【本編完結】時をかけるロンウィーズリー   作:ジャリカスミノムシ
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7/22 タイトル変えました




原作外
1. ロン、タイムリープをする


大きな音が耳を殴りつけた後、皮膚を剥がすような熱と痛みが襲ってきた。突如自分の身に降りかかった衝撃に、僕の頭はついていけなかった。

 

足に刺さったコンロの破片の痛みがようやく脳に届き、その痛みで若干視界が開けた。体を包む熱と、視界で燃え盛っている炎が結びついたところでようやく、何が起きたのか理解した。

 

爆発。

 

理解してしまった途端、全身に恐怖が駆け抜けた。息が荒くなっているのを自分でも感じる。ついさっきまでの、チャーリーとともにマグルの品々がひしめく父の倉庫にこっそり忍び込んでいたワクワク感ドキドキ感はもうない。

 

とにかく逃げようと立ち上がろうとしたところで、自分の体に誰かが乗っかっていることに気づく。

 

「チャーリー?」

 

自分の声だとわからないほどにかすれていた。喉が焼けかけていたのだ。そして、疑問系になったのは、顔が吹っ飛んでおり認識できなかったからか、それとも普段の力強さを感じさせない焦げた体や脱力した手足を兄のそれと認めたくなかったからか、自分でもよくわからなかった。

 

それを見た瞬間、僕は心臓がキュッと縮み、手足が震えた。それをどかそうと思って少しチカラを入れたが、うまくいかなかった。失敗すれば失敗するほど焦りが大きくなっていく。

 

チャーリーの口はかすかに動いているが、声は聞こえない。倉庫が音を立てて崩れて始めているのもあるが、おそらく声をだす気力も残ってないのだろう。僕はただただパニックになっていった。涙は流した途端から空気に溶けていった。

 

どうしよう、だれか、どうして、パパ、火を消さなきゃ、なんで、ここからでなきゃ、何が爆発したんだ、ママ、チャーリーを病院に、ビル、フレッド、ジョージ、ジニー、早く、急いで、誰か、助けて

 

 

――チャーリーを

 

――助けなきゃ

 

 

気がついたら、僕は倉庫の前に立っていた。

 

 

 

 

 

「へ、」

 

思わず間抜けな声を出して、地面にへたりこんだ。

まばたきをした瞬間に、五感で得ていた情報がまるきり変わったのだから、それくらい許してほしい。

 

皮膚は確かに暑さを感じているが、それは「熱さ」ではない。思わずクィディッチがやりたくなるくらいには心地が良い。

 

視界に炎はない。あるのは、庭小人の作った奇妙なオブジェと、パパのコレクションが詰まったぼろっちい倉庫。

 

耳に入るのは、風が草を揺らす音と誰かの話し声。崩れゆく倉庫が発していた不協和音よりも何倍も耳に馴染んだ音だ。

 

もしこの風景に凄惨さを感じる人がいるなら、今すぐ聖マンゴにいくべきだろう。いや、マグルの病院に行くべきだろうか。マグルの世界には医者と呼ばれる狂った存在がいると聞く。狂ってるものどうし、通じ合うものがあるかもしれない。

 

僕は状況が飲み込めず思考がシッチャカメッチャカになっていることに自分で気がついた。手足が少し震えだした。体は先程までの恐怖を覚えているのに、周囲にその原因がない。なんの訳もわからないままに、とりあえず立ち上がった。

 

「ロン、急に黙ったけど、もしかしてビビってるのか。やっぱりロニー坊やにはパパの倉庫侵入なんて業を背負うにはまだ早かったかな?」

 

そんなところで、チャーリーがひょこっと僕の前に出てきた。年齢の割りに力強い体躯。自分と同じ色なのにどこか輝いて見える赤髪。快活さと意地悪さを兼ね備えた笑みをする顔。至って健康そうにそこに立っていた。

 

「チャ、チャーリー!!」

 

自分でもびっくりするぐらいの大声をあげると、チャーリーは目にも留まらぬ速さで耳を塞ぎ、顔をしかめた。

 

「僕の名前を知っていてくれるのは光栄だけどさ、ロン。僕の名前はそんな大きな声じゃなくても発音できるらしいよ。ホグワーツに入る前に一個賢くなったな」

 

「チャーリー!大丈夫なの!?火は?怪我は?なんで僕たち外にいるの!?そもそも…」

 

「落ち着けってロン!いきなり何だ、火だ怪我だなんて。君が目を開けたまま寝れるなんて僕は知らなかったよ」

 

間違いなく生きている。間違いなくチャーリーだ。目を少し潤ませ安堵した瞬間、急に恥ずかしくなって目を拭った。

 

夢と現実がごっちゃになってた?

 

「なんでもない!チャーリーのアホっぽいはしゃぎっぷりを見ていたら、おもわず夢に逃げたくもなるよ!」

 

「そうは言ってもロニー坊や。パパは仕事、ママは初出勤のビルを送りにエジプトに、チクリ魔のパーシーも今日に限って外出してる。眼の前には宝が詰まったパパの倉庫。普段は立入禁止されてて、近づきでもしたらお叱りを食らう魔境だけど、今日は攻略してくれと言わんばかりの難易度の低さ!これでテンションが上がらないやつは、男の子とは言えないぜ!たしかにママは女の子を欲しがってたけど、今はジニー一人で十分さ」

 

その言葉で少しムキになった僕は結局、夢と同じように倉庫に向かう。

 

 

 

 

 

おかしい。いくらなんでも夢と一致しすぎてる。

 

僕は今までパパの倉庫に入ったことなんて一度もない。マグルの世界の物なんてほとんど見たこともない僕にとって、今いる倉庫の中は新鮮で興味深いものであるはずなのに。

 

なのに、どうしてさっき見た夢とここまで同じなんだ。

 

やっぱりアレを夢で片付けるには無理がある気がする。僕はこの倉庫を間違いなく()()()()。でも、だとしたらなんで……。

そう直感したのと同時に少し離れたとこからチャーリーが声をかけてきた。

 

「見ろよロン!マグルのキッチンまであるぜ!魔法を使えないのに、どうやって使うんだと思う?」

 

そのどこかで聞き覚えのある言葉に、僕は全身の血がどこかに消える音を聞いた気がした。あのときの恐怖が再び蘇ってきた。

 

そうだ、僕が教えてしまったんだ。昔パパに教えてもらった、マグルの火の付け方を。ほとんど聞き流してたその知識をチャーリーに教えちゃったから、あの惨劇が起こったんだ。

 

正夢?予知?はたまた千里眼?いや、どこかピンとこない。ていうか、この後どうすべきなんだろうか。同じように誤った火の付け方を教える?

いや、どうなるかは目に見えてる。それだけは避けなきゃいけない。

 

……もしかして僕は今、過去に来ているんじゃないか。あの恐ろしい出来事を回避するために。

きっとそうだ!そうに違いない。そういえばビルが逆転時計について話してくれたことがあったな。時間を遡るマジックアイテムがあるってことは、魔法で過去に戻ることは可能ってことだ。

 

まだホグワーツに通っていない僕でも、花瓶をスポンジに変えてしまったり、窓から落ちても無傷で助かったりしたことがあるくらいには魔力があるし、魔法で過去にさかのぼったとしても、まあ不思議ではないのかもしれない。

 

そうなれば後は簡単だ。

 

「マグルの台所の使い方なんて知ってるわけないだろ。それよりも、あんまりベタベタさわんないほうがいいよ。前にパパが言ってたけど、マグルのキッチンは使い方を間違えると爆発さえするから気をつけたほうがいいらしいよ」

 

「爆発?!マジかよ、そんな危険と隣合わせで料理してるのか、マグルは。火が出るくらいだったら別に怖くはないけど、爆発でもされて倉庫が壊れたら、流石にパパに合わせる顔がないしな。これはとりあえず保留だな。」

 

そこから先、僕達は炎も爆発も兄の死も体験すること無くその日を終えた。

 

その日の夜、倉庫への侵入は両親にバレてしまい、チャーリーともども怒られた。同時に、ママがパパに倉庫内にある危険物をすべて処分するように言っていた。

流石に危ないと思ったのか、パパも珍しくそれを承諾していた。

 

 

 

 

 

ベッドで寝っ転がりながら、その日起きたことを思い出していた。あれは夢ではなく、実際に起きた出来事だという確信があった。

 

僕は過去に戻ることができるんだ。

 

今よりも小さい頃から、認めたくはないけど、優秀な兄弟たちに劣等感を持っていた。でも、僕にも、人にはない才能があったんだ。

 

「あれ、もしかして、僕って最強なんじゃないか?」

 

これをうまく扱えれば、英雄になれるんじゃないか?

ガリオンくじを当てて大金持ちにもなれるんじゃないか?

 

「そうと決まったら早速練習だ!」

 

 

それから僕は、一度も過去に戻ることはなかった。

 

 

 








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