ダムに沈んだ「徳山唐辛子」 幻の“うま辛”復活へ 獣害知らず、特産に 岐阜県本巣市
2018年10月15日
収穫作業をする羽田組合長(岐阜県本巣市で)
【岐阜・ぎふ】揖斐川町で、ダム湖に沈んだ集落と共に幻になったとされてきた超激辛の「徳山唐辛子」が、隣の本巣市根尾能郷地域で細々と栽培が続いていることが分かり、地域、行政、JAぎふが連携して復活へ動きだした。「辛いというより痛い」といわれるほどの辛さだが、その中にもうま味が感じられる。中山間地域である同地域では農家が獣害に悩まされ続けてきたが、「徳山唐辛子」だけは食害が少ない。新たな特産品として地域の期待を背負う。
「徳山唐辛子」は、旧徳山村が1987年に廃村となり、2008年に徳山ダムが完成するまでの過程で生産する農家がいなくなり、種はダム湖に沈み失われたとみられていた。ところが、以前に仕事で同村に滞在した能郷営農組合(本巣市)の羽田新作組合長が、味を気に入り地元農家に種を分けてもらい、少量ながら自家用に栽培を続けていた。それを同市の担当者が偶然知り、「ダム湖に沈んだ幻の唐辛子」として復活させようと動きだした。
市は、市内の飲食店での提供やPR活動などを行う。市内や周辺の飲食店での特別提供や消費宣伝を予定。JAぎふは加工品開発や販路拡大を担い、産直施設「おんさい広場」などでの販売や加工品販売などで消費者の手元に届く体制をつくる。
昨年は能郷営農組合だけの生産だったが、今年から本巣市内の農家らに依頼し拡大を図った。約20人が生産を始めたが、最適な栽培方法が確立されておらず、天候不順の影響もあって約1トンの出荷になる見込みだ。
「徳山唐辛子」は市販の一味唐辛子の約1・6倍の辛さがあるとの分析結果もある。一般のトウガラシより大きく、生の状態では7~10センチになる。
羽田組合長は「辛さの中にもうまさがある。栽培は難しいが、この辛さは他にはない。特産として地域活性化に寄与できる作物へと成長させたい」と期待する。
「徳山唐辛子」は、旧徳山村が1987年に廃村となり、2008年に徳山ダムが完成するまでの過程で生産する農家がいなくなり、種はダム湖に沈み失われたとみられていた。ところが、以前に仕事で同村に滞在した能郷営農組合(本巣市)の羽田新作組合長が、味を気に入り地元農家に種を分けてもらい、少量ながら自家用に栽培を続けていた。それを同市の担当者が偶然知り、「ダム湖に沈んだ幻の唐辛子」として復活させようと動きだした。
市は、市内の飲食店での提供やPR活動などを行う。市内や周辺の飲食店での特別提供や消費宣伝を予定。JAぎふは加工品開発や販路拡大を担い、産直施設「おんさい広場」などでの販売や加工品販売などで消費者の手元に届く体制をつくる。
昨年は能郷営農組合だけの生産だったが、今年から本巣市内の農家らに依頼し拡大を図った。約20人が生産を始めたが、最適な栽培方法が確立されておらず、天候不順の影響もあって約1トンの出荷になる見込みだ。
「徳山唐辛子」は市販の一味唐辛子の約1・6倍の辛さがあるとの分析結果もある。一般のトウガラシより大きく、生の状態では7~10センチになる。
羽田組合長は「辛さの中にもうまさがある。栽培は難しいが、この辛さは他にはない。特産として地域活性化に寄与できる作物へと成長させたい」と期待する。
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地域医療に不可欠 総合診療科医育成が急務 理念説き 13人確保 JA北海道厚生連 倶知安厚生病院 内科、外科など診療科目で分けず、広く患者を診察する総合診療科は、地方で深刻化する医師不足を解決する方策になると期待されている。今年度からの新専門医制度の開始に伴い、専門医の育成が本格的にスタートした。一方、総合診療科を希望する医師が少ないという課題が生じている。総合診療科が地域医療の中心的な役割を果たしている、JA北海道厚生連倶知安厚生病院から総合診療科の現状を探った。(久慈陽太郎) 倶知安町にある同病院は、診療圏人口約5万人の羊蹄山麓エリアの基幹病院だ。総合診療科を受診する1日の患者数は約100人。初診患者の多くはまず総合診療科で診察し、必要に応じて他の専門科目や札幌市や小樽市の病院に引き継ぐ。 厚生労働省によると、2008年から14年までの間に、全国の過疎地域の医療圏の24%で医師数が減少した。日本全体の医師数は10%増加しており、医師の都市部への偏りが問題になっている。 主任医長の木佐健悟医師は「人口が少ない地方では、都市部と比べて患者数が少ないため、細かい専門科目を維持していくのは困難だ」と指摘する。 地方の総合病院では、産婦人科や小児科など専門科目の医師を確保できず、診療科目が歯抜け状態になっている例が多い。そのような中で、総合診療医は、“何でも相談できる医師”として地方の期待が高い。 同病院の総合診療科の医師は13人。木佐医師は「地方病院でこの人数の医師を確保している例は珍しいのではないか」と話す。若手や中堅の医師に対し、地域住民の医療ニーズに広く応えられる総合診療科の理念を丁寧に説明し、共感を得てきた。 総合診療科が大きな役割を果たしている同病院で学ぼうと、現在3人の医師が専門医研修を受けている。佐呂間町出身の医師、水戸啓貴さん(26)は「将来は総合診療専門医として、地方の病院で幅広く患者を診たい」と力を込める。 志望者もっと 大学と連携を 新専門医制度は、これまで各学会が独自で行っていた専門医の認定プログラムを改め、第三者機関である「日本専門医機構」が認定基準を統一して運用する。診療科目に関係なく専門医の質を一定にするのが狙いだ。2年間の初期臨床研修を終えた医師は、「専攻医」として3年間の研修を受ける。 同機構によると、対象となる医師7791人のうち、総合診療を選択したのは153人と約2%。JA全厚連など地域医療機関組織の5団体でつくる「地域医療を守る病院協議会」は「このままでは総合診療専門医の数が全く足りない」と危機感を抱く。 総合診療科を選ぶ専攻医を増やすため、木佐医師は、「大学で学生が地域医療に触れる機会を増やすことが必要だ」と指摘する。 都市部に多い大学病院は、症状が重い患者に対し、専門的で高度な医療を提供している。そのため、木佐医師は「そこで学ぶ学生は、専門性が高い診療科を目指す傾向がある」と説明。「総合診療科がある地方病院と連携したカリキュラムを設け、学生の地域医療と総合診療科への関心を高めるべきだ」と訴える。 2018年11月10日
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リンゴ盗難相次ぐ 昨年10倍超 1万3000個 青森 青森県でリンゴの盗難被害が続出している。警察に被害届があっただけでも昨年の10倍以上の1万3000個が盗まれた。産地では農家の高齢化や労働力不足などから、収穫を業者に委託するケースが増えている。窃盗団は委託業者などと見分けがつかず、白昼堂々と盗みを働いているとの見方もある。 青森県警によると、リンゴの窃盗は10月から相次ぎ、被害届は12日時点で5件。弘前市で「ふじ」約4300個(50万円相当)が盗まれた他、つがる市でも「ふじ」約5000個(40万円相当)がもぎ取られた。その他、青森市で約800個、平川市で約1640個、黒石市で約1200個と、合わせて約1万3000個もの被害があった。17年は2件の被害届で、約1030個の被害だった。 被害届を出さない農家も多いとみられ、県やJA関係者によると「届け出は氷山の一角」との見方が強い。 盗難の手口について、県りんご果樹課は「集団でやって来て白昼堂々と盗んでいくことがある」と危機感を示す。農家の人手不足から、農家が収穫を業者に委託するといったことがあり、収穫か盗難か見分けが付かないこともあるという。 JAつがる弘前は「大事に育ててきたリンゴを盗むのは許せない。農家は落胆している」(指導課)と憤る。 2018年11月13日
盗っ人許せぬ 青森 リンゴ被害多発 天災で品薄―果実、野菜がターゲット リンゴの盗難が続出している青森県では、緊張感に包まれる中、農家が収穫や選果作業を進めている。専門家によると、カーナビや地図アプリなどであぜ道や農道を簡単に把握できるようになり、売り先も多様化していることから、農作物を狙った犯罪は今後も増えるとみられる。特に自然災害が相次いだ今年は、他県でも農作物の盗難被害が多発。品薄となっている果実や野菜がターゲットになっているとの見方もある。 青森県弘前市では今秋から各地で盗難事件が発生している。「1年間育ててきた中で、盗難は許せない。収穫は終わりに近づいているが、来年以降も心配だ」。JAつがる弘前指導課の盛孝之係長が農家の思いを代弁する。7ヘクタールを栽培する工藤昌弘さん(50)は同じ地区で大量のリンゴが盗まれる事件が発生していることに「なぜそんなことをするんだろうという怒り、残念な気持ちが込み上げる」と語気を強める。 産地では、「園地に収穫したリンゴを放置しない」「早めに収穫する」といった注意点を防災無線などで呼び掛けるが、盗難に歯止めがかからない状況だ。市は11月、JAと協力し、市内の複数の園地に監視カメラを設置し、地域ぐるみで防犯態勢の強化を図る。 青森県だけではない。自然災害が相次いだ今年は農作物を狙った犯行が各地で起きている。北海道のJA新すながわ管内では8月、収穫間際のトマトの盗難が相次いだ。同月上旬には砂川市のビニールハウスで100キロのミニトマトが盗まれ、同市の別の生産者のハウスでも50キロの被害があった。その後も大玉トマト40キロが盗まれている。関東などでも冬野菜を盗まれる被害が発生している。 一件の金額 増加傾向 警察庁によると、2017年の農作物の窃盗の認知件数は2694件、検挙件数は1380件。農作物は盗難されたかは見た目で分からず、犯人を突き止めるのが難しいのが実態だ。窃盗の認知件数は5年前に比べて563件減っているものの「農作物の盗難は、一度の被害金額が増え、被害規模が拡大している」(防犯専門家)。同業者による犯行も少なくないという。 販売ルート多様化品種、場所選ばず 防犯機器導入を 防犯アナリストで日本防犯学校の梅本正行学長の話 農作物を狙った犯罪が深刻だ。一度に何十万円という被害に遭うケースがあり、廃業する農家もいる。ここ数年、品種や場所を選ばない傾向があり、全国どこの農家も被害に遭うと考えた方がいい。特に自然災害の後は品薄高になるので、農作物の盗難が増える傾向にある。 農作物の犯罪があれば「プロの犯罪」といわれがちだが、プロというより集団による犯罪とみた方がいい。地域に精通していなくても、カーナビがあれば山奥の農道でもあぜ道でも把握できる。犯罪が分業化されている今、犯人が分かりにくく、盗んだ農作物や農機を売るルートも場所もいくらでもあり、農家は狙われている。 パトロールだけでは限界があり、人が侵入したらすぐに転送されるカメラやセキュリティー設備などの防犯機器の導入が欠かせない。農家個人の投資は難しいので、JAが防犯機械をレンタルするなどが有効だ。 2018年11月13日
[あんぐる] 錦秋 ナガイモ畑(青森県東北町) 11月に入り霜が降り始めた青森県東北町で、全国有数の生産量を誇るナガイモの畑が独特の景観をつくり出している。鮮やかな黄色や赤色に“紅葉”した葉やつるが一面に広がる光景は、農家に地中で育つ芋の収穫適期を知らせる合図でもある。 つる性の多年草であるナガイモは、よく日光が当たるように、高さ1メートル80センチほどの支柱に張ったネットに、つるを絡ませて育てる。5月に種芋を植えると、夏に緑の葉が茂る。11月上旬までに霜に2度ほど当たると葉の色が変わり、光合成が止まり、芋の肥大が完了する。 農家は、積雪を挟み2度に分けて芋を掘る。12月中旬までの「秋掘り」で6割、翌年3月下旬の雪解け後の「春掘り」で4割を収穫する。地元のJAゆうき青森は、今年産の出荷量を「大きな気象災害もなく、管内全体で平年並みの8500トンが見込める」(営農指導課)と話す。 同町で2・3ヘクタールを栽培する木村拓也さん(39)は「黄色の葉を見ると、今年の農作業の総決算だと実感する」と気を引き締めていた。 JA管内は、農家が苦難の末に築いた大産地だ。北東から吹く冷たい風「やませ」に悩む同地は、長年にわたり稲に代わる作物を模索。だが、大豆やナタネ、テンサイなど、いずれも軌道に乗らなかった。 転機は1964年にやってきた。東北町農協(当時)が、地元に多い深い赤土の畑での栽培に向き、需要も見込めるナガイモの普及に着手。増産体制を整え、産地化に成功し作付けを広げた。 現在、JA管内の東北町、七戸町、野辺地町、六ケ所村で合わせて517戸が418ヘクタールで生産している。重労働だった収穫も機械で省力化し、1戸当たりの平均栽培面積は80アールにまで増えた。 JA営農指導課の高松康彦課長は「今ではナガイモは地域農業の柱。野山とはひと味違うこの紅葉は、農家の粘りが生んだ景色だ」と話す。(染谷臨太郎) 2018年11月11日
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[島根・JAしまね移動編集局] ブランド一層強化 大学と健康機能性調査 島の香り隠岐藻塩米 島根県のJAしまね隠岐地区本部は、ブランド米「島の香り隠岐藻塩米」の健康機能性の調査に乗り出した。海藻から作る藻塩を水に溶かし、穂が出そろった頃に散布することで甘味が強くしっかりした食感となり、差別化でブランドの地位を固めた。健康志向の高い消費者にPRできるよう、島根大学と研究に取り組み、ブランド強化を図る。 藻塩米は、2003年から栽培する。特色ある売れる米作りへ藻塩に着目した。古くから海藻を肥料にしていたこともあり、塩で稲にストレスを与え、栄養素を高める栽培に挑戦した。その中で、アミノ酸やビタミン類など機能性につながる成分を多く含む傾向が分かってきた。JAが予算を計上し、島根大学と共同で今年産米で機能性を研究。来年の秋には結果が分かる見通しだ。 同地区本部経済部の広兼克彦部長は「おいしくて特徴のある米は当たり前になった。健康志向が高まっている」と狙いを話す。 同米を栽培する、隠岐の島町水田営農経営研究会藻塩部会には19人が所属し、面積は拡大傾向。18年産は40ヘクタールで栽培する。農薬の使い方などで4銘柄に分かれる。このうち3銘柄が「コシヒカリ」で、残り1銘柄が「きぬむすめ」だ。 全国約120の米店で販売。県版農業生産工程管理(GAP)制度「美味(おい)しまね認証」の認証を受けた生産者しか作れない最上位銘柄「隠岐世界ジオパーク島の香り隠岐藻塩米特選コシヒカリ」は、精米1キロ1000円程度で販売される。 次の一手として取り組むのが、健康機能性だ。同部会部会長の村上淳一さん(37)は「健康機能性を立証し、世界に健康食品として販売したい」と意気込む。 2018年11月10日
[活写] 小さくても─ 「SUGOI」んです 青森県のJA津軽みらいなどが、東南アジアなどに輸出する小玉リンゴの新ブランド「SUGOI(すごい)」の専用パッケージを開発した。縦30センチ、横38センチの透明な包装袋に、日本をイメージしたカラフルなアニメ風のキャラクターなどを描いた。180グラムほどの小玉リンゴを10玉載せたトレーが納まる。素材に鮮度を保持できる特殊なフィルムを選んだ。 「SUGOI」は昨年、高級な大玉中心だった日本産リンゴを手頃な価格で海外に届けようと、JAが貿易会社のウィズメタックフーズ(東京都中央区)と共同で立ち上げた。今年産からJA全農あおもりや県内の他のJAも加わり、昨年産の2倍を超える2000トンの輸出を計画する。 JA津軽みらいりんご課の盛明徳課長は「主力品種のふじの場合、小玉が1割ほど出る。これを有効に売り込み、生産者の手取りを増やしたい」と話す。(染谷臨太郎) 2018年11月09日
[島根・JAしまね移動編集局] 技術・販路──農業法人が継承 未来に生かす 伝統のこうじ 島根県大田市 地元で受け継がれる伝統のこうじを残すため、島根県大田市で米の生産や加工を手掛けるファーム浮布(株)は、廃業を考えていた市内唯一のこうじ製造業者から事業を継承することを決めた。しょうゆやみそ、日本酒など和食に欠かせない米こうじ。同社は、農閑期となる冬の仕事に充てて雇用を増やし、加工品の品ぞろえを充実させる考えで、技術や販路を引き継ぎ、世界遺産の石見銀山とも縁が深い伝統ある食文化を、次代につなぐ。(橋本陽平) 農閑期に収入 加工品充実も 一段と冷え込んだ立冬の日の早朝、同市で40年以上米こうじを造ってきた橋田良文さん(74)が最後の仕込みに取り組んでいた。隣には、後継者となるファーム浮布の吉田隆博さん(46)。指導を仰ぎながら、真剣な表情で蒸した米に種こうじを混ぜ合わせていた。 米こうじの原料は白米が一般的だが、橋田さんは玄米こうじの製造も手掛ける。ぬかをまとった米にこうじ菌が回りやすくなる技術や、雑菌を遮断するためのひと手間など、独自の製造方法を伝える。 29歳で実家に戻り、本格的にこうじ造りを始めた橋田さん。「こうじがいかに元気に働ける環境をつくるか、突き詰めると奥深い」と情熱を注いできたが、肺と胃にがんを患い、体力の限界を感じた。親族に後継ぎはおらず、店を畳むつもりでいた。 地元のこうじを絶やすまいと後継者として手を挙げたのが、JAしまね石見銀山地区本部管内で農業を営む同社だった。三瓶山の麓にある農地19ヘクタールの大半で特別栽培米「コシヒカリ」を手掛け、米粉や麺加工にも取り組む。 同社代表の藤原眞章さん(72)は「人口減で米は余る時代。商品価値を高める新たな手法を模索していた」と話す。周年雇用に向け、農閑期の仕事と収入源ができる点も魅力だった。7月に事業継承の相談を始め、こうじ製造担当者として吉田さんを雇用。約530万円をかけ、蒸し器や保冷庫、発酵機など機械一式を、年内に整備する。地域資源を活用した6次産業化を支援する県の「島根型6次産業推進事業(新しまろく事業)」で、3分の1以内の助成を受ける。 販路は橋田さんから引き継ぐ他、同社の米を扱う米卸などにも広げていく。「こうじがあればみそや漬物など加工品のバリエーションがぐんと広がる」と藤原さん。2019年度から製造を始め、5年後にはこうじ製造と米の生産拡大で、売上高を現在の2700万円から約800万円増を目指す。 こうじ造りを受け継ぐ吉田さんは、関西で12年間ケーキ職人として働いた後、両親の実家がある大田市に帰郷。旧温泉津町役場に勤めた後、県内の大学の職員として、地域貢献活動などに携わっていた。「ものづくりの醍醐味(だいごみ)は知っているつもり。地域の伝統文化をどう継承するかという課題に向き合っていく中、今回の試みに関心を持った。橋田さんの技を自分なりに受け継いでいきたい」と意気込む。 止まらぬ廃業 救うモデルに 後継者がおらず廃業を余儀なくされるのは、農業に限らない。同県によると、14年の県内の中小企業数は、10年前より約5000も減ったという。県西部農林振興センターは「異業種を含め、継承先を幅広く検討する必要がある。今回の例がモデルになってほしい」と話す。さらに「事業の観点だけではなく、米作りの歴史と共に培われた製造技術、食生活や文化も引き継いでほしい」と期待を寄せる。 2018年11月09日
[島根・JAしまね移動編集局] 露地にマルチ張り仮植え 秋冬ネギ 秀品9割 地温抑え生育スムーズ 島根県のJAしまね雲南地区本部は、夏越しする秋冬ネギで、定植前に苗を露地畑に仮植えする「マルチ仮植方式」を考案した。地温を抑えた仮植え床で、高温の影響を抑える。夏の暑さのストレスを減らし、定植後の生育が良くなり、秀品率は9割を超える。 同地区本部は5年ほど前から水稲の育苗ハウスの活用などで、11月から3月取りの下仁田系の白ネギ「うんなんなべちゃん葱(ねぎ)」の産地化を進めている。2018年度は、14戸がハウスと露地で計40アールを栽培する。 一般的に秋冬ネギは夏前に定植をするが、同方式はペーパーポットで育苗した苗を、5月下旬から6月下旬に露地に仮植えする。仮植え床は、地温が上がらないマルチフィルムを張り、タマネギの定植の要領で植え付ける。本圃(ぽ)には夜温が下がる8月下旬から9月上旬に定植する。 技術を考案した米穀園芸課の高橋英次営農指導員は「採種用のネギは仮植えする。本場の下仁田でも仮植えをすると聞き、ヒントにした」と説明。マルチで雑草が生えないメリットもある。「中耕で根を傷めてしまう。マルチで生育がスムーズだ」と、夏に発生が多い軟腐病も防げる。 元肥は本圃に入れ、大きさがそろった良質な株を選んで定植する。生育が旺盛になる時期に元肥があるため、生育も良い。定植時に古い葉を取り除くことで、葉まできれいなネギとして、引き合いを強められた。 畝を高く立てて穴を開けて定植することで、土寄せ作業は最大3回で済む。「土圧が低いので、手収穫も簡単」と説明。機械で一斉収穫しないため、出荷規格を満たしていないネギは、収穫を遅らせることで秀品率を高められるという。 水稲の育苗ハウス4アールで白ネギを栽培する雲南市の渡部博さん(66)は「ハウスでは夏を越せないが、露地の仮植えで品質の良いネギになる」と話す。17年に栽培を始め、1年目から品質の高いネギを出荷した。 冬は積雪もあるが、ハウスで鍋物需要が高い2月まで出荷ができる。渡部さんは「2度植えは手間と考えたが、水稲の合間の作業で問題はない。収穫もこつをつかめば簡単。ハウスの活用で冬の仕事ができた」と喜ぶ。 高橋営農指導員は「大産地と違い、稲作主体では畑が限られる。1本1本を確実に売ることが所得につながる」と説明。仮植え期間中はハウスで他の作物を栽培でき、農地の有効利用にもなるという。 2018年11月09日
豪雨禍のかんきつ産地 被災農家を雇用 他の園地に派遣 若手が会社設立 JAえひめ南と連携 愛媛県宇和島市 西日本豪雨でかんきつ園地が甚大な被害を受けた愛媛県宇和島市吉田町玉津地区の若手農家は、被災した農家の収入を確保するための会社の設立を決めた。園地の復旧工事期間中の農家を会社が雇い、被災していない園地の草刈りや摘果、収穫を手伝う他、地域の若手農家が独自で取り組んでいたクラウドファンディングの返礼品の送付などの作業を通じ収入を確保する。会社は地元のJAえひめ南と連携し、地域振興を図る。 会社の名前は(株)玉津柑橘倶楽部(たまつかんきつくらぶ)。代表には、かんきつ農家の原田亮司さん(35)が就任する予定。 JA玉津共選管内では、かんきつ栽培面積の約2割に当たる70ヘクタールの園地が流亡した。園地復旧に向けて管内では、若手農家を中心に、栽培管理がしやすい園地を大規模に造成する希望が出ており、安定した収益につながるまで長い期間がかかる見通し。未収益期間の手取り確保が課題となっている。 そこで、農家が収入を確保するための会社の立ち上げを決めた。営農部門として、会社が就労を希望する農家を登録し、設置が遅れているモノレールの設置作業をする他、草刈りや摘果、収穫などの園地管理作業を希望する農家の下に派遣する。 販売部門も設け、若手農家が独自で進めていたクラウドファンディングの返礼品の発送を行う。ジュースや、温州ミカン、「不知火」(デコポン)などのかんきつ類を詰め合わせた箱(3~5キロ)を送付する。返礼品に使うかんきつは会社が同共選から買い取る。 7日夜にJAえひめ南玉津支所で報告会を開き、農家ら約60人が参加。農家間で会社事業の方向性を共有し、設立の賛成を得た。 同地区の災害復旧で情報を取りまとめてきた同共選長で、玉津地区園地災害対策本部長の山本計夫さん(66)は「地域産業の柱であるかんきつ産業を守るという思いでやってきた。JAと連携を取りながら産地の復興を進めていきたい」と強調した。 2018年11月09日
台風21号禍の大阪 復旧資金CF(クラウドファンディング)で 台風21号の暴風雨でビニールハウスの損壊が相次ぐなど甚大な被害を受けた大阪府で、農家らがインターネット上で資金を募るクラウドファンディング(CF)を利用して、再起を目指す動きが出てきた。ハウスを施工する職人の不足や資金難から再建が思うように進まない中、農産物などを返礼品にし、ハウスの撤去やビニールの張り替えに必要な資金の調達を目指す。ハウスの撤去などにかかる人手を集める仕組みを作ろうと、CFを活用して資金を集める府内の民間企業も出てきた。(藤田一樹) ハウス再建少しでも 富田林市若手農家 富田林市の若手農家24人でつくるグループ「富田林市の農業を創造する会」は、10月からCFを始めた。 発案したのは同会メンバーで、ナスやキュウリなどを栽培するファームスギモト代表の杉本一義さん(42)。台風21号で、所有するハウス60アールの半分ほどの9棟が倒壊し、残りもビニールが剥がれた。施工業者に問い合わせたものの、職人などの不足で来年夏ごろまで建て替えができない見込みだという。「ナスなどが栽培できないため、大幅な減収になる」と頭を抱えた。「国の支援では修繕費用の全額は賄えない。残りの費用はどうすれば」と焦りが募った。ハウスが損壊した同会メンバーからも先行きを心配する声が上がっていた。 こうした状況を打破しようと府議会議員や行政関係者らに相談する中、CFの存在を知った。「何もしないでいるわけにはいかない」。同会メンバーに呼び掛け、資金調達に乗り出した。 開設には約1カ月かかった。掲載する写真の収集や被害を訴える文章の作成、返礼品の調整など慣れない作業に苦戦。10月20日にようやく開設にこぎ着けた。募集期限は12月19日。同市特産のナスやトマトなどを返礼品に、同会メンバーの復旧費用の一部に充てる800万円の資金を集めることが目標。手数料として集まった額の2割はCFの運営会社に支払うため、少しでも多くの資金を集めたい考えだ。 ウェブサイトには、被害を受けたハウスの写真と併せ「台風なんかに負けたくない」「若手農家に再建のチャンスを」と掲載し、思いを訴えた。 同市では、10ヘクタールの農業用ハウスが損壊するなど深刻な被害が出た。ハウスの被害金額は1億8000万円に上る。台風から2カ月たった今もハウスの建て替えはほとんど進んでいない。 杉本代表は「資金を集め、少しでも復旧を進めたい」と話す。 人手募るアプリ開発 大阪市民間企業 農産物の宅配などを手掛ける「フードストーリージャパン」(大阪市)は、10月にCFを始めた。12月までに300万円の確保が目標だ。 資金を基に目指すのが、ハウスの修繕などを手伝う人材と農家を結び付けるアプリの開発。「大阪は小規模な家族経営の農家が多く人手が足りていない。被災農家はハウスの修繕作業などに時間を取られ、満足に農作業もできていない」と同社の山口沙弥佳代表。消費者を農家の“お助け隊”として派遣できるようにし、人手不足の解消につなげたい考えだ。 返礼品として、取引する府内の農家が栽培した米や農業体験などを用意した。山口代表は「取引する農家の惨状を見て、放ってはおけなかった。少しでも農家の助けになりたい」と力を込めた。 CFを運営する「キャンプファイヤー」の関係者は「CFは、SNS(インターネット交流サイト)や口コミで情報が広がりやすい。復旧資金を集めるのに有効だ」と指摘する。 <メモ> 台風21号 9月4日正午ごろ徳島県南部に上陸し、神戸市に再上陸、速い速度で近畿地方を縦断して日本海を北上した。25年ぶりに「非常に強い勢力」で上陸。西日本から北日本で非常に強い風雨となり、全国100地点で最大瞬間風速が観測史上1位を更新した。特に四国や近畿では、猛烈な風雨となり、最大瞬間風速は関空島で58・1メートル、和歌山市で57・4メートルを観測。記録的な高潮による浸水被害も発生した。関西国際空港が強風で漂流したタンカーの衝突や高潮被害により閉鎖した他、各地で断水や停電などが発生し、ライフラインに甚大な被害をもたらした。 2018年11月08日