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ゼロの英雄奪還日記 プロローグ

オンギャー

と思わずひと泣きしまったが、ここはどこ?

私は誰?

そして……、なぜかある記憶はどこの?

どこまでもフニャフニャした残念な記憶をどうにかこねくり回してハッとした。

アー、思い出した。

俺って死んだはずだ。

ええっと、確か自作の爆弾破裂させて……、完全に自業自得じゃん。

自宅にて違法な実験に手をだし失敗のち死亡とは……まったく、我ながら眩暈がするほどの愚かしさである。

ニトロってすごいよねー。その不安定さにしびれます。

いや、軽い実験のつもりだったんだけど……って何やってんだ俺?

しかし、死ぬほど痛かった。

あんなにも死ぬってのはおっかないものだったんだなぁと、あの瞬間を思い出すだけでぞっとするよ、本当。

でもまぁ、親類縁者大体公認の変態としては面目躍如って感じの最後だったかな?

きっと親類縁者の皆様方は、その手の話題に事欠かないに違いない。

出来る事なら惜しむ話題の一つも口に上ることを願うばかりである……望み薄だが。

自分でも馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、ここまで馬鹿とは……、主に行動的な意味で反省が必要です。

でも正直、死ぬとは思わんかった。

いろんな人にごめんなさい。

で、今の状況なんだけど……。

「かわいい子だなぁ」

「でも全然泣かないのよこの子」

目の前の人達は一体誰なんでしょう?

見慣れない男女が俺の顔を覗き込んでいますよ。

そして目の前の二人はものすごくうれしそうに笑いながら俺をつついたり変な顔をして見せたりするのですよ。

……ホントになんだこれ?

手足は縮んでるし、言葉もしゃべれない。

赤ん坊?

……俺の体だよな?

でも目の前の人達はどう見たって日本人じゃない。

これはひょっとして……生まれ変わった? 

マジこれ転生? 

記憶ありってすごくない?

などなど色々思うところはあるんだけど……本当にどうなってんだ?

「貴方の名前は、クロノよ」

ええっと……、命名ですか。

やっぱり生まれ変わっちゃったんだな。

この時俺は、常識と言う名の概念をぽいっと捨てることにした。

まぁこう言う事もあるのだろう。死んだのは初体験だからして。

赤ん坊をのっとった? 

いやいや、少し違うか。

どちらかといえば記憶がなくなってこの子になるはずが、前世の記憶が残っちゃったみたいな?

転生ってそういうことだよね?

頭が軽くファンタジックにパレードしていたら、急に抱き上げられて現実に無理矢理引き戻された俺。

そして方向転換すら許させない首元をがっちりと固定されて向かった先は……。

あっとっと、ちょっと待って! おそらくお母様? 

ご飯は哺乳瓶にしてくれると!

アー、……これはハズイな、死ねるよ。

生き返ったばっかだけどさ。

しかし、これも運命だと思ってあきらめるしか……、アー。

いかん! 気をしっかりもたねば!

しばらくして落ち着いたら、教会に連れて行かれたよ。

神父さんが祝福してくださるんだとか。

「ブリミル様のご加護があらんことを」

とか言ってた。

はて、そこで新たに気になるNEWワードが一つ。

ブリミル様? ゼロの使い魔か?

生前に趣味として呼んでいた読み物の一つである。

その中でブリミル様と類似する神様のお名前が存在するのだ。

……そんなわけあるわけないしー。

……マジで?

いやいや、まさかそんなわけない。

そんな神様を信仰しているヨーロッパのどっかがあるかもしれん。

いくらなんでも、そんなにポンポン常識は捨てないぞと内心で息まく俺の目の前に、またしても衝撃の展開が繰り広げられたのは教会から出て来て数秒後の事だった。

……アー、なんか畑の近くで「錬金!」とか唱えるマントのおっちゃん見つけた。

畑が光り輝いてるよ。 アレがひょっとして魔法って奴なんだろうか?

さっそく今日二度目のパレードが始まった。

マジでか……。



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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

ゼロの英雄奪還日記 1話

しばらくして、俺にもようやく状況が飲み込めてきた。

とはいっても随分と大物だった事には違いはないが……。

とにかくあらゆる意味でとんでもなく大変だったのは間違いない。

そもそもベッドから動けないし。

基本的に情報源は盗み聞きなんだけど、赤ん坊だからなのか眠いのなんのって。

しかし功労の甲斐あって、調査の結果、残念ながらと言えばいいのかどうなのか、どうやらここは、ハルケギニアのトリステイン王国っぽいことはなんとなく推測出来たのだ。

しかも、俺は完全無欠にどこをどう見ても平民なんだよなぁこれが。

魔法どころか、ごくごく一般的な水準の家庭に生まれた、完全無欠の一般人。

おそらくゼロ魔……だよね?

……こんな理不尽あんまりじゃないか? 神様よ?

普通、こういう転生とかって、チートな能力があったりするもんじゃないのん?

もしくは、せめて貴族の生まれで現代知識使って内政したり。びっくり魔法使って、周囲をあっと言わせたりとか。

あるいは、出版とかどうよ? 

物語アレンジして書いてって……。

そんな金なんてあるわけねぇし。

しかも、よりにもよって貴族至上主義のトリステインとは……。あれ? どうしようもない?

いっそ記憶がなければ、ごく普通の乳児として過ごせただろうに、もはやそれも許されないのだ。

……ふっふっふ。だが神よ、甘いぞ?

この程度の苦境、どうということはない!

変態を怒らせるとどうなるか教えてやらねばならないようだな!

いつの日か、この一般平民から成り上がり、見事幸せになってみせるさ! 

……いや、それだけじゃあ生ぬるいな。

どうせなら才人ではなく、この俺様が英雄として君臨するってのはどうだろう?

原作キャラは俺の嫁じゃ! ざまみろ才人め! みたいな? 

目標は高くってね!

あまりの理不尽っぷりについつい妄想に浸っていたら、いつのまにか俺を巨大な影が見下ろしていたのだけれど。

……アー、ですからね? お母様? 

お願いですから、オムツを替える時は目線を逸らしていただけると……、アー。

おっきいほうとかマジで勘弁。



ぐぐぐ、屈辱!

こうなれば、活動開始は早いほうがいい!! 

首が据わったら、歩けるように特訓だ!

俺はちょっぴり涙目になりながらも、健康な体には感謝しつつ、動ける範囲で動くのみである。

このままじゃしばらくはベッドから動く事も出来ないので割と必死である。

目指せ二足歩行! まずは手足の運動から!

バブデシ! バブデシ!

誰も見てないところで特訓特訓! つかまり立ちにも頑張って挑戦だ!

バブデシ! バブデシ!

つかまり立ちの次は腕立てでもするか!

バブデシ! バブデ……アー、体あがらね。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

ゼロの英雄奪還日記 2話

言葉の勉強がしたいデス。

読み書き出来るようになればかなり違うと思うのだけれど、義務教育なんてしゃれたものは存在しないわけなんです。

当然平民じゃ望み薄なのもまた事実。

……こういう時は誰かに頼ろう!!

というわけで……、助けてブリミル様!




……ただ教会に教えてもらいにいっただけだけどね。

とりあえず、覚えている知識はなるべく保存しておきたいし? こっちの文字を知って置けば色々とカモフラージュにもなるんじゃないかなと。

勉強の合間にコツコツ書き留めておこうと思うわけですよ。

ふっふっふ、俺の秘密技をなめてもらっては困るぞ?

爆薬で死んだのは伊達ではないのだ。

科学に関しては教科書を丸暗記しているといっても過言ではないだろう。

ちなみに芸術と保健体育も自信あり。

そのほかの教科はさっぱりでオール1だったけどなー。

興味があることには無類の集中力を発揮する、それが俺クオリティなのです。

まぁ、変態の変態たるゆえんはその辺りなんだけどねー。

「人が知らなくてもいいことを知ってる男」ってのが俺の代名詞だったよ。

それはともかく、書き写そうにもインクも紙もねぇよ。

一体どこまで……、だけど俺負けないんだからね!

いいだろう作ってヤンよ! 木からか! 木から作れば満足か!! 

インクもか! いいだろう任せなさい!!

アー、そうなると脳に栄養が必要だ。日本食も食べたいなー。

麹育ててみるかなー。

漫画でやってたし、何とかなるだろう。

ああそうだ、大豆がねぇー……。

だが必ず見つけ出してやる! 白米もな!!

どこまで自力でやればいいんだ?

特訓もしないといけないんだぞ?

取り留めもない計画だけが順調?に出来上がりつつあるが、しかし現在まだまだやっと二足歩行を実現したばかりの残念なお子様であることは否定しようもないだろう。

だが! このタイミングでの正しい教育が! 正しい母国語を身に着ける最良のタイミングではあるまいか! ……え? 気持ち悪いですかそうですか。

まぁ何するにしたって……まともに動けるようになるのが先だけどなー。

ゼロの英雄奪還日記 3話

鍬を持って畑の手伝いする三歳児、ほほえましすぎるとは思いませんか?

でもなんか周りの目が「ほほえましい」って感じじゃないのが気になるよね。

……なんでだろ?

俺、超がんばってるのに。 

新しい畑開拓しちゃいけないってのか! ぷんぷん!

まぁここまで来るのにも、涙なしには語れない努力の数々があったことは否定はすまい。

両親の目を盗んでの脱走。

深刻なパワー不足。

目の前にそびえる、身長よりも遙かに大きな農具の数々……。

何度すっぽ抜けて、肝を冷やしたことか、数えきれないっての。

鍬が木製だから何とかなったが、それでも人体の限界を工夫と根性とで乗り切ったのだから、それは羨望の眼差しを向けたくもなるという事か?

いや……それともあれかな? こないだこっそり食い物パクッたのがばれたのか?

それとも勝手に作ってる木工細工がいかんのかな? 

さすがに村のマスコット作って売るのはやりすぎたかもしれない。 かわいいのにせん○くん。

……ふっ。みんな俺の器用さに嫉妬しているんだね、わかります。

というかそういうことにしておかないと、へこみそうな今日この頃である。

ともあれ俺の村での評判は置いておくとして、前世じゃ全然運動とはかけ離れた生活をしていたせいか、村での毎日がとても新鮮であるのは間違いないだろう。

多少無茶な事したって子供だからですんじゃうし、乳児の時からの筋トレのおかげか色々とハイスペックなのは特典といえば特典なんだろうから、しっかり利用させてもらわないともったいない気もするしね。

ああ、そうそう。

木工細工で思い出したけど、とりあえず紙を一から作るのはやめたよ。

森を切り開いているから、木材が割りとあるので、とりあえず木簡みたいなのからはじめてみた。

木の巻物みたいな奴ね。

墨もがんばったけどこれでいいのか? 

いいか書けるから。

しかしこれだけ苦労して、役に立つのかどうなのか、全く未知数なのが、地味に心が折れそうです。

だけど、俺には立ち止まっている暇などかけらもないのですよ。

だって大豆育てなきゃならないし?

米食わなきゃならんし?

一人じゃいくら時間があっても足りません。

やっぱり健全な魂は健全な肉体に宿るんですよ? 

ジャパニーズフードの底力みせてやるぜ!

貴族? 

大丈夫だって! あいつらどんぶり勘定だから、畑が少し増えたって気がつきゃしないよ。

ああ、でもさすがに地下でカビ育ててたら、怒られちゃったけどね。

意地でも取り返させてもらいましたが。

だってそうだろう? 麹の栽培は、異世界に召喚された日本人の義務じゃね?

……違いますかそうですか。

でも心配すんなよ父ちゃん母ちゃん、悪いことじゃないんだってば。

え? 無理? そうかなぁ?

世の中の無情に悲嘆にくれつつ、手だけは器用に動かして、とんでもなく器用に鍬を振り続ける俺に、聞きなれた声が駆けられたのはそんな時だ。

うっすらと怒りの波動を滲ませる、背後の気配に戦慄する俺である。

「……もういいかげんにしときなさい」

心配そうな呆れたような母ちゃんから窘められたけど、仕方ないんですよママン。

こればっかりはゆずれんのです! だから尻叩きは勘弁して!

ゼロの英雄奪還日記 4話

そんなことやってる間にすっかり五歳です。

月日が経つのは早いね、しかし。

俺はといえばすでに、この村でも変態の名を欲しいままにしてるよ。……ちくそう。

まぁ、それはいいんだけどさ……。

それよりも聞いて欲しい事があるんだ!

貴族の家に出入りしている商人のおっちゃんに粘り強く尋ね続けて……ついに、ついに大豆とお米みつけてもらったんだって! 

お金? 

大道芸とかで溜めたさ! 

町に出て、三歳の時に買ってもらったボールとか、その辺りに落ちてるもんとかでジャグってみたり。

あふれるオタク知識をいかして、物語を歌に乗せてそりゃあもう高らかに歌い上げてみたり。

記憶にうっすらとあるヒットチャートを披露したりね!

でも意外とアニソンが人気あったり……、世の中なにが役に立つかわかんねーよ。

そりゃあ、路上パフォーマーなんてやったことはなかったわけだけど、羞恥心など乳児の時に捨て去った俺にとって、人ごみなど恐れるに足らず、どんと来いというものです。

まぁ下手なことやってもお子様だと大目に見てくれますしね(黒い笑み)

そういうわけで、苦労の果てについに手に入れたんですよ。

大豆はともかくお米なんて主食って言うほどメジャーじゃないもんだから、随分時間かかったのなんのって。

で! 試行錯誤の結果出来たよ、味噌!

そして醤油!!

とりあえず試作品だから少しだけどね。

軌道に乗ったら、日本酒も造ってみせるさ。

すごくない? 怒られても怒られても続けていたカビ畑の成果が今ここに……。感無量です!

そもそもこういう、トリビア的知識だけなら死ぬほどあるんだ。

ちなみに俺はごくごく普通の一般家庭に生まれた進学校の生徒だったよ?

……正直なんで覚えたのかわけがわからん。

村の人に試食させたら、最初はスゲーいやそうな顔してたけど、おおむね好評。

悪くないね。

とにもかくにもこれで食べ物はどうにかなりそうだ。

正直硬いパンと、よくわからないスープだけじゃ足りないと思ってたんだよ。

さて食生活の改善がなったとするとぼちぼち最重要の項目にも取り掛からねばならないだろう。

すなわち……、そろそろ強そうなのと接触したいなと。

うれしい誤算なんだがこの体、結構というかかなり運動能力高いっぽいんだ。

五歳の癖に生前の俺より動けるんじゃないかってくらいだし。

え? 二歳から、馬鹿な真似を繰り返してりゃそうなるんじゃないかって? 

……知らないですよそんなの。

でもさ、そしたら欲も出てくるだろ? せっかくファンタジーなんだし?

いよいよ、生まれたばかりの時に立てた目標を実現させる下準備を整える時が来たって訳だ。

とりあえずリサーチ開始。

探すのは腕の立つ傭兵もしくは剣士。

領地中の人に聞きまくった結果、どうも貴族の家で雇われてる衛兵の人がものすごく腕が立つらしい。

ので! 

「弟子入りさせてもらえないでしょうか!!」

「はぁ?」

その結果生まれたのが、土下座と言う最終手段を実行に移す俺と、何が何だかわからずに固まる大人の図である。

早速弟子入りしてみたよ!

具体的に言うと一週間ほど昼夜とわずに襲撃、もとい泣き落としした。

男の武器も涙かもしんない。



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