかわりに私が少女になる、と? ……くだらん! だからお前はいつまでたっても評価が黄色止まりなのだ」

 

「も、申し訳ありません」

 

 私はアインズ様の足元に土下座しました。いっそのことアインズ様の靴でも舐めてしまおうかと思いましたが止めておきました。

 

「そもそも……だ。お前は単なる二次作者に過ぎん。しかも読者も少ない作品だ。……なんというタイトルだったかな?」

 

「『ふしぎのくにのありんすちゃん』にございます」

 

「その『ふしぎのくにのありんすちゃん』だがな……私の出番が少な過ぎではないか? 読者もそう感じていると思うぞ?」

 

「わたくしの出番も少ないように思います」

 

 横からアルベドも口をはさみました。

 

「おそれながら魔導王陛下、主役はありんすちゃんでございまして……」

 

「なんという事を! ……おのれアインズ様の御前で……」

 

「よい。アルベド。……そもそもありんすちゃんをナザリックから飛び出していかせたのは作者であるお前自身ではないか。……それならばその責任は私が少女化する事ではなくお前自身がとらなくてはならないのではないのか?」

 

「……そうでありんちゅ」

 

 私は眼窩の奥で暗く光る赤い光りに射すくめられて言葉を返せませんでした。思い返せばただ『プレイアデスの日』を読みたいが故にオーバーロードの二次小説を書き始めただけだったのにこんな事になるとは……

 

「餓食狐蟲王の所に連れて行け」

 

 アインズは冷たく言い放つと玉座から立ち上がりました。私は目の前が真っ暗になり、力なく跪くのでした。まさに絶体絶命──

 

「まちゅでありんちゅ」

 

 その時まさに天使の声が聞こえてきたのでした。

 

 いつの間にかありんすちゃんがアインズの側に立っていました。ありんすちゃんは思慮深い瞳で私をじっと見つめていました。

 

「アインズちゃま、この者はさくちゃでありんちゅから助けてほちいでありんちゅ」

 

 今度はアインズの瞳をじっと見つめました。純真無垢な瞳がゆっくりアインズの怒りを溶かしていきます。

 

「……うむ、善太夫の処分はありんすちゃんに委ねるとしよう……それにしても何時戻ったのかね?」

 

「おやつが食べたくなって帰ってきたでありんちゅよ」

 

 しっかりしているようですがやはりありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なんですよね。アインズは思わず破顔しました。

 

「さて……がちょくこちゅおうのお家になりたくなかったら、ありんちゅちゃんの言う事きくでありんちゅね」

 

 私は力強く頷きました。

 

「……まずは……もっと更新するでありんちゅね。それからもっと面白くするでありんちゅね。ありんちゅちゃんがもっともっと活躍するでありんちゅね……」

 

 ありんすちゃんの要求を聞きながら私は思わず叫んでいました。

 

「すみません。餓食狐蟲王の所へ連れて行って下さい」

 

 

〈ふしぎのくにのアインズちゃん おわり〉

 

 

 

※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました

【挿絵表示】

 

 








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