

- 柳本
- 自分が原作を書いていて物語は知っているはずなのに、響は次に何をするんだろう?と予測がつかなくて面白かったです。一番笑ったのは、響にとっては受賞式よりも凛夏との仲直りのほうが大事だというシーン。
- 月川
- そのときの響はどんな顔をしているのかを決めるにあたって、平手さんと原作を読み返しました。漫画を辿ってみると、響は緊張しているんですよね。賞には無関心なのに、凛夏との仲直りは緊張していて、ちょっともじもじしている。
- 柳本
- 可愛らしかったです。
- 月川
- クレイジーなところだけじゃない、そういう可愛らしさを出したかったんです。
- 柳本
- 可愛かったし、格好良かったです。最初から最後まで。
- 月川
- 平手さんが原作を読んだ感想が「響は格好いい!」だったので、それは目指していました。
- 柳本
- ただ、凛夏と山本に対する残酷さもあって。才能の反面には残酷さが必ずある。映画では両方の立場を描いていますが、その人がどれだけ思い入れがあるかどうかは、作品を読む人にも作品の評価にも関係なかったりするものなので。
- 月川
- そういう意味では、山本のように死ぬ気で人生をかけて小説を書いているってすごいですよね。
- 柳本
- さまざまですよね。それから平手さんと響はリンクするところがたくさんあるように見えました。現役高校生であることも大きいですが、キャラクターとしての違和感がまったくなかった。
- 月川
- 違和感、なかったですね。最初に会ったときは平手友梨奈を演じているように見えたのが、撮影に入ってからは、響でいることの方が、なんだか自然体でしたから。
- 柳本
- 特に動物園のシーンの響はすごく自然体、というか素に見えました。
- 月川
- 動物園のときくらいは笑いたいって本人が言ったんです。響はずっと大人と戦っているけれど、高校生の時間もあるはずですよね、高校生ですよねって。
- 柳本
- 自分を偽らないキャラクターですから、カワイイものがあったらカワイイと思うだろうし、決して笑わないキャラクターじゃない。自分の部屋で読書してくつろぐシーンもリラックスしていましたね。
- 月川
- そういう可愛らしさは残していこうと決めていました。好きな作家に握手をしてもらって感激するとか、良いものは良いと認めるシーンを取り入れていきました。そういうシーンを入れないと自分よがりの人になってしまう。派手な(暴力的な)エピソードを繋げていくとモンスターみたいに見えてしまうので(笑)。
- 柳本
- 可愛かったです。ひとつ聞きたかったのは、バー蟹工船での鬼島との「えっ?」のやりとり、あれはアドリブですか。
- 月川
- アドリブです。段取りをしているときに、平手さんがどうも納得いかない感じで現場をうろうろしていたのでどうしたのか聞くと、原作にある、言っちゃいけないことだったの?というあの感じをどこかに出せないかなと考えていました。そんなふうに彼女が何か足りないなと感じているときは、いつも原作に立ち返って、足りないものを探し出すんです。このシーンのなかで描いていないことはないのかと探す。つまみのナッツを食べるのも平手さんのアドリブでした。
- 柳本
- 響なのか平手友梨奈なのか、本当に素ですね。
- 月川
- 今回、平手さんに対する演出は、演技論というよりもキャラクター論でした。台本の読み合わせをしたとき、自分の言葉じゃないと感じると、どんどん声が聞こえなくなっていくんです。そういうときは何に納得できていないのか、徹底的に話し合いました。
- 柳本
- 圧倒的な才能を持っている唯一無二の存在であるけれど、普通の15歳の女の子ですからね。僕自身、変わった子を描いているつもりは全然ありませんでしたから。
- 月川
- 平手さんが納得するまでディスカッション、キャラクターについて思考する作業でした。
- 柳本
- でも、たいしたものですね。自分の中でなにがしっくりくるのかこないのかは、実は判断が難しい。僕は演技や演出については分からないですが、たとえば新人賞の授賞式で田中をパイプ椅子で殴るシーン、あそこはサッと行ってほしいなと思っていたら本当にサッと行ってくれて……。
- 月川
- 普通は、ためらったり感情が動いたような芝居をしがちですが、平手さんは何とも言えない間で演じるんです。あのシーンも本当にサッと行きましたね。
- 柳本
- ちゃんとキャラクターを分かっているんですね。嬉しいです。
- 月川
- なので今回は怒った瞬間、感情の動きを示すための画は撮っていないんですよ。それを入れると響らしさがなくなってしまうので、一連で撮影しています。
- 柳本
- たしかに記者の矢野の家に行くときも、ドンッと蹴って、そのままドスドス入っていきましたね。
- 月川
- でも靴は脱ぐ(笑)。動物園で涼太郎が響を評して言う「ルールは破るけどマナーは守る響」だったら、ここで靴は脱ぐよねと。
- 柳本
- 大人を足蹴りしても畳の上を靴であがるような子じゃないですからね(笑)。圧倒的な天才だけど、普通の日本の可愛らしい15歳の女の子、それがしっかりと描かれていました。本当に平手さんに響を演じてもらえて大正解でした。
- 月川
- もう他は考えられないです。そもそも響=平手さんだと思ったのは、どのタイミングだったんですか。
- 柳本
- 最初に平手さんを見たのは欅坂46の「サイレントマジョリティー」のPVでした。あ、響がいる!という感じでしたね。基本的に、僕はパッと見てピンッときたことが正解だと思っているので、平手さんを見たときに本当にピンッときたんです。響を実写化するなら平手さんだなと。唯一の懸念は背が高いこと。というのもこの物語は、小柄な響が自分よりも大きな相手を倒すところがエンタメとしての見どころになっているので、そこだけちょっと……と思っていたら、背の高いキャストが揃っていて驚きました。
- 月川
- タカヤを演じる条件は「背の高い」人でした。
- 柳本
- 山本役の小栗さんも背が高いですし。
- 月川
- 平手さん自身ずっと気にしていたのは身長なんです。ふみ役の北川さんより背が高いので、私デカくないですか、身長低くなりたいなぁって。
- 柳本
- そこまで作品の意図を汲み取ってもらえて嬉しいです。あと、海水浴のシーンで砂山から出ている響の足が動くのが可愛かったです。
- 月川
- それは本人のクセらしいですよ(笑)。