ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~ 作:善太夫
<< 前の話 次の話 >>
バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは苦々しい思いで城下を見下ろしました。帝国では折からハロウィンの飾り付けが溢れていて、あたかも異界の国であるかのようでした。
「陛下、ハロウィンは嫌いでしたっけ?」
帝国四騎士の一人、“雷光”バジウッド・ペシュメルがおどけるように声をかけました。ジルクニフはそんなバジウッドに気がつかないかのように城下を見下ろし続けています。街中にはカボチャやガイコツの飾りが溢れ、それらをじっと見つめ続けながらボソッとジルクニフは呟きました。
「……ハロウィンなんてクソ食らえ、だ。なんであんな奴らを崇めるようなイベントなど……」
「……魔導国、ですか? ……気持ちはわかりますが、あんなバケモノ相手にしちゃ命がいくつあってもどうしようもないですよ」
「……わかっている」
アインズ・ウール・ゴウン魔導国──属国化を決めたもののアンデッドは生者に対して憎しみを抱くものだという。いつ、その歯牙が帝国に向かうかわからない……ジルクニフは頭をかきむしりながら苦悩するのでした。
──いまいましい。なにがハロウィンだ──意味がない事はわかっているもののジルクニフにとってはアンデッドの祭りのようなハロウィンが恨めしく思えるのでした。
気分転換に視点を空に向けたジルクニフは、雲の彼方に小さななにかを見つけました。
「まさか……な……」
ジルクニフはついドラゴンの姿を思い浮かべてしまうのでした。──厳密には、ドラゴンの背中に乗った魔導国の三人の子供達の事を苦々しく思い出していました。
「へ、陛下! ありゃ……まずいですぜ?」
バジウッドの言葉より先にジルクニフはその小さな姿がドラゴンであると確信していました。
※ ※ ※
ありんすちゃんはアウラの声で目覚めました。
「おはよーありんすちゃん。今日はハロウィンだよー」
アウラは絵本に出てくる魔女の格好をしていました。その後ろのマーレはフランケンシュタインの怪物でしょうか?
「はろいん、でありんちゅか? 何でありんちゅ?」
アウラは腕を組んで答えました。
「うーん……なんか、トリックオアトリートって言ってお菓子を貰うイベントらしいよ? ……あたしもよくわからないんだけど、仮装してイタズラしまくるお祭りなんだってさ。それって面白そうじゃん」
ありんすちゃんは飛び起きました。瞳をキラキラさせています。ありんすちゃんはお菓子もイタズラも大好きですから。
ありんすちゃんはアウラが用意してきたカボチャのお化けの衣装に着替えます。マーレは何故かずっと後ろを向いていました。
「で、どこに行こうか?」
アウラはありんすちゃんに尋ねました。ありんすちゃんに思い浮かべられるのはそんなに多くはありません。
「帝国がよいでありんんちゅね」
「う、うん。それならボ、僕のドラゴンで……」
「決まった!早速出発しよう」
かくして急遽、アウラ、マーレ、ありんすちゃんの三人はバハルス帝国に出かけるのでした。
※ ※ ※
帝国へはもう何回も来ているので慣れたものです。行き慣れたルートを通り、あっという間に帝国の上空に来ました。街並みはすっかりハロウィン一色で飾られており、三人の子供達を喜ばせました。
手慣れた様子でマーレは帝国の王城のそばの広場にドラゴンを降ろします。以前に地震を起こさせた事を警戒してか兵士達は遠巻きにしています。
「トリックオアトリート! お菓子くれないとイタズラしちゃうよ!」
アウラがマイクで叫びました。慌てたのは皇帝ジルクニフです。あの子供達のイタズラでまたしても多くの兵士を失うだろう事は明白です。なんとしても防がなくてはなりません。
「お菓子だ! 王宮のあらゆるお菓子をありったけかき集めて運び出せ!」
兵士達もまだ先日の惨劇を忘れていませんから必死になって働き、広場にあっという間にお菓子の山が出来ました。
「アインズ・ウール・ゴウン魔導国の方々! どうぞお召し上がり下さい!」
ジルクニフは皇帝の威厳すらかなぐり捨ててドラゴンに向かい平伏しました。バジウッドら配下もならいます。
「わかった! それじゃあ──」
ニコニコした三人の子供達が拍手をします。それを見て安堵したジルクニフの笑顔が次の瞬間に凍りつきました。
「じゃあ、お礼に──マーレ!」
フランケンシュタインの怪物の仮装をしたダークエルフが黒い杖を振り上げました。
「な、なんでー!?」
折から起こる凄まじい地響きにジルクニフの絶叫はまたしてもかき消されてしまうのでした。
※ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました