エ・ランテルの郊外の古ぼけた商館──それが現在の魔法少女マジカル☆ロリータのアジト兼稽古場である。
イビルアイとニニャの二人に新たにアルシェが加入した事はマジカル☆ロリータに亀裂を生む事になった。
「……ニニャ。そこのステップが大きすぎる。……ぶつかりそう」
「……アルシェ様はさすが『元』貴族。庶民の感覚とは違いますね」
「……ああ。セバスさま」
息を合わせた合体魔法などこれでは習得出来そうにない。教官のシズがホワイトボードを叩く。
「……息が合わない。これでは練習しても無理」
セバスもため息をつく。
「……どうもニニャさんとアルシェさんはそりが合わないみたいですね? お二人はこれまでお会いしたことはないはずですが?」
ニニャはアルシェを睨んだままで、対するアルシェは俯いている。
緊迫した空気が支配した部屋が突然の来訪者の訪れで和やかになる。
「……ただいまー!」
「「ただいまー!」」
俯いたままのアルシェに二人の小さな少女が駆け寄る。
「お姉様! ウレイリカがおつかいしたの!」
「違う! クーデリカがおつかいなの!」
買い物袋を抱えたもう一人の少女──ネムがニニャに近づく。
「……ニニャさん。またケンカですか? ダメですよ。それに──」
ネムはぼーとしているイビルアイに指をさす。
「……イビルアイさん。リーダーなんだからしっかりしないとめっ!」
まだ十歳位の少女のネムに叱られてイビルアイはしょんぼりする。
シズが立ちあがり手を叩く。
「……今日のレッスンはおしまい。……もっとチームワークがないと……」
「……」
マジカル☆ロリータは解散の危機を迎えていた。
◆
「……ニニャさん。どうしてアルシェさんと仲良く出来ないのですか? 私の目には貴女が一方的にぶつかっているように見えます」
セバスは優しくニニャに語りかけた。姉のツアレも心配そうに見つめる。
「……貴族は……貴族は許せない」
ニニャが噛み締めた唇に血がにじむ。
無理もない。彼女の家族は姉のツアレも含めて貴族に虐げられてきたのだ。その憎しみは簡単になくなる筈がない。
「……仕方ありませんね。こうなったら取って置きの手を使いますか」
セバスは決心するのだった。
◆
「……なんか元気ないっすね? 可愛い妹の悩みをルプー姉さんが聞いてやるっす」
ナザリック地下大墳墓の第九階層の食堂のテープルに伏せていたシズにルプスレギナが声をかけて来ました。
「……セバス様の魔法少女……解散かも……」
シズはルプスレギナにメンバー同士の不協和音について話しました。
「なんだ。そんな事っすか。簡単っすよ? 魔法少女達に本当のチームワークというものを見せつけてやれば良いっすよ?」
ルプスレギナは胸を張りました。
「ここは頼れる姉のルプーさんにまかせるっす!」
ルプスレギナは張り切って出ていった。
◆
ナザリック地下大墳墓
第十階層玉座の間──
アインズの前にプレアデス──いや、プレイアデスの面々がひざまづく。
「……うむ。お前たちでアイドルグループ活動をしたい、というわけか。……うーむ……」
「アインズ様。どうかお聞きとどけなさいましようわたくしからも伏してお願いいたします」
守護者統括のアルベドも片膝をついてならう。
(……ナーベラルがアイドル活動に忙しくなれば漆黒のモモンの隣はこのわたくし。アルベド……いいえ。『黒き花嫁』アルベルの出番だわ。やがていくつもの冒険を共にした二人は恋に堕ちて……)
「……わかった。許可しよう。……アルベド? どうかしたのか?」
「いえ。なんでもございません。では早速ユリ・アルファをリーダーに、ルプスレギナ、ソリュシャン、ナーベラル、エントマ、シズをメンバーにしたアイドルグループのレッスンを──」
「アインズ様! アイドル活動のリーダーなのですが……ルプスレギナに任せてみようと思います」
ユリがくいっとメガネを人差し指で上げながらアインズに具申する。
「……うむ。ルプスレギナか……」
アインズはルプスレギナのいつになく真剣な表情を見つめた。カルネ村では村人たちとそつなく関係を築いていると聞いている。プレイアデスでも社交性に富んでいる彼女ならばうまくやれそうに思えた。
「……わかった。ではルプスレギナよ。プレイアデスのアイドルグループ活動は任せた。……ふむ。せっかくだから何かグループ名をつけた方が良いかな? ……そうだな。『ニャンニャンメイド隊』なんてどうであろう?」
「ははっ! このルプスレギナ『ニャンニャンメイド隊』をナザリックに恥じないものにいたします!」
ルプスレギナに合わせて他の『ニャンニャンメイド隊』も平伏する。
「……ところでアインズ様。ナーベラルがアイドル活動をするにあたって冒険者“漆黒”のナーベに替わるメンバーを…………」
◆
「……モモン……が、さん。ここが冒険者組合ですか。思ったより小さいですね」
エ・ランテルの冒険者組合で黒いフルフェイスのヘルムを脱ぎ、長い黒髪をすきあげる美女戦士に誰もが見とれていた。
「……ゴホン。アル……アルベルよ。今日はあくまでもお前の冒険者登録だけだ」
「かしこまりましたモモン……が、さん。理解してございます」
アルベルの優雅な身のこなしに男たちの歓声があがる。
「……アルベル様。……と。……ええっと……アルベル様はナーベ様のお姉様……で……モモン様のご友人──」
「──妻です!」「──な!」
◆
マジカル☆ロリータのメンバー、ニニャ、イビルアイ、アルシェはアジトでセバスを待っていた。
「………………」
ニニャとアルシェは気まずそうに視線を合わせようとしない。しばらくすると扉を開けてセバスが入ってきた。
「……今日は皆さんに重大なお知らせがあります。実は──」
セバスが口を開いた瞬間に背後に空間のゆがみが発生する。
「──わら──私が新しいリーダーのマジカル☆ありんすこと──」
〈ゲート〉で登場したのはシャルティア・ブラッドフォールンだった。