ちなみにロリコンである   作:善太夫
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第九話◆ふたりはロリータ

「……よく頑張った。もうデビュー戦できるくらいになった……あとはあなた達次第……」

 

 イビルアイとニニャの二人はシズの指導で魔法少女として激しく厳しい特訓を続けてきた。

 

「二人ともお疲れ様。タオルと飲み物持ってきたよ」

 

 かいがいしくネムが世話をする。

 

「……しかし意外でした。シズにこんな知識があったとは……」

 

「……違う。私の知識ではない。……全ては博士のデータベース」

 

 シズの答えにセバスが首肯く。確かにあの至高のお方ならばあり得そうだった。

 

「それではお二人にはこれからマジカル☆ロリータとして頑張っていただきます。よろしいですね?」

 

「「はいっ!」」

 

 

 

 

 王都リ・エスティーゼの人々の表情は暗かった。先日の悪魔の襲撃により行方のしれない人間は数万にもなっていた。

 

 ブレイン・アングラウスはガゼフの家を出てあてもなく歩いていた。

 

「……ん? 騒ぎか。まあ、俺には関係ないな」

 

 往来の中で子供が殴られていた。男は酒ぐせが悪くいわば鼻つまみ者として有名だった。

 

 男の容赦ない拳骨が子供を殴り続けるが誰もが見て見ないふりをしていた。

 

「そこに悪があるかぎり愛の力で打ち倒す! 仮面のマジックキャスター改め正義の魔法少女ロリータピンク☆イビルアイここに見参!」

 

「そこに悪があるかぎり怒りの心でなぎはらう! 復讐のスペルキャスター改め正義の魔法少女ロリータブルー☆ニニャここに見参!」

 

 ブレインは二人のひらひらしたスカートを思わず目で追ってしまう。

 

「……そして同じく……謎のダンディーなモテモテ執事改め執事セバス・チャン!」

 

 優雅な身のこなしで初老の男がポーズをとる。

 

「……ただの村娘のただの妹改めお手伝いネム・エモット!」

 

 さらに少女がポーズをとる。

 

 いつの間にか最初の二人の派手な衣装の少女たちが子供を助けて男をねじ伏せてしまっていた。

 

「──俺の領域に感知しなかっただと? ……ば、馬鹿な?」

 

 ブレインは少女たちをじっと見る。そして思った。

 

 ──強い。間違いなく強い。

 

「……ま、待ってくれ!」

 

 ブレインは思わず叫んでいた。

 

「……俺も……俺も魔法少女にしてくれ! ……俺はもっと強くなりたいんだ!」

 

 

 

 

 

「……お断りします。貴方には魔法少女は無理です」

 

「…………な、何故だ?」

 

 セバスは冷たく答えた。

 

「貴方は魔法少女になるにはいささかお年をお召しになられているようですね」

 

 ブレインはガックリと肩を落とした。

 

「……さて、それでは皆さん帰りましょうか」

 

 セバスに促されてイビルアイたちは道端に停めてあった馬車に乗り込む。イビルアイは久しぶりの王都に名残惜しそうだった。

 

「──待ってください!」

 

 嗄れた少年の声に思わず振り替える。それははイビルアイもよく知っている人物──王女つきの兵士クライムだった。

 

「クライ……」

 

 イビルアイは思わず名前を口にしかけてやめる。今の姿をクライムに見られたくなかった。

 

「……何かご用でしょうか?」

 

 セバスが丁寧に訊ねる。

 

「私を……私を魔法少女にしてください!」

 

 セバスはあごひげに手をやる。

 

「……むう。同じ日に魔法少女の志望者が二人も……さて……どうしたものでしょうか……」

 

 セバスがクライムの瞳を覗きこむ。

 

「一つ質問があります。貴方は何故魔法少女になりたいのですか?」

 

「それは……強くなりたいからです」

 

「……どうして強くなりたいのですか?」

 

 クライムは拳を握りしめる。

 

「……私は強くならないとならないのです。命をくれたあのお方にご恩をお返ししたいのです」

 

 クライムは強く思った。かけがえのないラナー様の為に──

 

「……わかりました。その武器と手を見せていただけますか。……ふむ。これは予備の武器のようですね。ここに『予備用』というシールが貼ってあります。……ほう。鍛練を怠らない、よい拳ですね。……しかし……」

 

 セバスは真剣な顔で告げた。

 

「……どうやら貴方には才能がないようです」

 

 クライムは唇をかむ。

 

「……わかっています。ですが私は──」

 

「……どうしても魔法少女になりたいのですね? ……たとえそれが大切なものを失う事になっても、ですか?」

 

「ハイッ!」

 

 クライムは即答した。

 

「……そうですか。念のためにもう一度訊ねます。……たとえ貴方の大切なものを切り落としてしまう事になっても貴方は魔法少女になりたいのですね?」

 

「ハイッ!」

 

 クライムの意志はかわらないようだった。

 

「……わかりました。では貴方もついてきなさい。名前は?」

 

「クライムです! ありがとうございます!」

 

 クライムが馬車に乗り込もうとした時にブレインがひき止めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 教えてくれ! どうして君は大切なものを切り落としてしまっても大丈夫なんだ? 俺にはそんな覚悟はできない 」

 

 クライムはただ一言だけ答えた。

 

「強くなりたいんです」

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国ヴァランシア宮殿の自室で王女ラナーは友人でもある“蒼の薔薇”のリーダー ラキュースからのメッセージを受けて思わずカップを落とした。

 

「なんですって? そんな……クライムが……」

 

 ラナーは鏡を見る。

 

「……駄目よ。そんな事になってしまうのは駄目。まずは相手がどこに行くのか調べてちょうだい。ティアとティナにはそのまま追跡させて。ラキュース、貴方だけが頼りよ。お願いね」

 

 ──許さない。クライムが魔法少女になるなんて決して許さない。クライムが男ではなくなるなんて許さない。……どんな手を使っても……阻止してやる。








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