ちなみにロリコンである   作:善太夫
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第三話◆拾いますか? 拾いませんか?

 リ・エスティーゼ王国王都リ・エスティーゼ。

 

 魔術師協会を出たセバスは裏路地を急ぐ。

 

「……早く帰ってマーレお嬢様の入浴のお手伝いをしなくては。マーレお嬢様の肌を隅から隅まで磨く事も執事の大切な勤め。けっして不純な下心など──」

 

 セバスは急に立ち止まると前屈みの姿勢をとる。

 

「……むう。私とした事が……こんなときは確かペロロンチーノ様は──」

 

 セバスは口の中でサンテンイチヨンから始まる呪文を小さく唱えだす。かつてナザリックの第六階層を訪れた至高の御方がマーレのいわゆる絶対領域に感情を高ぶらせた時の事を思い出しながら──

 

「……89793238462643383279502884197169937510…………」

 

 セバスはようやく汗をぬぐいながら腰をのばす。

 

「……ふう。危ない所でした。それにしても勿体ないですね。マーレ様が男だというのは……ふむ。今回お嬢様役はアウラ様にお願いすべきでしたでしょうか? 悩みますね」

 

 セバスは爽やかな笑みを浮かべる。

 

「……よい考えを思いつきました。お二人を双子のお嬢様という事に……是非ともアインズ様にお願いしてみるとしますか」

 

 急にセバスの足が止まる。目が鋭くなる。

 

 道の片隅に置かれた布袋から女性の細い腕がのび、セバスのズボンの裾をつかんでいた。

 

 セバスは布袋の女性を抱き起こす。と、前の店から大柄の男があらわれてセバスを咎める。

 

「おい! 何をしている?」

 

 セバスは男を無視して女性に話しかける。

 

「……貴女は助けてほしいですか? ふむ。わかりました。それでは大切な質問をします。よいですね?」

 

 女性がかすかに頷くのをみてセバスが尋ねた。

 

「貴女の年齢はいくつですか?」

 

「……に──」

 

 女性の唇にセバスが指をあてる。

 

「……大切な質問です。そして私には聞きたくない数字があります。よくお考えになった上でお答えください」

 

 改めて女性──ツアレの唇がうごいた。

 

「…………じゅう……く……」

 

 セバスが無言で女性の唇を押さえる。

 

「…………じゅう……は──」

 

 またしても女性の唇はセバスに閉ざされてしまった。

 

「…………じゅう……な……な……?」

 

 ようやくセバスが微笑んだ。

 

「……十七ですか。実に素晴らしい。貴女はまだ十八になっていない事を神に感謝すべきですね。……何故なら十八はもはや女。美少女と呼ぶには相応しくはありません」

 

 ツアレはうすれゆく意識の中で神に感謝するのだった。

 

 

 

 

「……えっと、あの、セバス……さん? ……その女のひとはいったい……」

 

 リ・エスティーゼにセバスたちが仮の拠点として借りた商館にセバスが帰ってきたのは夕方だった。

 

 胸元にレースの飾りをあしらった裾の短いパーティドレスを着たマーレはツアレの姿に動揺する。

 

「マーレお嬢様。こちらの少女は……拾いました」

 

 マーレはふとお姉ちゃんなら『少女』という言葉に反応するんじゃないかな、と思った。

 

「……ええっと。じゃあ、アインズ様にお知らせして──」

 

「──お願いします。ちょうど私もアインズ様にお願いしたい事がございまして……」

 

 マーレは〈メッセージ〉を発動させる。そしてリ・エスティーゼにアウラとペストーニャが送られる事になるのだった。

 

 

 

 かつてユグドラシルというゲーム世界が存在した頃、ギルド アインズ・ウール・ゴウンの古株メンバー、ペロロンチーノは憤っていた。

 

「……リア充死ね! クッソー……」

 

「おや? ペロロンチーノさん、どうかしましたか?」

 

 ペロロンチーノが声に振り返ると山羊の頭をした悪魔が手を振っていた。

 

「ウルベルトさん!」

 

 ペロロンチーノはたまった鬱憤を同じギルドメンバーのウルベルトにぶちまけた。お互い極端な性癖の為か、リアル世界で異性に縁がない二人は互いに共感しあえた。

 

 ふと、ウルベルトの瞳が紅く妖しく光る。

 

「ペロロンさん……そういえばウチのギルドにも一人リア充がいましたよね? そう……たっち・みーですよ。彼が大切にしているNPCにちょっといたずらしませんか?」

 

 思わず息をのんだペロロンチーノに悪魔がさらに囁いた。

 

「知っていましたか? 円卓の間に飾ってあるあのギルド武器を使えばNPCの設定を変えられるんですよ?」

 

 かくしてセバス・チャンの設定に『ちなみにロリコンである』という一文が誰知らず追加されたのだった。

 

 

 

 

「処置は終わりました……わん」

 

「ご苦労様でした、ペストーニャ。──」

 

 ベッドに横たわる全裸のツアレを一瞥するとセバスは続ける。

 

「──それからすみませんが下の毛をそっておいて頂けますか」

 

 ペストーニャは頷くと作業にかかる。部屋の外に出たセバスはアインズに頭を下げた。

 

「……この度はアインズ様じきじきにお出まし頂きましてありがとうございました」

 

 アインズはソファに座ったまま片手をあげてセバスを制する。

 

「……ツアレ……ツアレニーニャ・ベイロンといったな? あの女」

 

「……はい。さようでございます」

 

 アインズは空間から一冊のノートを取り出した。

 

「……私はな、セバス。恩には恩でかえすべきだと考えているのだ。あのツアレの妹にはかつて世話になる事があってな……」

 

 アインズはふと、ニニャの事を思いだしセバスに語りだす。普段のアインズならアルベドやプレアデスの嫉妬をおそれて話さない事だったが、男同士だった為、かなり詳しく話すのだった。

 

 やがてニニャが“漆黒の剣”のメンバー共々殺されたという話になるとセバスが叫んだ。

 

「……なんと勿体ない! 年若き乙女が、しかも男装で正体を隠したまま散るなど……実に勿体ない!」

 

 あ然とするアインズにセバスは更に詰め寄る。

 

「……アインズ様! そのニニャさんを復活させましょう! 是非しましょう! 恩をかえすなら本人にしなくてどうするというのでしょうか!」

 

 アインズはセバスの勢いに圧倒されてしまうのだった。








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