【大相撲】稀勢ばったり 初の一人横綱、波乱の船出2018年11月12日 紙面から
◇九州場所<初日>(11日・福岡国際センター) 横綱でただ一人出場している稀勢の里(32)=田子ノ浦=は小結貴景勝にはたき込まれて、いきなり土がついた。大関陣は豪栄道(32)=境川=が北勝富士を押し出し、高安(28)=田子ノ浦=は妙義龍を問題なく寄り切ったが、栃ノ心(31)=春日野=は玉鷲に一気に押し出された。両関脇も明暗。逸ノ城(25)=湊=は錦木を退けたが、御嶽海(25)=出羽海=は栃煌山に突き落とされた。 初の一人横綱は、波乱の船出になってしまった。突き押し合いに応じた稀勢の里が、貴景勝の左からのはたきこみでバランスを崩し、うつぶせで倒れ込んだ。大歓声から悲鳴そして沈黙へ、一瞬で静まり返った土俵上でうつむくしかなかった。 相手得意の展開でも、どっしりした足腰でこらえて押し込んだ末、逆転を許した一番。支度部屋に引き揚げ、攻めの手応えを問われると「そうっすね」と悔しさをにじませるようにポツリ。その後は闘志を持て余すように目を見開き、無言を貫いた。 土俵下で見守った阿武松審判部長(元関脇益荒雄)は「調子が良いだけに前のめりになった。今日の相手が一番やりづらい。捕まえるか、もう少し落ち着いたら良かった」。八角理事長(元横綱北勝海)も「左からおっつける形が出そうになったけど、腰が高くなった」と攻めの姿勢を評価。しかしながら、稀勢の里はいきなり正念場を迎える。 途中休場率100%-。 2日目以降、そんな不吉すぎるデータと向き合うことになる。横綱昇進後の昨年夏、名古屋、九州と今年初の計4場所で黒星発進。いずれも途中休場に追い込まれた。 一人横綱の重圧との戦いも、始まったばかりだ。この日の朝稽古は完全非公開。大関高安や若い衆が稽古を終えた後、シャッターを下ろした土俵から四股とてっぽうの音が、かすかに聞こえるだけだった。 困難は多いが、進退を懸けた秋場所で10勝。最大の修羅場を乗り越えた横綱の底力を、誰もが信じている。迎えの車に乗り込む背中に、ファンから「応援してるからな~」「明日(2日目)から14連勝頼むぞ!」と声援が飛んだ。 日本出身横綱による一人横綱は2003年初場所の貴乃花以来(この場所途中で現役引退)。平成最後の九州場所を締める横綱は、稀勢の里しかいない。「もちろん優勝」と強気に宣言した目標へ、もう不覚は取らない。 (志村拓)
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