ちなみにロリコンである   作:善太夫
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第八話◆魔法少女

 イビルアイはピンク色、ニニャは水色が基調のフリルがたくさんついたミニスカートの衣装にハートがついたペンダントとステッキを装備していた。

 

 モモンの無遠慮な視線に思わず裾をおさえて顔を赤らめる。

 

「……あーゴホン」

 

 モモンは咳払いをしてごまかす。イビルアイとニニャは裾をおさえたまま身体をくねらせた。

 

 モモンの脳裏に『絶対領域ですよモモンガさん!』と親指を立てるペロロンチーノの幻影が浮かぶのをあわてて追い払う。

 

「──あー……少しセバスと二人きりにしてくれないか?」

 

「かしこまりました。モモンさ──ん」

 

 ナーベとイビルアイ、ニニャが部屋を出ていくとアインズは口をひらいた。

 

「……さて、セバスよ。説明してもらおうか」

 

 

 

 

 アインズとセバスが話をしていた隣の部屋ではナーベラル、イビルアイ、ニニャの三人が気まずい時間を過ごしていた。

 

 ナーベラルは冷たい目で二人を眺める。

 

「……あの……」

 

 ニニャがおそるおそる声をかけてきた。

 

「……“森の賢王”の時は……お世話になりました」

 

 ナーベラルは彼女に見おぼえがなかった。彼女が言っているのはおそらくカルネ村に薬草採集に行くンフィーレアの護衛をした任務の事だろうか?

 

 怪訝そうなナーベラルにニニャは勇気を出して話しかけ続ける。

 

「……ニニャです。あの“漆黒の剣”の……当時は訳あって男装していましたが……」

 

「……ああ……そういえば……」

 

 ナーベラルはようやく思い出す。たしか彼らは何者かに殺されたのではなかったか?

 

「…………」

 

 どうしようもなく気まずい沈黙が流れる。

 

「……紅茶のおかわりはいかがですか?」

 

 ナーベラルが無言でうなずくとニニャはキッチンに姿を消した。

 

 ナーベラルはイビルアイの紅い瞳と尖った犬歯に気づく。

 

「……なるほど……アンデッドだったのか……道理でガガンボにしては強いわけだ」

 

 イビルアイは無言だった。

 

「……冒険者はどうした?」

 

 イビルアイが顔をあげた。

 

「……私は愛に生きる! そう決めたのだ」

 

「──な?」

 

 ナーベラルが呆気にとられた。

 

「……私はセバス様に全てを捧げるつもりだ」

 

 イビルアイはゆっくりと宣言した。あ然としているナーベラルにイビルアイは勝ち誇ったように続ける。

 

「残念だったな。さすがの“美姫”も魔法『少女』には無理があるようだ……年齢的にな」

 

「──くっ……」

 

 

 

 

 アインズとセバスは向かい合ってソファに腰をおろす。

 

「……アインズ様。私はかねがね思っていた事がございました」

 

 セバスは遠い目をした。

 

「…………私は魔法少女になりたい、と」

 

「!!!」

 

 アインズはこれまでにない衝撃をうけた。

 

 ──たっちさん! たっちさん!

 

 こんな時にすぐ沈静化してくれるアンデッドの身体が有り難かった。でなければショック死していたかもしれない。

 

 それ位激しい衝撃だった。

 

 セバスは何事もなかったかのように話を続ける。

 

「……私の創造主のたっち・みーさんは正義のヒーローでした。私にとって魔法少女は正義の味方の一つのリスペクトでありました。しかしながら私は魔法少女にはなれません」

 

(──まあ男だからな)

 

 アインズは思わず心の中でつぶやく。

 

 セバスは哀しそうな顔で言った。

 

「残念ながら私の年齢では魔法少女になれないのでございます」

 

 アインズは慎重に言葉をえらぶ。

 

「……うむ。セバスよ。お前の魔法少女へのこだわりはわかった。つまりはお前自身の果たせぬ夢をニニャ達でかなえようというのだな?」

 

「はい」

 

 アインズは冷静に考える。今回セバスが作った魔法少女の戦隊をナザリックの評判を上げるための広告塔に出来るのではないだろうか?

 

 そもそもこの世界ではマジックキャスターの戦隊活動というものがない。さらに魔法『少女』だ。話題には事欠かないだろう。

 

「……よかろう。セバスよ。魔法少女の戦隊をつくりナザリックの威光をひろめる活動をおこなう事を許可しよう。……ところでいささか戦力が心もとなくはないか? どうせならばせめてプレアデスから──」

 

「──申し訳ございませんが現地から少女だけを集めてゆきたく存じます。なんでも世の中には一九でまだ魔法少女を名乗る輩もいるようですが……このセバスの目が黒い内は認めない所存にございます」

 

(──あ……あったな。そんな話。誰が言っていたんだっけな? ペロロンさん? ペロロンさんだったかな? で……『十八越えたら少女ではない』とかいう結論になったのだっけ? 懐かしいな)

 

「……あーゴホン。わかった。……他に装備や衣装など私も出来るだけ協力しよう。……うむ。そうだな……イビルアイの件はエントマに遺恨なきよう私から話しておこう」

 

「ありがとうございます」

 

 アインズはふと思い出す。

 

「……そういえばシャルティアならば……シャルティアならば魔法少女として適任ではないのか?」

 

 セバスは首をふる。

 

「申し訳ございません。アインズ様。実はかのイビルアイ……彼女は実は吸血姫でございまして──」

 

 セバスが顔をあげる。

 

「シャルティア様とはキャラクターがかぶってしまうのでございます。ですが──」

 

 セバスはアインズを正面から熱く見つめる。

 

「……いつか時が熟したならばシャルティア様のお力をお借りしたく思います」

 

 

 

 

 

 セバスは責任の重さを感じていた。アインズより正式に魔法少女戦隊をプロジェクトとして進める許可を得た現在、なんとしても成功させなくてはならないからだ。

 

「……しかし……困りましたね」

 

 セバスは魔法少女に対する憧れを持っていたが、実際の知識はばく然としたものに過ぎない。たまにたっち・みーが話していたセーラー●ーンやプリ●ュアといった『伝説の魔法少女戦隊』やリリ●ルなんとかやカード使いのさ●ら等のボンヤリとしたイメージしかない。

 

 ──そういえば……悪を倒し正義を為す、正義のヒーローの王道と助け合う仲間同士の友情がモチーフだとたっち・みー様は熱く語っていたものでした──思わずセバスの口もとに笑みがこぼれる。

 

 常日頃感情をあらわにしなかった至高のお方の数少ない子供っぽい一面があらわれた一瞬だった。だからこそセバスは憧れたのかもしれない。魔法少女という存在に。

 

「……どなたか詳しそうなお方がいれば良いのですが……ここはやはり──」

 

 セバスはナザリック地下大墳墓の第二階層に向かう事にした。

 

 

 

 

「……魔法少女、でありんすか? 確かに私はペロロンチーノ様から聞いた事がありんす」

 

 シャルティアは得意気に話しはじめた。

 

「……いろんな魔法少女がありんすが大概学校とやらに通っていんす。魔法少女だとクラスメイトにばれてしまったらおしまいになる事もあると聞いた覚えがありんすね。……敵は強く魔法少女の服をビリビリに引き裂いてしまうでありんして……それに必ず触手が出てくるでありんす。触手がヌメヌメといろんな所に入り込んで──」

 

「ありがとうございました。充分参考になりました」

 

 セバスはシャルティアの話を途中でさえぎると丁寧にお辞儀をして屍蝋玄室を後にした。

 

 しばらく歩いてセバスはため息をつく。

 

「むう。シャルティア様の話はすこしばかり私のイメージする魔法少女とは異なりますね。……他に魔法少女をご存じそうな方は……そうですね。ぶくぶく茶釜様なら『せいゆう』なるお仕事で接点があるかもしれませんね」

 

 セバスは第六階層にアウラを訪ねることにした。

 

 

 

 

「……魔法少女? うーん……わからないなぁ。マーレは知ってる?」

 

「……すみません。あの、僕も聞いた事はありません」

 

 ダークエルフの双子は残念ながら心当たりがないようだった。

 

「やっぱりさ、魔法少女っていうくらいだから魔法が使える女の子って事だよね。あたしには当てはまらないけどマーレならぴったりじゃないかな?」

 

「お姉ちゃん僕は女の子じゃないよう?」

 

 セバスが二人に礼を言って立ち去ろうとした時に背後から声がした。

 

「……魔法少女……知ってる。教えてあげてもかまわない」

 

 それはモコモコでフワフワな魔獣に抱きついていた少女──CZ2128 シーゼットニイチニハチ ・Δ──プレアデスの一人シズ・デルタだった。








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