ちなみにロリコンである   作:善太夫
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第六話◆恋する吸血姫

 アインズはアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”のモモンとしてある貴族からの依頼で王都リ・エスティーゼに来ていた。

 

 犯罪組織の壊滅という隠された任務の為、ナーベラルに〈フライ〉を使わせて上空を移動していると目的の場所で何ものかが戦っているのを見かけた。

 

「よし! ナーベよ。あそこに私を降ろせ!」

 

「はい。モモンさ──ん」

 

 地面に降り立ったモモンは両手にグレートソードを構えて辺りを見回した。

 

「さて──私の相手はどちらなのかな?」

 

 次の瞬間モモン──アインズの思考が停止する。

 

 ──セバスとデミウルゴス? ドユコト?

 

 アインズはてっきり蒼の薔薇と八本指の幹部が激しい戦いをしていると思って乱入したのだった。それがよりにもよってナザリックのNPC同士の戦いだったとは……

 

 セバスの後ろに金髪の少女が必死に叫んでいた。ふと少女の視線がアインズと合う。

 

「お会いしたことはないが“漆黒”のモモン殿とお見受けする。私は王国アダマンタイト冒険者“蒼の薔薇”のイビルアイだ。頼む。セバス様に助力を願いたい! 一緒にヤルダバオトを倒してくれ!」

 

 アインズはいろいろと驚かされる。まずこの少女がアダマンタイト級冒険者だという事、そして何故かセバスと知り合いらしい事。

 

 アインズはセバスとデミウルゴスの表情を盗み見る。

 

「わかった。ではセバスさんに力を貸そう。いくぞデ──デーモン!」

 

 セバスとモモンを相手にしながらもヤルダバオトは強かった。イビルアイの握りしめる手に力がはいる。

 

 キンキンキンキンキキンキン!

 

 悪魔は鋭い爪、老執事は拳、漆黒の戦士は両手の大剣で激しく撃ち合う。

 

 キンキンキンキンキキンキン!

 

 悪魔が後ろに下がる。

 

「……二対一ではいささか不利ですね。今日の所はお二方に勝ちをゆずりましょう」

 

 大袈裟な手振りで挨拶をすると悪魔は〈ゲート〉を発動して消えた。

 

「……セバスさま!」

 

 セバスにイビルアイが抱きつく。セバスは優しくイビルアイの腰のあたりを抱いた。

 

 アインズの脳裏に『ちなみにロリコンである』の一文が浮かんで消える。

 

「──ゴホン。ところでいったい何があったのかね?」

 

 アインズの問いかけにイビルアイが答える。彼女は虫のメイドとの戦いとヤルダバオトの登場までの経緯を話した。

 

「その虫の──」

 

「──貴女は虫のメイドを殺したのですか!?」

 

 アインズの言葉を遮ってセバスが叫ぶ。

 

 セバスの激しい怒りを感じてイビルアイは泣きそうになる。

 

「貴女は、虫のメイドを殺したのですか?」

 

 セバスはやや怒りを抑えた声で改めてイビルアイに問いかける。

 

「…………いい……え。……とどめはさせませんでした」

 

 セバスは安堵するかのように目を閉じる。

 

 イビルアイの目からは涙が溢れてきた。

 

「……なぜ泣くのです?」

 

「……わがりまぜん」

 

 イビルアイはセバスにすがって泣いた。何が悲しかったのかわからないが涙は次々にあふれてきた。

 

 確実な事はイビルアイがセバスに恋しているという事。そしてなぜか虫のメイドの件でセバスから憎しみに近い感情を向けられたという事。

 

 イビルアイは自分の想いとセバスが自分に向ける思いの違いに不安を感じ、それが思いがけない感情の爆発となったのだった。

 

 いつしか雨がポツポツと降りだしてきた。

 

 イビルアイは決してかなう事のない恋に墜ちていた。

 

「モモンさ──ん。これはいったい?」

 

 ナーベラルの言葉にモモン──アインズは黙って首を振る。

 

 イビルアイは鼻をクスンクスン鳴らしながらセバスの胸に顔を埋め続けるのだった。

 

 

 

 

 王都リ・エスティーゼでも一番の宿屋──ヤルダバオト撃退に王家がセバスの宿泊に提供した──を訪れる一人の少女がいた。

 

 普段着けている仮面を外し金髪と紅い瞳の少女はセバスが宿泊している部屋の前に立つ。

 

 ためらいがちなノックにドアが開けられ、イビルアイは中に入る。

 

「……その……約束だからな。セバス様の望みなら……なんでもする覚悟をしてきた」

 

 セバスはしばし考え込む。やがて静かに命令した。

 

「……わかりました。では……まず着ているものを脱いでいただけますか? そう、全部です」








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