月川監督が原作を読んだときに感じたのは「ものすごく面白いけれど、この面白さをどう表現したらいいのか……」という疑問だった。原作者の柳本先生も言っていることだが、この『響』の面白さを説明することは、実はとても難しい。15歳の女子高生が芥川賞と直木賞にダブルノミネートされる話ではあるが、そこに面白さの核があるわけではなく、たどり着くのはやはり響というキャラクター。だからこそ月川監督はクランクイン前に平手ととことん話し、平手が納得のいくまで話すことに徹した。そうやって導き出された面白さを表現する方法は「響の生き様を伝える」その一点だった。物語のなかで、響は相手と向きあうために、時には暴力という方法をとる。それについても「響の視点に立ってみると、それが当然かのように見えてくる。むしろやれって思ってしまう」とキャラクターの力を語る。そもそも月川翔に監督を託した理由のひとつは、『黒崎くんの言いなりになんてならない』『君と100回目の恋』『君の膵臓をたべたい』『となりの怪物くん』『センセイ君主』── 次々と若者の青春映画を監督していること、さらに駆け出しの女優の演技を引き出してきたことも決め手だった。また、月川監督は役者だけでなくスタッフともディスカッションをする。「僕はこうしたいけど、僕はこう思うけど、君はどう思う?」というのが月川監督の口癖だ。意見を交わせる監督であるからこそ、この監督のためにいいアイデアを出したい、いい映画を作りたい── 月川監督はスタッフ&キャスト全員から愛されている。