ウェブサイトの証拠保全サービス
ウェブサイトの証拠保全についてはずっと関心を持っています。
ウェブ上に公開される情報の量は大変な速度で増えており、一方で削除や更新によって閲覧できなくなっているウェブサイトも多くあります。
常に変化しているウェブにおいて、ある時期に存在した情報を歴史的な資料などとして保存することはそれ自体重要なことですし、私の仕事との関係でいえば知的財産権や名誉・プライバシーなどが関わる訴訟における証明においても大変重要なことです。
参考記事:「ウェブサイトの保全・証拠化について」
ウェブサイトの保存サービスとしてはウェブ魚拓やウェイバックマシンが有名ですが、これらのサービスはウェブ上の情報のアーカイブという性格のものです。
ウェブサイトの証拠保全という性格のものとしては、タイムスタンプを伴う電子署名サービスと組み合わせて、ウェブサイトの存在証明・非改ざん証明ができるものが考えられます。
このようなウェブサイトの証拠保全サービスは2008年頃には複数存在したようですが、現在運営を継続しているものは多くありません。
参考サイト:ITPRO by日経コンピュータ 2008年2月26日の記事「Webページを非改ざん証明できるタイムスタンプ付きPDFで保存する無償サービス」
個人的には、ウェブサイトの証拠保全サービスは、知的財産権や名誉権・プライバシーなどの権利を裁判において証拠に基づいて主張するために社会的なニーズがあり、今後そのニーズはさらに高まるのではないかと考えています。
今回はウェブサイトの証拠保全サービスが現在下火になっている現状の課題やより有用なサービスとして提供するための工夫などについて考えてみました。
裁判上の証拠として使用できるかという課題
まず、裁判上の証拠として使用できるかという課題があります。
前掲の2015年5月7日のkasiko過去記事において詳しく書きましたが、裁判における証拠については、①証拠能力(証拠として採用してよいか)及び②証明力(証拠として信用してよいか)という要素を備える必要があります。
民事裁判では、原則としてあらゆるものが証拠となりうるため①証拠能力の点はほぼ問題となりませんが、②証明力については、その証拠が改ざんされたものではないか、証明使用とする事実とどれだけ関連性があるか、という点が問題となります。
ウェブサイトの証拠保全では、証拠が改ざんされていないこと(非改ざん証明)が重要になります。
ウェブサイトの証拠提出方法としては、
A)ウェブサイトのプリントアウトを提出する方法
裁判で通常用いられる方法です。ウェブサイトの存在やそれによって証明しようとする事実争いがない場合に用いられますが、いつの時点のプリントアウトか証明できず、また、改ざんの可能性を容易に主張されます。
なお、知財高裁平成22年6月29日判決は「インターネットの裁判の証拠として提出する場合には、欄外のURLがそのホームページの特定事項として重要な記載であることは訴訟実務関係者にとって常識的な事項である」と述べています。
B)ウェブサイトのプリントアウトに確定日付を付する方法
ウェブサイトのプリントアウトに、公証役場で確定日付を付けてもらう方法です。手間と少額の費用がかかりますが、プリントアウトが存在した時期を証明することができます。
C)事実実験公正証書を用いる方法
公証役場で公証人が実際にウェブサイトの存在を確かめたうえで、その過程を公正証書にするものです。証明力としては申し分ありませんが、手間と費用がかかってしまいます。
D)動画保存の方法
ウェブサイトを閲覧する様子を動画撮影する方法です。URLとウェブサイト上の表示が明確になる一方で撮影時期の証明力が低いというデメリットもありそうです。
E)ウェブサイト上のデータを保存してタイムスタンプを付する方法
以前存在したウェブサイト証拠保全サービスはこの仕組みを用いていたようです。タイムスタンプを付したデータの証拠提出方法としてはデータを収納したCD-ROM等を提出することになるのでしょうか。
証明力について重要なポイントは、ある時点あるURLにおいてそのウェブサイトが存在したという存在証明と、一度保存されたウェブサイトがその後改ざんされていないという非改ざん証明がなされているかという点でしょう。
ウェブサイト証拠保全サービスでは、すくなくとも上記のような存在証明と非改ざん証明が技術的に可能であることが説明できなければならないでしょう。
著作権法との関係
ウェブサイトのアーカイブサービスに共通する問題ですが、ウェブサイトの証拠保全サービスでは、当然にウェブサイトの複製が発生し、これが著作権法上の著作物の「複製権」(著作権法21条)侵害等にあたらないかなどの問題も生じます。
「複製権」侵害にあたらないという解釈としては、著作権の制限となる「引用」(著作権法32条)にあたるという解釈も主張されていますが、証拠保全の目的であれば「裁判手続等における複製」(著作権法42条)という解釈も成り立ちうるでしょう。
※「裁判手続等における複製」は、裁判所等の職員だけでなく当事者も複製することが可能であり、また、現に裁判が開始されていなくても訴え提起等の準備のためにも複製することが認められていると解釈されています。
もっとも、裁判の当事者となる者ではなく、ウェブサイト証拠保全サービスを提供する運営者がウェブサイトを複製して保存するような場合には、運営者自身にとっては「裁判手続等における複製」と言えないと判断されるかもしれません。
この点はサービスを開始するにあたり工夫が必要でしょう。
証拠保全サービスとしての有用性を高めるために
冒頭でも述べましたが、ウェブ上の情報は日々変化しており、また公開当時は重要ではなかったと思われる情報が後の裁判で重要性を持つ場合もあり、あるいは特定のウェブサイトの動向を注視しておかなければ証拠保全できないような場合もあります。
ウェブサイト証拠保全サービスとしての有用性を高めるためには、ウェブサイトの更新を自動的に検知して証拠保全し、更新前後の変更点を分かりやすくするなどの機能を追加すればより利便性のサービスになるのではないかと考えています。
本記事は、2016年01月06日公開時点での情報です。個々の状況によっては、結果や数値が異なる場合があります。特別な事情がある場合には、専門家にご相談ください。
ご自身の責任のもと安全性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い致します。
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