ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~ 作:善太夫
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ありんすちゃんは朝から物思いに耽っているみたいです。やたらとため息をついたり、ぼんやり考え事をしています。
もしかしたら恋の病とか? まさかね……
ありんすちゃんの周囲だと少年なのはマーレだけですが……もしかして? ……そうなるとありんすちゃんとアウラは姉妹になりますね。
おっと……どうやらありんすちゃんとアウラの両名から抗議が来たようなので、違うみたいですね。
ありんすちゃんは窓から顔を出して外を眺めながら、何処かに消えてしまったレースの飾りのお気に入りの真っ白なパンツの事を思い出していたのでした。
すると、風に乗った小さな葉っぱがありんすちゃんの顔に止まり、ありんすちゃんの鼻をくすぐります。
「くちゅん!」
ありんすちゃんは何処かにテレポートしちゃいました。
※ ※ ※
ありんすちゃんが飛ばされてきたのは何処かの王宮の中でした。ありんすちゃんはすっかり忘れてしまっていますが、以前、ニグレドに見せてもらった白いパンツの在処──竜王国の女王、ドラウディロンの寝室──に転移していたのでした。
ありんすちゃんが起き上がると、高級そうなネグリジェを着た少女がありんすちゃんの下で気絶していました。どうやらこの少女の上に転移してしまったみたいですね。
お気に入りのパンツの事を考えていたありんすちゃんは、もしやと思い女の子のネグリジェを捲り上げてみましたが、彼女の下着は残念ながらありんすちゃんのではなく赤い下着でした。
ありんすちゃんはがっかりしました。ふと、ベッドの脇を見ると女の子の服が綺麗に畳んで置いてあります。ありんすちゃんはニコニコしながらその服──女王ドラウディロンの服──に着替えました。
部屋の片隅のクローゼットに気絶したままの女の子を押し込むと、なに食わない顔をしてベッドに潜り込みます。
「──陛下! いかがなされましたか? ……何やら大きな音がしましたが……」
扉を開けて竜王国宰相が駆け込んできました。ありんすちゃんを見ても、入れ替わった事に気がつかないみたいです。
「おはようでありんんちゅ。食事にするでありんちゅね」
「は、はい……陛下……ですが、その前に」
宰相はありんすちゃんの顔に自分の顔をグッと近づけて言葉を続けました。
「“閃烈”のセレブレイト殿の謹慎をそろそろ解いて頂けないでしょうか? かの者なしでビーストマンの進攻は抑えられません。……法国から援軍を送るとの言質を得てはおりますが、このままでは援軍到着の前に滅亡してしまいます」
ありんすちゃんは何だか厄介な時に入れ替わってしまったみたいですね。これはこっそり帰った方が良さそうですよ?
「……びーすとまんでありんちゅか? 面白ちょうでありんちゅね」
ありんすちゃんの瞳が好奇心でキラキラしています。そういえばありんすちゃん、こういう厄介事が大好きなんでしたね。
「良いでありんんちゅ。食事したらびーすとまんやっちゅけてくるでありんちゅ」
宰相は目を剥きました。彼はあくまでもありんすちゃんをドラウディロンだと思っていますから、いよいよ黒鱗の竜王の始原の魔法が使われると考えたのでしょう。
「……陛下……それでは……よろしいので?」
ありんすちゃんには宰相の考えなどわかるはずもないのですが、面倒くさくなってきたので適当に相槌をうちました。
さて、竜王国内では上から下への大騒ぎです。とうとう竜王国女王、黒鱗の竜王ドラウディロン女王が始原の魔法を用いてビーストマンに鉄槌を下す、というニュースは瞬く間に広がっていきました。
「では……生け贄の住人はいかほど必要でしょうか?」
食事をしているありんすちゃんに宰相が尋ねました。ありんすちゃんは面倒くさいので両手を広げてみせました。
「じゅ……十万ですと……いや、かくなる上は仕方ないでしょう。わかりました。手配いたします。これも国の存亡の為、致し方ない事でしょう」
ありんすちゃんは食事を終えるとお風呂に入りました。宰相は始原の魔法を使う為のお清めの儀式だと思ったみたいでしたが。
「陛下。“閃烈”セレブレイト殿が謁見を申し出ております。お会い頂くのが宜しいかと……」
ありんすちゃんは鷹揚に頷くと、玉座の前に一人の騎士が進みでて来ました。
「陛下。ご尊顔は拝し誠に幸せに存じ上げます。此度は陛下直々の親征との由、お許し賜れるならばこの身をお側に……」
セレブレイトが額を打ちつけると、懐から一枚の布切れが落ちました。なんと! ありんすちゃんのお気に入りのパンツではありませんか!
ありんすちゃんはパンツを拾い上げるとセレブレイトを下がらせます。ようやくパンツを取り戻したありんすちゃんは踊るような足取りで玉座に座り直します。
「びーすとまんやっちゅけてやるでありんちゅ」
※ ※ ※
戦場に着くとありんすちゃんは真紅のフルプレートに身を固めました。手にはスポイトランスを持っています。
遠くからみるとスポイトランスが大き過ぎて、スポイトランスがありんすちゃんを持っているように見えますが……おそらくフルプレート同様に今のありんすちゃんのサイズに合わせる事が出来る筈だと思いますが……まあ、なんだかんだでありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子に過ぎないので仕方ないですよね。
ありんすちゃん一人に対してビーストマン軍はその数三万。ライオンやヒョウなどの頭を持つ彼らは小さなありんすちゃんを見て笑いました。
ありんすちゃんはお構いなしに駆けていきます。スポイトランスを振るうとたちまち百人ものビーストマンが飛ばされました。まるで落ち葉を竹ぼうきで掃くように、ありんすちゃんは次々にビーストマンをスポイトランスで掃除していきます。
ほんの三十分足らずで三万ものビーストマンは綺麗に掃除されてしまいました。子供になったとはいえ、かつての階層守護者最強のありんすちゃん、流石ですね。それともビーストマンが弱すぎたのか……
一斉に勝どきが響く中、舞い上がっていたビーストマンの抜け毛がありんすちゃんの顔に留まりました。
「くちゅん!」
ありんすちゃんの姿は消えてしまいました。
※ ※ ※
その後──寝室のクローゼットからドラウディロンが見つかりましたが、彼女は気絶したままで何も覚えていませんでした。人々はきっと始原の魔法を使った後遺症だと噂するのでした。
尚、生け贄として選ばれた人々は何事もなく帰る事が出来たそうです。