オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記 作:ほとばしるメロン果汁
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「すごい揺れてる……」
モモンガは変わらず待ち惚けながら足をブラブラさせていた。ドラゴンとの戦闘や帝国へ赴く際の注意点など、今の情報で考えられるケースをできるだけ考えその対処方法なども考えた。そして考え尽くした所ではたと気づいた。
――ブルンブルン、と足を動かす毎に揺れる胸に
(設定的に見た目は変わってないけど)
モモンガはこの胸についても今後の問題点を考えた。ぶっちゃけ本物の胸になってしまった事についてはむしろ良かった。胸の重量や動く度の違和感がとてつもないし、そもそもシャルティアになってしまった事をなんとかしたいがそれらはどうしようもない。
転移前の本物のシャルティアの設定では胸はパットだった。その設定が今のモモンガに降りかかれば問題となってしまう。パットがいちいちズレてしまいそれを直すモモンガ、その心境を想像して欲しい。モモンガ自身の事ながら察するに余りある。
(ペロロンチーノさんも悲しむかな、いや喜ぶか?)
シャルティア・ブラッドフォールンというNPCを設定したペロロンチーノは貧乳好きである。巨乳嫌いというわけではない。そもそもシャルティア自体は貧乳キャラとして設定したのだが、紆余曲折あってパットを盛った貧乳キャラになった。そして今異世界で本物の巨乳キャラになってしまった。
モモンガのせいではないがそういった意味で申し訳なく思う。もしペロロンチーノが今のモモンガの現状を知ったらどう思うだろうか。さすがに馬鹿にはされないだろうし、いい意味で笑ってくれるだろう。サムズアップした後悪ノリしながら色々服装のリクエストをしてくるかもしれない。残念ながらシャルティア自身のアイテムボックスは無事だったため可能ではあるが。
そんな懐かしながらも楽しそうな光景を想像して機嫌の良くなったモモンガだが、はたと思考を胸に戻した。
考えてる間も軽く足を動かしていたため、今も僅かに胸は揺れている。そして手には先程から握られているスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。おもむろにモモンガはその手に持つギルド武器を胸に近づけてみる。
胸が物理法則に沿って凹むと同時に、たぷん!という重い擬音が僅かに聞こえた気がした。
(性欲はない…はずだけど…)
「お待たせしました!シャルティア様」
モモンガが思いついた行動を実行する前に快活な呼びかけが空間に響いた。
見ると暗闇の空間に二人と、その背後にもう一人のドワーフがこちらに向かって歩いてきている。事前に決めた通り少数で来てくれたようでモモンガは安心した。言うまでもなく彼らを戦力としてアテにしていなかったモモンガは事前にそれとなく総司令官に伝え、道案内できる者とドワーフの中でも地位のある総司令官に来てもらう様に要望していた。
(ドラゴンを倒した事を証言してもらわないとな。いや油断は禁物だけど)
モモンガは仲間と共にドラゴンを討伐した経験はある、強さはそれほどでもなかったが一人でも倒した事もある。だが、それは勿論ユグドラシルでの経験であってこの世界では初めての事になる。そのためドワーフを護衛する負担と逃亡を第一に考えて少数で来てもらった。四人程度であれば一時的にでもドラゴンを足止めし、転移はすることは容易だ。
なので三人という数はモモンガのほぼ希望通りでありこれといった問題は見受けられない。
――だが、二人の後ろを歩いて来ている
(って、あれゴンドじゃないか?軍属だったのか?となると姿を消しているのはマジックアイテムか)
ゴンドと他九人のドワーフ達を助けた際、父の形見という不可視化ができる茶色いマントを見せてもらっていた。だが敵のいない合流する状況で最初から使っているのはどういうことなのか。モモンガは多少混乱しつつドワーフ側の真意を考える。
(悪い意味での監視役か?疑われるような事したっけ?いやそれにしたってゴンドだし、最初の印象では後ろめたい仕事をするイメージはないんだが……)
ゴンドの前を歩いてくる総司令官ともう一人のドワーフに変わったところは見られない。というかわからない。
二人はモモンガが初めて見るフルアーマーのような鎧を着ており、顔も僅かしか見えずドワーフの特徴である長い髭も見えなかった。ただ、ガシャガシャ音をたてながら和やかな雰囲気でこちらに歩み寄ってくる姿に裏表は見当たらない。
そもそもゴンドが不可視化のマントを持っている事を、モモンガは最初から知っているのだ。その要素を捨ててモモンガが見破れない事に賭けるのは少々リスキーに思えた。モモンガが考えている間に、二人と姿を消したゴンドがすぐ傍まで来ていた。
問題のゴンドをチラリと流し目で見つつ、モモンガは探りを入れながら会話することにした。
「お二人だけですか?」
モモンガは努めて表裏のない柔らかい声で問いかける。少々ストレートな問い掛けだったかもしれないが、ドワーフに疑われているかもしれないという状況は想定外だったので致し方ない。とは言えできるだけ少数で来てくれという要望だったので、最初に人数を確認するのは問題ないだろう、と思うことにした。
(……ん?)
だが二人から返事はなく、その場にフルアーマーの鎧が二体直立していた。勿論その後ろで透明化しているゴンドからも返事はない。そのゴンドは此方の手元を凝視しているようだ。兜で視線を追えない残りの二人も、ゴンドと同じくフルフェイスのブレスが同じ物を見つめている気がした。
試しにその手を上げてみれば、三人とも全く同じ動きで首を上げていた。
「あの~……?」
「っは!?こ、これは失礼しました!」
表情は伺えないが慌てた様子だった三人が身なりを正す。モモンガは特に気分を害した訳ではないが、一応の確認の為に問いかけることにした。
「このスタッフが気になりますか?」
「あ、はい。そのような見事な杖は見たことがないものでつい…」
隣のもう一人のドワーフと、なぜか姿を消しているゴンドも頻りに首を縦に振っていた。
どうやら三人ともスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに本気で見とれていたようでモモンガは気を良くする。今やモモンガの最後の宝といっても過言ではない物、ギルドメンバーが残してくれたギルドの分身を褒められれば少しだけ機嫌がよくなってしまう。とは言えギルド武器は本当にギルドの分身であり、破壊されればギルドの崩壊を意味するためあまり公にするべき物ではない。
「失礼、とても貴重な物なのですぐに仕舞いますね」
「国宝でしたか!?失礼しました!我らは何も見ておりませんので!!」
「え?、、えぇ、それでお願いします」
総司令官がなにか勘違いをしているようだが――。
(国宝か、まぁ間違ってないよな)
少なくともモモンガにとっては、手元に残ったアイテムでは価値以上に一番思い入れのある物のため、お言葉に甘えてサッサと仕舞い込む事にした。本当はこれからのドラゴン戦のために装備して行きたかったが、ギルド武器の破壊は是が非でも防がねばならないため、例え相手が最強種のドラゴンでも早々に使う気にはなれなかった。
(みなさんの力を借りるのは、もっと先にしますよ…)
宙に消えゆくギルド武器を見送った後、気合を入れるように手を握りなおしたモモンガは改めて問い直す。
「それでお二人だけでよろしいですか?」
「えぇ、情けないですが例え人数を揃えてもシャルティア様頼りとなってしまうのは目に見えていますし。ですが、この者は王都までの道を熟知しておりますし、私も身を守るくらいしてみせます。仮に何かあってもあなた様をを責めないようにと、残った者達には言い聞かせましたので」
(ふむ、ちゃんと此方に気を使ってくれているな。というかなぜか好感度上がってないか?何かしたっけ?でもこの様子だとゴンドの存在はやっぱり知らないのか?)
ますますモモンガには訳が分からない。視界の隅で透明化しているゴンドを見つつ考える。
本当に総司令官が知らない場合ゴンドのターゲットはモモンガではなく、総司令官という可能性も出てくる。例えば摂政会内での総司令官と対立する敵対派閥だ。最有力は最後を除き喧嘩腰だった鍛冶工房長だろう。最後の和解が芝居だった場合見事と言うほかない。
(う~ん、でも喧嘩腰だっただけで仲悪いわけじゃなかったと思うんだけどなぁ。摂政会の他のメンバーだって…)
「あ、あのぉシャルティア様?」
「あ、ごめんなさい。何でしょうか?」
思わず思考の海に沈みこんでしまったモモンガを、もう一人のフルアーマーのドワーフが正気に戻す。声からして随分歳をとったドワーフのようで、王都への道を熟知しているというのも説得力があった。
(えぇい、もうこれは現状分からないな。とりあえずゴンドは泳がせておこう)
「ライディング・リザード三頭でしたら、今からすぐ戻って用意することもできやすが?」
「ライディング・リザード…あぁトカゲですか!」
クアゴアの襲撃の際、フェオ・ジュラから脱出する避難民の中に数人騎乗動物に乗っている者達がいた。その後も何度か見かけた全長三メートル以上あるトカゲ、
「いえ、それも私に任せてください。
視界の隅でビクンっ!と動く気配がしたが、とりあえず見えない振りをしておく。道中にある溶岩地帯や死の迷宮について詳細を聞いておかねばならない。概要を聞いただけではいかにもな簡易トラップではあったが、経験豊富なドワーフから見た視点を参考にしない手はないだろう。
「わかりました。とりあえず使い魔を索敵に出し、注意しつつ進んで溶岩地帯手前で一旦休憩しましょう」
「良い判断ですわい。油断大敵ではありますが、浮遊魔法があれば溶岩地帯は何とかなると思いますぞ」
経験豊富なドワーフは慎重に物事を進める質らしく、モモンガにとっては好材料だった。出発準備を終えると早速とばかりに
「では出発しますよ」
鎧のガシャガシャした音は未だに聞こえたが、その内慣れるだろうと思いサッサと出発することにする。
元より全体のコントロールはモモンガが握っているため、ドワーフ達にはどうしようもないのだ。モモンガを先頭に洞窟を進み始めると、それを悟ったようで途端に静かになり、空気の移動する音だけが耳に響いたが――
「これ絶対バレとる」
洞窟を吹き抜ける音に僅かな声が混じっ気がした。
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの弾道が上がりそう
書籍だとスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン(のレプリカ)を見てもドワーフはこんな反応しませんでしたが、初見の恐ろしいアンデッドが持ってたんだからしょうがない