ちなみにロリコンである 作:善太夫
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リ・エスティーゼ王国 王都リ・エスティーゼ。
その日はとても慌ただしかった。
「……それではこれから私はアウラお嬢様と一緒に挨拶回りと小麦の買い付けに行ってまいります。マーレお嬢様はニニャとお留守番をお願いします」
「……は、はい。わかりました。セバスさんも、あの……お姉ちゃんも気をつけてください」
セバスは馬車を走らせる。アウラは馬車の中で退屈そうだ。
「……やっぱりこの格好だと動きにくいんだよね。それにさ、あたしよりマーレの方が似合うと思うんだ。こういうヒラヒラの服ってさ」
口を尖らせるアウラにセバスは馭者席から声をかける。
「そんな事はありません。アウラ様も大変美しくかわいいですよ。……そうそう、この間アインズ様の膝の上にチョコンと腰かけられた様子のアウラ様とマーレ様は本当に可愛らしかったです」
「……えー? セバスって見ていたの? どうやって?」
セバスは涼しげに答えた。
「……いえ、たまたま扉の隙間から見えただけですよ。けっして〈リモート・ビューイング〉などは使っておりません」
「……ふーん」
どんよりとした空を見上げながらセバスは思った。──早く用事を済ませた方が良さそうですね、と。
◆
「いささか遅くなってしまいました。マーレお嬢様、ニニャ、只今戻りました……これは?」
セバスは館の内部の変化に気づく。
「……お帰りなさい。セバスさんたちが出かけた後に強盗の人たちが……あの、来たので殴り倒しちゃったんです」
「マーレ様。そうでしたか。……で、その者たちはどうなさいました?」
マーレは気弱そうにもじもじしながら答える。
「……あの、デミウルゴスさんが……丁度よい使い道があるって……あの、八本指の拠点を案内させるって……」
八本指の名前を聞いてセバスの顔が厳しくなる。
「……八本指の手の者でしたか。……狙いはツアレですね。しかし──」
「……バッカだね。八本指って。ツアレってもうここにいないんだし。そういえばデミウルゴスが何か計画していたよね? あたしたちが引き上げた後でゲヘナだっけ?」
アウラがのんびりとした口調で話に加わる。セバスたちはこの日リ・エスティーゼを去る為、ゲヘナという計画の詳細を知らされていなかった。
「……八本指といえば個人的に挨拶をしておきたい人が何人かおりまして……アウラ様マーレ様は先にナザリックへ戻って頂けませんか? 私も用事を済ませたら戻ります」
アウラとマーレの許しを得たセバスは暮れかかる街に出ていった。
◆
「──おまぇがあああああ! いうなああああ! うわぁあぁあああああ‼」
イビルアイの咆哮がひびく。対するは仮面の悪魔──ヤルダバオト。
「悪魔の諸相:豪魔の巨腕」
巨大化した悪魔の腕がイビルアイを壁に叩きつける。
「……くっ! 悪魔め!」
イビルアイは倒れたまま動かないガカーランとティアを振り返り唇をかむ。このままでは誰も助からないかもしれない。
イビルアイはヨロヨロと立ち上がると覚悟を決める。
「いくぞ!」
と、次の瞬間壁に大きな穴が開き白髪の紳士が現れた。
「……さて、どなたか私の助けがおいりようでしょうか?」
◆
セバスはイビルアイに近づく。
「……見たところ貴女はまだ少女のようですが……」
セバスはいきなりイビルアイの仮面を外す。とっさの事にイビルアイは立ちすくむだけだった。
「──な、何を?」
「……美しい。せっかくの美しい顔ですから……仮面で隠してしまうのは惜しいですね」
セバスの言葉にイビルアイの頬が紅くそまる。
「……失礼しました。私はただの通りすがり。セバス・チャンと申します。どうかセバスとお呼びください」
セバスは洗練された動作でイビルアイに会釈する。
「……セバス……さま。お力を貸して貰えないか? 私は王国のアダマンタイト冒険者“蒼の薔薇”のイビルアイだ」
セバスの目が光る。
「一つお伺いしますが……蒼の薔薇には十代の年若き乙女は他に何人かいらっしゃいますか?」
「……リーダーのラキュースならまだ十九だったはずだが……」
セバスが眉をひそめる。
「……むう。どうやら私の質問が悪かったようですね。……十二から十七までの少女、はいますか?」
イビルアイの瞳が絶望にそまる。セバスは軽くため息をつく。
「……わかりました。仕方ありません。では貴女が『何でもします』とお約束下さい。貴女の全てを頂くかわりにあの者から貴女を救って差し上げましょう」
イビルアイが頷くとセバスはヤルダバオトに向き直る。
「お待たせいたしました。それではこの私があなた様のお相手をさせて頂きます」
◆
激しい戦闘を認めたアインズはナーベラルに自らをその戦闘の真ん中に降ろさせる。
凄まじい轟音と共に立ち上がったアインズ──“漆黒”のモモンは叫んだ。
「さて──私の相手はどちらなのかな?」
次の瞬間アインズは凍りつく。戦っていたのがセバスとデミウルゴスだったからだ。
◆
まるで神話の世界のようなセバスとヤルダバオトの戦いにイビルアイの胸が高鳴る。二百五十年動いていない心臓が激しく鼓動するように感じた。
もしも願い事がひとつ叶うならば──
「……がんばれ、せばすさま」
乙女は祈った。