上司や部下と上手に付き合うには? 稲盛和夫の側近中の側近に教わる信頼関係構築術

PRの力で、5年間で企業の年商を120倍に推移させた実績を持つ、ikunoPR代表・笹木郁乃さんが、日々仕事をするなかで「もしビジネスパーソンにこんなスキルが備わっていたら役立つのでは……⁉」と感じたことを、その道のプロにインタビューするシリーズ。第3回のゲストは、京セラの創業者で、日本航空(JAL)の再建を見事成功させた名経営者、稲盛和夫氏の側近として京セラ時代から30年近く共に働き、稲盛氏が最も信頼した男として知る人ぞ知る存在の大田嘉仁氏。JAL再生の影の立役者に、職場で信頼を得るための秘訣を聞いた。


上司から信頼を得る方法とは?

笹木 上司からの信頼を得るために大切なことは、どのようなことでしょうか。

大田 そうですね。まず、約束したことを必ず守るということは基本だと思います。そのように仕事に取り組んでいれば、自分から提案したことに挑戦できるチャンスというのは必ず来ます。そして、それを必ずやり遂げること。自分で提案したことくらいは、100%できないと信頼を得ることはできないと思います。

笹木 「こういうことをやりたい」と自分から提案し、実行できることが信頼を得るチャンスになるのですね。

大田 はい。さらに、10やろうと思ったことが12できた、というような、想定を超えた結果を出せるのが理想です。逆に、目標を達成できずに途中で諦めてしまうようでは、信頼に繋げることも難しいでしょう。どんな小さなことでもいいので「こういうことをさせてほしい」と言って、それを必ずやり遂げる。その実績の積み重ねが信頼を生むのだと思います。

笹木 大田さんは稲盛さんから最も信頼される男と言われていますが、ご自身ではその理由がどんなところにあるとお考えでしょうか。

大田 最初に等身大の自分を見てもらったのがよかったと思います。京セラ時代にアメリカのビジネススクールに留学し、首席で卒業することができました。そのことで、私は過大評価されていました。ですから、できないことはできない、わからないことはわからないと正直にお伝えして、自分の虚像ができるのを避けるよう努めたのです。トップに近づこうとする人は、逆に自分の虚像を作ろうとする。そうではなくて、まずはありのままの姿を見ていただくことが大事だと思います。

笹木 なるほど。

大田 本当に大切なことは、成長し続けること。等身大の姿を見せたうえで、自分の成長の証を示せると、チャンスが広がっていくと思います。成長し続けることは、しんどいことですけれど、可能性あると見てもらえる。ですから、あまり若い人にも背伸びをせずに、あるがままの姿を見せて、そこから一歩ずつ前進していってほしいです。

笹木 稲盛さんの側近の部下として働く中で、印象に残っているエピソードはありますか?

大田 一緒に仕事をさせていただいていた頃は、朝から晩までしょっちゅう電話がありました。また、私の方からも、稲盛さんのご自宅にお電話することもありました。夜遅く電話をしたときに、「主人は寝ています」と奥様が出られたのですが、「起こしてください」と頼んだりもしていましたね。

笹木 それはなかなかできないことですね(笑)。

大田 なるべく早く耳に入れた方がいい情報だったのです。嫌われたくない、迷惑をかけたくない、というよりは、稲盛さんの夢を共に実現したいという思いの方が先でしたね。

笹木 稲盛さんの夢にかける大田さんの情熱も、信頼を置かれた要因のひとつかもしれませんね。大田さんは、リーダーとしてチームを率いたご経験も豊富だと思います。上司の立場として、部下から信頼を得るために大切にされてきたことはありますか?

大田 言行を一致させるということです。部下は思った以上に自分の上司を観察しています。言ったこととやっていることがあまりにも違うと、あっという間に信用を失います。例えば、「来週飯に行こう」と部下を誘ったのに、忘れてしまうとか「報告書を出してくれたらすぐにコメントをする」と言っておいて、部下が報告書を出してもコメントを返さないとか。そういうことがあると、人の気持ちは離れていきます。できないときには正直に謝ることです。

笹木 約束を守るということが大切なんですね。

大田 方針がブレないということも大切です。

笹木 社長が右って言うので右を向いたら、次の日は左、振り回されて大変なんだという話はよく耳にしますね。

大田 状況が変わって方針の変更がある場合などは、部下にもきちんと理由を説明する必要がありますね。また、トップの指示で始めたことなのに、うまくいかなくなったら「誰が始めたんだ」と言われた、なんてことも聞きますが、それでは信頼感のある組織はできません。失敗の責任を部下に被せるようなことはあってはならないのです。一番よくないのは、部下の成功を自分の手柄してしまうことですね。