NHKを嫌うネトウヨが好むデマがあります。それは、「NHKは『天安門事件で虐殺はなかった』と報道した」というデマです。



これはネット上ではかなり広まっている話のようで、YouTubeには、都合のいいところ繋げて、「NHKは天安門事件で虐殺はなかったと報道した」とする動画がいくつもアップされています。

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↑「天安門事件はなかったと番組構成を行い国民を欺いてきました」と大嘘をつくYoutubeの動画


他にも、「天安門 NHK」などで検索すると、同様の内容のブログなどが山ほど出てきます。このようなネット工作により、このデマは広がり、ネトウヨ番組『報道特注』でも孫向文が「天安門事件で虐殺はなかったと虚偽報道したNHK」なんて言って、さらにデマを拡散しているようですが、改めて断言しておきます。これはデマです。

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現在はこの番組を私は手元に持っていませんが、かつてどこかの動画サイトで、違法アップロードと思われるますが、この番組を見たことがあります。その際に、はっきりと天安門事件での虐殺に番組は触れていたと記憶しています。また、Youtubeにアップロードされている『天安門事件での虐殺は無かった、~NHKクローズアップ現代の捏造~』などと題した動画でも、NHKの国やキャスターが冒頭で

「この事件で、中国当局は、民主化運動を進めていた学生や市民を武力で排除しました」

「この事件で大勢の死傷者が出ました」


と述べています。NHKが「天安門事件で虐殺はなかった」などと言っていないことは、ここだけ見てもはっきりとしています。


では、なぜ「NHKは天安門事件で虐殺はなかったと捏造報道をした」などという言説が広まってしまったのでしょう。それは、ネットのいつもの伝言ゲームが行われ、無知な自称愛国者の非知性人(いわゆる「ネトウヨ」)の間で広まっていったからなのです。

・『クロ現』HPを見るだけで否定できるデマ


実は、番組HPを見れば、一発でこのデマは否定することができるのです。番組HPにはこのように書かれています。

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4年前の北京・天安門事件のあった3時間は西側のメディアが天安門広場から遠ざけられていて未だに真相は明らかでない。しかしその時現場にいた台湾人とスペイン国営テレビの記者の証言と同テレビの映像によれば、軍の虐殺は長安街ではあったが天安門広場では起こらなかったといえる。その証言と映像を当時事件の取材にあたっていた記者がスタジオで分析し真相に迫る。


ご覧の通り、NHKはHPではっきりと「軍の虐殺」という言葉を使っていますNHKが軍の虐殺を否定した、などというのがデマだというのは、これだけで分かりますね。ご覧の通り、NHKの述べていることは、「西側メディアが天安門広場から遠ざけられていた『空白の3時間』の間、長安街では虐殺はあったが、天安門広場では虐殺はなかった」というものなのです。決して天安門事件で虐殺はなかった」などと言っているのではないのです

・天安門「事件」と天安門「広場」の区別もつかない人たち


では、なぜこんな言説が広まったのか。それは、自分で北京の地図を見もしない無知なうえに、自分が無知なことも自覚しない連中が、「天安門事件」=「天安門広場の事件」と早とちりしているからなのです。


北京の地図をネットで検索してもらえばわかりますが、天安門と長安街と天安門広場の位置関係はこのようになっています。

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「長安」と言うと、日本語の感覚では「街」のように聞こえてしまいますが、実際には幅100メートル、長さ13.4キロもある、片側5車線、計10車線の巨大な目抜き通りです。天安門があり、その長安街をはさんで、天安門広場がある、というのが北京の街の構造です。


天安門広場が有名すぎるので、「天安門=天安門広場」というイメージを持たれている人も多いと思いますが、実際にはそうではありません。天安門事件は、天安門周辺で起きた事件です。有名な「戦車を止めた男」などの映像も、天安門広場ではなく長安街でのものです。

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(↑長安街での写真)

NHKの報道内容は、

 「天安門事件において、広く知られる通り、長安街では虐殺が行われた。

 天安門広場においても、西側メディアが入れなかった『空白の3時間』間、虐殺が行われていたと推測されていたが、実際には広場においては虐殺は行われなかった。」

というものなのです。決して、「天安門事件で虐殺はなかった」などとは言っていないのです。


ネットでは頻繁に伝言ゲームが行われますが、今回の場合は、


「天安門事件の『空白の3時間』において、長安街では軍による虐殺が行われたが、天安門広場での虐殺はなかった」


が一気に短くなって、「天安門事件での虐殺はなかった」となってしまったのです。


本当にこういう人たちは知性を感じさせないですね。長い内容が頭に入りきらないのでしょう。ちなみに、この番組内容はこちらのサイトが詳しく紹介していますので、そちらを参考にしてください。


この絵の人たちの頭の中で何が起きているのか、「マラソン大会に出たくない子供」を想像すればわかりやすいかもしれません。「マラソン大会やりたくないなあ。中止にならないかなあ」と思っているために、「雨が降ったら、明日のマラソン大会は中止」という説明を聞いて、「雨が降ったら」という条件が耳に入らず、「明日のマラソン大会は中止」という箇所だけ聞き取って、大喜びする、という感じです。普段から「NHKは反日親中親韓マスゴミだ。マスゴミは捏造する。真実はネットにある」なんて思ってると、「天安門事件の『空白の3時間』において、天安門広場での虐殺はなかった」という内容が、「天安門事件での虐殺はなかった」という内容として頭に入ってくるのです。


なぜ人は「ネトウヨ」になってしまうのか。自分に都合のいい情報を、自分に都合のいい形で、自分に都合のいい箇所だけ受け入れるからです。自分に都合のいい情報は良く調べもしないで鵜呑みにする一方、自分に都合の悪い情報はフェイクニュース扱いする。これが彼らの思考回路です。


ネットで「NHKは天安門事件で虐殺はなかったと報道した」なんて情報を見て、それを鵜呑みにするような知性では、流言飛語の飛び交う現代のネット社会に対応できません。こんなデマを流す奴も、デマに騙されるやつも、『報道特注』なんて名乗ってデマを吐くネット動画も、信ずるに値する知性を有していないことは言うまでもありませんね。そもそも、当時からリアルタイムに状況を伝えていたNHKが「天安門事件で虐殺はなかった」などと報道するわけがないし、もしそんな報道をしていたら、ネットのアホの間だけでなく、もっと大きな問題になっているはずなんで、まともな知性と常識があれば、こんなうわさはおかしいと気が付くはずですけどね。


「Post-Truth(真実の向こう側)」の時代と言われる昨今、せめて公式HPを見れば確認できる程度のデマには騙されないようにしたいものです。そして、「雨が降ったら明日のマラソン大会は中止」という情報を、「明日のマラソン大会は中止」という内容にしてネットに流すような人が世の中にはゴロゴロいますので、ツイッターだの2ちゃんまとめだのの情報を鵜呑みにすることなく、いったん立ち止まって、情報ソースを確認してみることが大切ですね。伝言ゲームに騙されてはいけません。


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