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むかしはよかったね? 掲載誌発売と、『三匹のおっさん』批評

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノが黙ってない。てか、しゃべりすぎ?
 というわけで、月に一度のアレがきましたよ。そう、近現代庶民史の真実にスポットを当てる連載「むかしはよかったね?」は今月も、『新潮45』5月号に掲載されております。
 今回は「まちがいだらけの自警団」。私は民間人による自警団や町内会の防犯組織といったものを根本的に信用していません。民間人の正義ほど、暴走しやすいものはないからです。自分を善良な市民だと自負してる人ほど、じつは信念と偏見の区別がついていなかったりします。
 おのれの正義に疑問を持たない善人ほどコワいものはありません。私が偽善をすすめるのは、自分の正義にまちがったところがあると自覚してる偽善者のほうが暴走しにくいからです。偏見と暴力を伴った正義は必ず暴走するということを、戦前戦後の歴史から浮き彫りにします。

 今月号の記事を書くきっかけとなったのは、1月から3月期に放送されていた『三匹のおっさん』というドラマでした。あの初回を見て、ひどいなこりゃと私は呆れたのですが、なんとあれを痛快だと支持する意見がけっこうあったのだから、さらに呆れました。
 正義をファンタジーにしてしまってるところに、痛快どころか無性に腹が立ちました。正義の老人対悪い若者、みたいな描きかたは、あまりにもステレオタイプ。
 いま現実の日本では、若い女性をつけまわす高齢ストーカーや高齢万引き犯の急増が問題になってるのに、そういう話は都合よくスルー。あいつ悪いヤツ。オレ正義。だから竹刀で殴ってスタンガンで気絶させるのだ! と迷うことなく暴力で成敗するジジイどもがなんの罪にも問われないとは、なんたる世紀末伝説。ユーはショック! ていうか、あのドラマの倫理観は時代劇と一緒なんですよね。
 でも時代劇では、葵の御紋を持ってるとか、幕府の家老から密命を受けているとか、悪を斬ることを正当化する免罪符があるものですが、三匹のおっさんには暴力を正当化する理由がなにもありません。
 おっさんに助けられた女性が「せめてお名前を……」と聞くと、「セザール!」じゃなくて、「名乗るほどの者ではありません」といい残しておっさんたちは去るのですが、顔見られてるんだから、名乗らなくてもバレバレのはず。しかもおっさん、昼間っから竹刀持って歩いてるんですよ。なんで警察に暴行傷害容疑で逮捕されないのでしょうか。
 たとえ相手が悪とわかっていても、ほとんどの人は暴力をふるうことを躊躇するものだそうです。なんのためらいもなく暴力をふるい、反省も後悔もする様子がない三匹のおっさんは、精神医学的には『三匹の攻撃的社会病質者』と診断されることでしょう。
 いまどき、バットマンもスパイダーマンも、自分の正義に悩んでます。正義とはいったい何なのか。それを考えるのが近・現代人たる証しみたいなものです。昭和40年代の日本で放送されたウルトラマンやウルトラセブンにも、怪獣は本当に倒すべき悪なのだろうかというテーマがすでに含まれてるというのに。そういった葛藤が一切ない『三匹のおっさん』の健全すぎる正義こそが恐ろしい。

 批判ばかりでは建設的でも創造的でもありませんので、私が続編エピソードのプロットを考えてあげましょう。
 いまの60、70代が未成年だった昭和30年代は、少年凶悪犯罪が戦後もっとも多かった時期にあたります。この事実を踏まえた社会派でシリアスな内容はいかがでしょうか。
 昭和30年代に、ある少年が遊ぶ金欲しさに強盗殺人を犯し、捕まる。彼はまったく自分の罪を反省も後悔もしていないのだが、少年法の規定により、七年くらいで釈放され社会復帰する。犯罪歴が周囲にバレることはなく、彼はべつの土地で学校を出て仕事に就き家族を持ち、いまや定年退職し、悠々自適の年金暮らし。
 そして彼はいま、三匹のおっさんが住む町の町内会長をやっているのだった。もちろん町の人たちはだれひとりとして町内会長の前歴を知るよしもない。
 しかし、彼に殺された被害者の遺族は恨みを忘れてはいなかった。18歳になる被害者の孫は、ついに祖父母を殺めた犯人の正体と居所を突き止めてしまう。
 彼は祖父母の復讐のため、みなしごとして苦労させられた母の復讐のため、町内会長を殺しにやってくる。その彼の計画をひょんなことから知ってしまった三匹のおっさんは、どう対処するのか。
 おっさんたちの口から、「バカなことはやめなさい、暴力ではなにも解決しない!」なんてセリフをいわせてみたいですね。
「あんたたちが、それをいうのか」と冷笑する少年に、返す言葉がないおっさんたち。少年はさらにたたみ掛ける。
「わかりました。ぼくは殺しをやめることにします。その代わり、あなたがたが町内会長を成敗してください。竹刀とスタンガンと背負い投げであいつをボコボコにしてください」
「でも会長はすでに罪をつぐなってる」
「たった数年の服役でつぐなったといえますか? それに、あなたがたがこれまで私的に成敗した犯罪者たちは、成敗された上に刑事罰も受けてます。だったら会長も二重に罰を受けてもいいはずでは?」

 どうです? 自分で考えといて自画自賛ですけど、このドラマだったら私は見たいなあ。正義はいったいどこにあるのか。だれがどうやって正義を決めるのか。はたしてどんな結末が待っているのか。
 んー、なんか有川浩というよりも、湊かなえテイストのドラマになっちゃってますか。
[ 2014/04/19 22:33 ] おしらせ | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
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