さよなら、ピラルクー。あなごの話 ピラルクー。 世界最大の淡水魚。ブラジルに今も生息する古代魚の名前。 えがおドラミでの諸田コウのステージネーム。 さよなら、ピラルクー。 自由に、音楽を奏でてください。 1999年3月4日、新宿JAM。 ライブを終えた廣川が、客席にいる僕のところにやってきました。 その日のライブは僕にとって2回目のえがおドラミ体験でした。 すこし前まで体調不調が心配されていたとは思えないくらい諸田のプレイは安定して、伸びやかな音を奏で,廣川のドラムはいつもに増して心地よく、僕にとっても大変満足のいくライブでした。 ライブの感想を手短に話すと、廣川は楽屋に戻り、諸田を連れて再び僕のところにやってきました。 以前廣川にかりた諸田のソロアルバム「生∞死」を僕が気に入っていることを知っていて、わざわざ呼んでくれたのでしょう。 ライブの感想や、僕は北浦和に越してきたこと(諸田は南浦和在住)などとりとめのない話を僕らはしました。 いつもの頭頂部で長くのばした髪の毛を振り乱すアクションがまた見たかったな、というと、彼はかぶっている帽子をいきなり脱いで、長くのばした髪の毛を顔の前に垂らして見せてくれました。 おお本物だ、と喜ぶ僕を見ながら、彼はこういいました。 「これはあなごっていうんだよ。」 そういうと、顔をしわくちゃにしながら無邪気な笑顔を彼は見せたのでした。 1999年3月11日。渋谷屋根裏。 その日の諸田は、いつもは後ろでまとめている髪の毛・あなごを目の前に垂らして編み込みをしていました。 ライブがはねて、帰り際に出口で遊んでいた諸田に挨拶をすると彼は、うれしそうな顔をして、彼はこういいました。 「出したよーあなご。」 後日その話をしたところ、廣川は笑いながらこういいました。 「そういえば約束だから、っていってたよ」 そして、その屋根裏でのライブが、僕の最後に見た諸田コウとなってしまいました。 ほんの小さな出来事ですが、何故か僕はその時のことを思い出すと、静かな、優しい気持ちになるのです。 |