エピローグ-1
「おい、秋葉原っていう凄い土地があったらしいやない、ウチ、知っとるねんで?」
「…………で?」
地下施設ノアの地下深く、かつて來栖が使っていたセントラルタワー内の一画にある研究室で、コーヒーを片手に事務処理を行っていたセイジの下に、鼻息を荒くしたペスが訪れた。
饒舌な言葉遣いでペスはセイジの目の前の机を叩くと、ホログラフィックのディスプレイを表示し、かつて日本の秋葉原で栄えていたと言われているアニメや漫画、萌えについての文化がまとめられた資料を映す。
「まず秋葉原の復興からするべきやないか? のぉ⁉ んん⁉ あ、日本橋からでもええよ?」
「却下だ」
「なんでぇ~な⁉」
「前にも言ったが、まずは土地の整備からだ、その次にライフラインの確保。アースでの生活をするのに重要になってくることから始めると前にも言っただろう?」
あまりにもアホな発言を行うペスに、セイジは苦い顔を浮かべながらコーヒーを口にした。
「秋葉原も生活に必要! 心が潤う!」
「ほぅ? じゃあ秋葉原が必要な理由と根拠を述べろ、それと、復興するのに必要な物資や労働人数、作業に入るまでの工程から完成までのスケジュールとプランを資料にしてもってこい、話はそれからだ。じゃないと認可できん」
「ンン~? ムズイ、ニホンゴワ~カリマシェ~ン!」
「都合が悪い時だけ獣牙族に戻るな。お前は娯楽文化が欲しいだけだろ? 勝手にやればいいだろうが、さすがに俺も趣味でやり始める分には口出しするつもりはない」
「じゃあもっと休みくれ、週休六日にしろ」
犬のような尻尾を左右に振って抗議するペスに、セイジが眉間に皺を寄せて溜め息を吐く。
処理しないといけない書類がまだまだ溜まっているのにも関わらず、ここ最近、毎日のように昼になるとペスは邪魔をしにきていた。
レックスがアースクリアに戻ってしまったため、暇潰しが欲しいのだろう。
その証拠に、ペスの尻尾は嬉しそうに左右に揺れている。
「入るゾ」
その時、入り口のドアからノックが鳴り響き、以前よりも長く伸びた髭面のウルガが顔を出した。
肩にはピッタがひっつき、ウルガの髭を引っ張って遊んでいる。
「ここにいたカ……手間をかけサセルな」
「いいじゃないか、そんなに生き急がなくても時間はたっぷりあるんだ。好きにさせてやれ」
同行していたのか、ウルガが部屋に入ると続いてバルムンクが顔を出す。バルムンクはタンクトップを着用し、まるで土木工事を行う作業員のような恰好をしていた。
「ペスは遊び過ぎダ、獣牙族のリーダーとして示シがつかん」
「どうかな? 今後……ペスのような変わり者が世の中には必要になってくるかもしれないぞ?」
ペスが抜けたせいで倍の作業をやらされていたバルムンクは、気にしていないように「がははは!」と笑い声をあげる。
世界の平和を取り戻したあと、地下に籠る必要のなくなった人類は、少しずつだったが拠点を地上へと移していた。
長年放置され、荒れ果てた土地を少しずつ整備し、人の住める環境を広げていく作業を人類は獣牙族と手を取り合って行っている。
ノアではバルムンクとウルガ、そしてペスがまとめ役として作業に当たっていた。
長年、人類の安息の場所であった地下施設は不要となったが、それでもまだ地上が怖いと感じる人々や、地下に愛着のある者たちが必要としているため、放棄はされていない。
それだけではなく、今後も万が一、デミスのような危険な存在が現れた時の重要な避難所、そして拠点として活用されることが決まっていた。
そしてそれはノアだけではなく、ガーディアンやエデンも同じである。
ガーディアンはもちろんのこと、デミスとの戦いを終えたエデンは再びアメリカの首都へと大地を下ろし、そこを中心に土地開発を進めている。
「おい……バルムンク」
「ん? なんだ?」
「ペスに言葉を教えたのはお前だろう? 元々変な喋り方をする奴だったが……なんで関西弁になっているんだ? お前の趣味か?」
「関西弁……? よくわからんが、俺は普通に教えたぞ。レックスも教えていたから、レックスが変な言葉遣いを覚えさせたんじゃないか? まあ……あいつも普通に教えていたと思うが」
今は誰も使っていない言葉遣いを、人類ではなく獣牙族が使い始めたことにセイジは妙な気分にさせられる。言葉のなまりというのはこうやって生まれるのかもしれないと思うと、かつての世界のように、地方で独特な訛りがあった時代が訪れるのもそう遠くないことだと感じられた。
「まあ某も、何故かこの喋り方が一番落ち着く故、この喋り方でござるし……個性があって良いのではござらんか?」
「いたのか朧丸」
「ずっとくっついていたでござるよ。らくちん故」
いつの間に肩に乗っていたのか、バルムンクは身体をびくつかせて朧丸を見つめる。
朧丸の喋り方は、恐らく來栖の趣味で日本と呼ばれた文化を朧丸に反映させたからだとセイジは気付いていたが、面倒なので黙っていることにした。
「それで、バルムンクは何か用か? お前はペスを探しにきたわけじゃないんだろう?」
「ああ、そうそう、久しぶりにお客さんが来ているぞ、美男美女のカップルだ」
バルムンクが部屋の入口の前からどくと、そこには爽やかな笑みを浮かべる金髪の青年ロイドと、カップルと言われて頬を赤くするフローネの姿があった。
フローネは以前から変わらない姿をしていたが、ロイドはこれまでずっと身に着けていた鎧を外し、フローネと同じ軍服にも似た、ガーディアンの管理者を示す青色の服を着用していた。
鎧はもう、必要のない世界だからだ。
「おい、後ろがつっかえてるんだ、さっさと中に入れよな」
「まあまあいいじゃんメリーちゃん。そんなカリカリしないで」
「だ、誰もカリカリなんてしてねえ!」
それに続いて、依然と変わらない恰好の油機とメリーの二人が顔を出した。
油機は髪が伸びてセミロングに、メリーは少しだけ背が伸びて大人っぽくなっていたが、それでもペスの言葉遣いの変わりように比べれば微々たる変化だろう。
「あの……その、バルムンクさん。あまり茶化さないでほしいのですが……」
「別にいいじゃないですかフローネ、事実なのですし、堂々としていればいいんです」
何も気にしていないのか、ロイドは爽やかな笑みをフローネへと向ける。
長かった戦いが終わり、ロイドとフローネはロシアの首都を拠点にするガーディアンへと戻り、他の到達者たちと地下で暮らしていた者たちとで協力して、復興に勤めていた。
年老いたライアンに代わり、デミスとの戦いでリーダーとして立派に役目を果たしたロイドの指示の元、誰一人、文句をこぼすことなく働いている。
そんな日々を過ごす中、フローネは胸の内に秘めた想いをロイドへと告げた。これから残りの人生を、ずっと復興の作業に費やすだろうロイドを支えていきたいと。
「くぅー……やっぱりロイドさんはスマートだねぇ。ねえメリーちゃん?」
「知らねえ、私に話をふってくるんじゃねえよ」
「あらら、メリーちゃんにそういう話はあと三年早かったかもね」
「いや、六年は早いな」
「うるせえぞおじき! 私だってそういう浮ついた話の一つや二つ……!」
特にないのか、メリーは視線を徐々に逸らす。
「というよりなんだ? 別にお前らもついてこなくてよかったのに」
呼んだ覚えがないのか、バルムンクは仕方がなさそうに笑みを浮かべた。
「別にいいだろ。会うのは久しぶりなんだから」
「そんなに退屈ならお前たちもアースクリアに行けばいいだろうに。今は調整の必要もないから自由に行き来できるんだぞ?」
「いい……そういうのは復興がちゃんと終わってからだ」
戦いが終わったあとも、メリーの生活は大きく変わらなかった。
復興への助力に加え、未だ残る來栖が撒き散らしたモンスターの駆除を行うため、親の形見である魔力銃器ガバメントとドラグノフを手に戦地へと赴いている。
とはいえ、これまでとは違い、異種族である獣牙族が共に戦ってくれるため、命を失うリスクは以前よりも低い。油機も付き添っているため、万が一にも危険はないだろう。
そんな今のメリーの夢は、アースにアイスクリーム屋を出店し、子供たちに振舞うことだ。
「ん~メリーちゃんは背が少しだけ伸びても素直じゃないねえ。そこがたまらないんだけど」
「うるさい馬鹿! ひっつくな!」
「……で」
騒がしくなった研究室内に、セイジが呆け面を浮かべながらわざとらしく咳をする。
「お迎えに上がりました、ガーディアンへ……お越しください」
その動作で何が言いたいのか伝わったのか、ロイドはここを訪れた用件を話す。
「通信で呼べばよかっただろうに、どうしてわざわざ直接?」
「それだけ緊急を要するということです。ラストリボルトでこちらに来たくらいですので」
「わかった…………連れていってくれ」
ロイドとフローネの神妙な面持ちで理解したのか、セイジもどこか、寂し気な表情を浮かべた。
次回更新は11/14予定です。
新作の内容を少しだけ発表します!(公開はまだです(いっぱい修正したいので))
・新作はLV999の村人と微妙に世界が繋がっています(が、接点はほぼありません)
・新作の主人公は、LV999の村人と対極の位置に存在する主人公です。
・いきなりSF展開になることは絶対にありません。ただのファンタジーです
公開は11月末or12月の初めを予定しております。
記憶を無くした主人公が召喚術を駆使し、成り上がっていく異世界転生物語。主人公は名前をケルヴィンと変えて転生し、コツコツとレベルを上げ、スキルを会得し配下を増や//
放課後の学校に残っていた人がまとめて異世界に転移することになった。 呼び出されたのは王宮で、魔王を倒してほしいと言われる。転移の際に1人1つギフトを貰い勇者//
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。 世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
辺境で万年銅級冒険者をしていた主人公、レント。彼は運悪く、迷宮の奥で強大な魔物に出会い、敗北し、そして気づくと骨人《スケルトン》になっていた。このままで街にすら//
突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。 あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
勇者の加護を持つ少女と魔王が戦うファンタジー世界。その世界で、初期レベルだけが高い『導き手』の加護を持つレッドは、妹である勇者の初期パーティーとして戦ってきた//
とある世界に魔法戦闘を極め、『賢者』とまで呼ばれた者がいた。 彼は最強の戦術を求め、世界に存在するあらゆる魔法、戦術を研究し尽くした。 そうして導き出された//
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。 運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。 その凡庸な魂//
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中! 魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする だが、創造の魔王プロケルは絶望では//
※漫画版もあります! コミック アース・スター( http://comic-earthstar.jp/detail/sokushicheat/ )さんで連載中!//
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
《アニメ公式サイト》http://shieldhero-anime.jp/ ※WEB版と書籍版では内容に差異があります。 盾の勇者として異世界に召還された岩谷尚//
魔王を倒し、世界を救えと勇者として召喚され、必死に救った主人公、宇景海人。 彼は魔王を倒し、世界を救ったが、仲間と信じていたモノたちにことごとく裏切られ、剣に貫//
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
4/28 Mノベルス様から書籍化されました。コミカライズも決定! 中年冒険者ユーヤは努力家だが才能がなく、報われない日々を送っていた。 ある日、彼は社畜だった前//
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。 「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」 これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。 自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
飯島竜人は異世界に転生し、リュート=マクレーンとなった。 転生先の肉体の最適職業は村人で、家も普通の農家で普通に貧乏だった。 ゴブリンやらドラゴンやらが闊歩する//
※タイトルが変更になります。 「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」 異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
◆カドカワBOOKSより、書籍版14巻+EX巻、コミカライズ版7+EX巻発売中! アニメBDは6巻まで発売中。 【【【アニメ版の感想は活動報告の方にお願いします//
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。 弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//